K:火炎瓶の短編集

K:火炎瓶

文字の大きさ
8 / 8

ある双子の話

しおりを挟む
記者エミリー・ブラウンの手記
~~~~~
アンドレアン夫妻殺害およびエリザベス監禁事件について

▓▓▓年▓月▓▓日未明、近所住民の異臭がするとの通報により発覚。死後2週間は経過しており、遺体は1部腐乱及び白骨化していた。
被害者はトーマス・アンドレアン、ドローレス・アンドレアン。被疑者は夫妻の1人娘。
 アンドレアン家は▓▓▓▓▓▓の由緒ある貴族の家系。現当主夫妻の間に男児はなく、また親族にも男児がないため、現当主が死去した場合はその地位階級を国家へ返上する、あるいは相続予定であった娘(被疑者)が婿取りを行う可能性があった。しかし、婿取りを行った場合事実上のアンドレアン家は廃絶することになる。被害者のトーマス・アンドレアンは迷信深い人間であった。
キッチンに手錠で繋がれていた少女の健康状態は良好。被疑者は少女を妹としているが、戸籍を確認したところアンドレアン夫妻には娘が1人、つまり被害者しかいない。警察は被疑者が何らかの精神疾患を患い妹かいると誤認したうえで、少女を誘拐・監禁したとして身元の確認を急いでいる。

遺体にはの刺殺痕(1)と銃痕(1)が残っており、夫婦の死因は刺殺による失血が死因と見られる。凶器のナイフは発見されていないが、犯行に用いられた銃は被疑者が警察へ提出している。刺殺痕はその深さから、被疑者が疑いようのない殺意を持っていたことを示している。司法解剖の結果、銃は死亡後に撃ち込まれたものである。
奇妙な点は、遺体の着用していた服には刺殺による穴がなかったことである。わざわざ着替えさせたというのだろうか。ならば殺害当時に着ていたはずの服はどこへ?何故ほんなことをする必要があったのか?

監禁されていた少女の正体は何?

(解読不可の文字が続く)

私は今、とてつもない恐怖に震えている。
これはある種、アンドレアン家の闇ではないだろうか。
この先へ踏み込む勇気が、私にはない。

1人の人間になるため、1人の人間であるため
少なくとも、1人の少女エリザベスをめぐる事件なのだ。

(手記はこの後のページが破りとられている)

被疑者の供述
~~~
 ぼくはリザ。エリザベス・アンドレアンがぼくの名前です。とはいえ、エリザベスと呼ばれたことは1度もありませんがね。
 ああ、そんな顔をしないで下さいよ。すみません、人と喋るのが得意じゃあなくて。緊張しいなんです。許して。すみません、余計なことでしたね。どうにもぼくは、昔から神経質で──急かさないでくださいよ、どうせこれ、録音しているんでしょう?近年問題ですもんねぇ、自白の強要やら、拷問やら……ハイハイ、わかってますよ。
 ええと、何から話したらいいんでしょう?
 そうですねえ、確かにぼくは両親を殺しました。妹も監禁しました。……ええ、おっしゃる通り、戸籍上ぼくに妹はいませんね。けれどもあの子は妹ですよ。間違いなく、血と肉を分け、共に生まれた妹です。鑑定でもしたら分かると思いますよ。あの子はあの家でぼくと共に産まれました。本当ですよ。まぁ、嘘でも本当でも、あなた方にはどうだっていいことですよね。
 何故あんなことを、ですか。
 なんでなんですかね、あんまり興味がなくて忘れてしまいました。でもほら、ああいう人間は生きていても差程の生産性はありませんし、いない方が世のためじゃありませんか?差し入れていただいた新聞で見ましたけど、賄賂だのなんだの、たくさん出てきてましたよね、うちの親。いやぁ、外面がいいって、すごいなぁ。あはは。親としては実に最低でしたけど。すみません、笑い事じゃないですよね。
 どうしてあの子を……妹を殺さなかったか、ですか。
 ……本当は1番先に殺してやろうと思ったんす。でもあの子の顔、みました?ぼくそっくりでしょう。なんだか鏡に銃を突きつけてるみたいで気分が悪くって。だから辞めました。ぼく、家族のことなんてこれっぽちも大事じゃないです。両親の顔もろくすっぽ覚えていません。いつも記憶にあるのはあの子の、ライザのへらっとした笑顔ですかね。何が面白いんだが、ぼくにはわかりません。
 ……へえ、こんな顔をしていたんですねぇ、あの人たち。あんまり、ぼくには似てない気がします。
 両親のことは、別に、恨んではいません。嫌いではありましたけどね。仕方ないことって、たくさんあるんですよ。それこそ偉大なる主に願い縋っても、声が届かないようなこと。それがたまたま、ぼくだったってことです。
 ……2人で生まれてしまったのだって、性別だって、ぼくたちにはどうしようもなかったのに。
 ……殺害時の様子ですか。そんなもの、現場検証だとか、司法解剖だとかでわかると思うんですけど……まあ、いいですよ。
 銃が置いてあったんです……テーブルの上に。たまたま目に入って。
 それで引き金を引きました。
 躊躇いは特にありませんでしたね。血が流れて、床が汚れたから、怒られると思って、拭ききました。カーペットも汚くなったから剥がして、捨てました。死んだ人間って重いんですよ、それに硬くて。放置したのは、重くて動かせなかったからですね。女に生まれたことを悔やむばかりです。異臭騒ぎで通報されるなんて思わなかったな。これまで何度も悲鳴をあげてきたのに、誰も助けてくれなかった。なのに、変な匂いがすると通報するなんて、近所の人もひどいなぁ。助けてって叫ぶ声は聞こえないのに、死体の匂いは分かるんだもの。うん?ああ、はい。両親は、男の子が欲しかったんです。家を継がせるためにね。でもぼくは女だし、妹も女でした。だからよく殴られていました。あの人たちの卑劣なところは、見えるところには傷をつけないところですね。本当に外面がいいんだから……。
 ライザにはぼくが殺したところを見られてしまったから……だから、手錠でキッチンに。
 どこにもいかないように。監視のため、ですよ。
 罰を受けるのはぼくです。
 あの二人を殺したエリザベス・アンドレアンはぼくです。
 あの子は、ライザは、エリザベス・アンドレアンではありません。戸籍上存在しなかった、法外の子、ライザ・アンドレアンです。
 罪には罰が必要です。
 甘んじて受け入れましょう、それだけのことをぼくはしました。家名に塗った泥も、全てはぼくのものです。
 殺人犯エリザベス・アンドレアンはここにいます。
 ぼくはもう、ひとりで1人なのだから、殺人の罪を背負うのもぼくひとりです。

