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「ファム・ファタール」と呼んで良くてよ
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誰も彼もがその誕生を祝福した。
雪のように白い肌、血のように赤い唇と頬、黒檀のような黒髪。
そう、まるで童話の姫のごとく、娘は美しく育った。
かの童話になぞらえて、人々は娘を白雪の君、あるいは、物語の君と呼んだ。
本当に美しい娘だった。
けれども、私は恐ろしくてたまらなかった。
小鳥と戯れる姿を見つける度、メイドと話している姿を見る度、私は娘を叱りつけて家事を命じた。
部屋に閉じ込めておこうとしたこともある。けれどもいつの間にか娘は部屋を抜け出している。
そうして恐怖に固まった私を見て、娘は微笑むのだ。
「あら、お母さま。ごきげんよう!どうなさいましたの?」
私は狩人を呼び寄せて娘を殺すよう命じた。
けれども、狩人は娘を殺してはいなかった。
この男も、娘の毒牙にかかっていた。
ああ、早く娘を探さなければ。
山を7つ超え、都へ入った。
「……どういうこと?」
女の姿がないのだ。どうしたことかと若い男をつかまえて尋ねるも、返答がおかしい。これは話にならないと老人を捕まえ、金を幾ばくが握らせてやっと私は事態を把握した。
「これはどういうことです。何故この街に……この国には女がいないのですか」
「……王子が連れてきた女が、皆……殺してしまいました」
老人は震えながらしゃくりあげた。
「老人も、若い女も、子供も。女は自分だけでいいのだと……」
妻も、娘も、孫も。そう言って老人は項垂れた。
「女たちは国から逃げて行きました。逃げられなかった女たちが、明日処刑されます。若い男たちは、皆あの女の言いなりです。あの女は……魔女だ」
誰のことを言っているのか、私は分かってしまった。それでも、信じたくはないと思っている私がいる。
「あんたも逃げた方がいい。悪いことは言いません。早く……」
私は頷いた。けれど、逃げる訳にはいかない。
あの子に違いない。
止めなければならない。私は、母なのだから。
娘は美しい子供だった。
けれども、幼い頃から残酷だった。
女と分かるもの全てに危害を加えた。
はじめは虫だった。
次は小動物。
そうして、最後はメイドに手を出した。幸い私がすぐ止めに入ったこともあり、メイドは大怪我をしたものの、命に別状はなかった。
男たちは、夫も含めて誰も信じなかった。
子供の美貌に嫉妬する醜い女たち。彼らには私たちのことがそう見えていた。娘が何か吹き込んだのかもしれない。
気づけば対立構造が出来上がっていた。
私は嫌われ者でもいい。けれども使用人たちを守らねばならなかった。彼女たちが生きていくための職を奪う訳にはいかない。だから、耐え続けた。
自分で手を下すべきだったのかも知れない。
けれども、私が直接手を下し、失敗すれば何が起きるか分からない。だから無関係なものを選び、命じたのにあの短時間で篭絡されてしまっていた。
涙が零れた。
私は育て方を間違えたのだろうか。
何が悪かったのだろう。
どうして娘は──。
やっとたどり着いた処刑場は酷い有様だった。
肉の焼ける匂いと、ぶすぶすと立ち込める煙で五感が鈍る。
上座に娘が座っていた。
「おかあさま!来てくださったのね!またお会いできて嬉しいですわ」
「……あなたは、自分が何をしているのか分かっているの?」
「なにを……?わたしは、愛されたいだけですわ。そのために、邪魔なものを始末しただけ」
さらりとそう言い放って、娘は愛おしげに侍らせた男たちの頬を撫でた。
「この人でなし……!あなたは悪魔よ!」
思わず罵ると、娘は艶やかに笑った。
そんなつまらない名前で呼ばないで。
「ファム・ファタール。そう呼んで良くてよ?」