被害者の供述
~~~
 わたしはライザだよ。エリザベス・アンドレアンはわたしたち2人の名前なんだ。だから、わたしのことをエリザベスと呼ぶのは大きな間違いなの。戸籍が1人分しかなかった?あはは、そうよね。びっくりしたでしょ?
 うん、わたしたちはね、2人で1人だから。ひとりじゃ1人にはなれないんだ。だからエリザベス・アンドレアンはわたしたち2人のことなのよ。間違えないでね。わたしは間違いなく、リザの妹よ。双子のね。他の誰かの家族じゃないわ。
 リザはね、何にも悪くないのよ。だからリザを自由にして。あの子はすごいの。頭が良くて、手先も器用。出来ないことなんてきっとひとつもないわ。あ、でもお裁縫は下手っぴだったわね。学校にはいつも交代で行ってたんだけど、リザがお裁縫の授業を受けた日は酷いの。糸がよれよれで、何がしたかったのか、さっぱり。まあ、それってきっとわたしにも言えるんだけどね。テストはいつもリザの担当だったわ。100点ばっかりなの。すごいよね。でも、テストを見ても、誰も喜んでなかったな。
 リザは間違いなく、エリザベス・アンドレアンよ。そしてわたしも。ねえ、そんな顔をしないでよ。わたし、リザが大好きなんだから。
 えっと、なんだっけ。
 だから、わたしはリザの妹なの!ねえ!なんでわかってくれないの!?
 そう、分かってくれたならいいの。でも何度も同じことを言わせないで。わたしはリザと双子なの。
 ええと……そうそう、リザがパパとママを殺して、わたしをキッチンに閉じ込めた、だっけ?
 ……何を言ってるのかな、おまわりさん。
 あの男はね、リザに酷いことをしたの。
 あの女は、リザを殺そうとしたの。
 許せないわ、わたしはこんなにリザを愛してるのに。
 あの男はね、リザを殴ったの。
 あの女はね、リザに銃を向けたの。
 頭がカッとなったのを覚えてる。
 わたし、お料理も上手だったのよ。だからお料理するのはいつもわたしなの。物凄い音がして、キッチンから出ていったら、床に横たわるリザがいたの。腫れた頬を抑えて、蹲っていたの。そして、あの女が……だから、丁度持ってたナイフで刺したの。後ろから、どん!って。あの男が、すごくびっくりした顔をしてた。リザも酷い顔をしてた。大丈夫よ、リザ。って言ったんだけど、リザをは青ざめてた。吹き出した血が顔についたから、それを拭って、そのままあの男も刺したの。男の方が大変だったな。暴れるんだもの。そりゃあ堂々と前から行ったら、逃げるよね。だから背を向けて逃げようとしたところへ投げたの。まさか当たるなんて思わなかったけど。倒れてごぽっと血を吐いてたから、そのまま背に乗ってぐっとナイフを深く刺して……気づいたら死んでたわ。
 どうしようかな、お庭に埋めたらいいかしら?昔飼ってたハムスターが死んじゃった時みたいにお庭に埋めてあげるべき?なんて考えてたら、リザが腫れた腕を庇いながら来て、2人が死んだのを見て、膝をついてたわ。泣いてたのかもしれない。きっと嬉し泣きよ。酷いことをしてた2人がいなくなって、あのお家は本当にわたしたちのものになったんだから。
 リザはあの2人に新しい服を着せて、汚れた床を片付けたわ。お洋服は燃やしちゃった。血は病気になるからって言ってた。そして、2人の額に銃を向けたの。そしてわたしを優しく抱きしめて、こう言ったわ。「ライザ、ぼくがエリザベス・アンドレアンになるからね」って。どういう意味か分からなかったわ。はじめからわたしたちはエリザベス・アンドレアンだったのに。
 そうしてリザはわたしに手錠をつけてキッチンに繋いだの。どうして?って聞いたら、「ぼくがエリザベスになるためだよ」って。それならわたしは誰になるの?そう聞いたけど答えてくれなかったの。
 ねえ、わたしたちずっと2人で1人だったわ。
 リザとライザでエリザベスだったの。
 だから返して、わたしにリザを返して。
 わたしたちは2人で1人なんだから!
 わたしたちが、エリザベス・アンドレアンなのだから!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...