焼けた鉄の靴を履いて踊り、泣き叫ぶ女たちを見て、娘はけらけらと笑った。
雪のように白い肌、血のように赤い唇と頬、黒檀のような黒髪。
そう、まるで童話の姫のごとく、娘は美しく育った。
かの童話になぞらえて、人々は娘を白雪の君、あるいは、物語の君と呼んだ。
本当に美しい娘だった。
けれども、私は恐ろしくてたまらなかった。
小鳥と戯れる姿を見つける度、メイドと話している姿を見る度、私は娘を叱りつけて家事を命じた。
部屋に閉じ込めておこうとしたこともある。けれどもいつの間にか娘は部屋を抜け出している。
そうして恐怖に固まった私を見て、娘は微笑むのだ。
「あら、お母さま。ごきげんよう!どうなさいましたの?」
私は狩人を呼び寄せて娘を殺すよう命じた。
けれども、狩人は娘を殺してはいなかった。
この男も、娘の毒牙にかかっていた。
ああ、早く娘を探さなければ。
山を7つ超え、都へ入った。
「……どういうこと?」
女の姿がないのだ。どうしたことかと若い男をつかまえて尋ねるも、返答がおかしい。これは話にならないと老人を捕まえ、金を幾ばくが握らせてやっと私は事態を把握した。
「これはどういうことです。何故この街に……この国には女がいないのですか」
「……王子が連れてきた女が、皆……殺してしまいました」
老人は震えながらしゃくりあげた。
「老人も、若い女も、子供も。女は自分だけでいいのだと……」
妻も、娘も、孫も。そう言って老人は項垂れた。
「女たちは国から逃げて行きました。逃げられなかった女たちが、明日処刑されます。若い男たちは、皆あの女の言いなりです。あの女は……魔女だ」
誰のことを言っているのか、私は分かってしまった。それでも、信じたくはないと思っている私がいる。
「あんたも逃げた方がいい。悪いことは言いません。早く……」
私は頷いた。けれど、逃げる訳にはいかない。
あの子に違いない。
止めなければならない。私は、母なのだから。
娘は美しい子供だった。
けれども、幼い頃から残酷だった。
女と分かるもの全てに危害を加えた。
はじめは虫だった。
次は小動物。
そうして、最後はメイドに手を出した。幸い私がすぐ止めに入ったこともあり、メイドは大怪我をしたものの、命に別状はなかった。
男たちは、夫も含めて誰も信じなかった。
子供の美貌に嫉妬する醜い女たち。彼らには私たちのことがそう見えていた。娘が何か吹き込んだのかもしれない。
気づけば対立構造が出来上がっていた。
私は嫌われ者でもいい。けれども使用人たちを守らねばならなかった。彼女たちが生きていくための職を奪う訳にはいかない。だから、耐え続けた。
自分で手を下すべきだったのかも知れない。
けれども、私が直接手を下し、失敗すれば何が起きるか分からない。だから無関係なものを選び、命じたのにあの短時間で篭絡されてしまっていた。
涙が零れた。
私は育て方を間違えたのだろうか。
何が悪かったのだろう。
どうして娘は──。
やっとたどり着いた処刑場は酷い有様だった。
肉の焼ける匂いと、ぶすぶすと立ち込める煙で五感が鈍る。
上座に娘が座っていた。
「おかあさま!来てくださったのね!またお会いできて嬉しいですわ」
「……あなたは、自分が何をしているのか分かっているの?」
「なにを……?わたしは、愛されたいだけですわ。そのために、邪魔なものを始末しただけ」
さらりとそう言い放って、娘は愛おしげに侍らせた男たちの頬を撫でた。
「この人でなし……!あなたは悪魔よ!」
思わず罵ると、娘は艶やかに笑った。
そんなつまらない名前で呼ばないで。
「ファム・ファタール。そう呼んで良くてよ?」
焼けた鉄の靴を履いて踊り、泣き叫ぶ女たちを見て、娘はけらけらと笑った。
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