9 / 12
前日譚①~1話の数年前~ 落日の国
しおりを挟む
最大限好意的に描写するのであれば、趣のあるホテルの前。
白髪の目立つまだら髪の初老男性が溜息をついた。
研究開発コンサルティング会社の副代表であるその男、三崎達弥は昨日の事を思い返していた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「俺だ」
電話口の向こうで秘書らしき男が取り次いできたのは特徴あるダミ声だった。
「お前。面白い事に巻き込まれているな。今日は国(福岡県)に帰る予定だったが、話があるから今直ぐ俺のトコに顔をだせ」
返事も聞かずに部屋の固定電話は一方的に切られた。
三崎は溜息をついたが、民主自由党の重鎮を無視するわけにもいかず、その後のスケジュール調整を事務員に丸投げしてから部屋をでた。
俺のトコということは議員会館ではないのだろう。タクシーの後部座席に深く沈み込みながら、三崎はこれから向かう番地を頭の中でなぞる。最後にあの場所を訪れたのは、大河昭太が身罷った日。それがもう15年も前の月日であったことに気がつき、彼の胸に暗然としたものが広がった。車窓を流れる都市の風景が空しく見える。
灯滅せんとして光を増す。梅下派の七本槍が気勢をあげていた頃。あの時代が民自党の最後の輝きだったな。
エリートの中のエリート。大蔵省主税局の面々を「小僧」呼びし、「勉強し直せ」と怒鳴りつけることが度々あった最強を謳われた川下率いる党税調の時代。現在の党税調や政府税調に、往事の勢いは全くない。
今の民自党で財務官僚の言いなりにならないのは、これから会う人ぐらいだ。
高部さんももういない。馬場澄高が民自党だったら、まだこの国は十年ぐらいは保っていたかもしれないが、あの人は最初からアノ政党系だ。十数年前の悪夢の主民党政権時代には将来の総理大臣として、政財界や保守系評論家からの評価も高かったが、ここ十年、口の端に上る際は失笑ばかりという体たらく。
考えてみれば僕がこれから会う人の今の状況は、後を託す予定の蔣琬*と費禕**に先立たれた諸葛亮孔明***の心境か。
明治維新から百五十有余年。政治家も官僚もガラガラポンしないと、この体制が改まることはないだろう。だからと言って、そうなるためにダンジョンから化け物が溢れ出て、国民の一定数が死傷するような事態を望んでいるわけではないが……
ドアを開けるとニヤついた“半径3メートルの男”が革張りのソファにふんぞり返っていた。部屋には特徴的なトルコタバコの臭いと、上質な家具の匂いが混じり合っている。何か飲むかと聞かれたが、三崎は反射的に首を振って遠慮した。
「明日お前さんが座長の会議。もう勝負は決したぜ」
いきなり結論を告げられた。
「天下りの温床だと、次々と特殊法人が廃止されていくご時世で、久々の大物だ。飢えた官僚共が放っとく訳があんめぃよ」
「お前さんもよく知っている話だが、個室付き秘書付き車付き、年に数千万の金を受け取れる天下りの受け皿法人を1つ創れば、同期の次官(長官)レースで勝ちを決めたようなもんだ。ましてや億単位の金が受け取れる法人創出なんかしでかした日には、同期どころか一周二周を素っ飛ばしての目出度い次官(長官)様の誕生だ。場合によっては防衛省で天皇と呼ばれた男の任期を超えるかも知れない」
こちらに何も言わせず“半径3メートルの男”は独り喋り続けた。
「連中。財務省には別の安パイを用意して黙らせた。直接ダンジョンに関わる法人には一定のリスクが伴うからな。そっちも億は堅い。俺やお前さんより頭の良いのが揃っているんだから、妙ちきりんな法の抜け道を見つけたのだろう。最初からそんなに儲かる筈がねぃんだが」
男はトルコタバコを灰皿に押し付けると、前のめりの姿勢のまま、初めて三崎の顔をまっすぐ見た。
「で、だ。今日お前さんに来てもらったのはだなぁ」
何か言葉を選んでいる。この人にしては珍しい。
「法務省の若造が動いている。あぁいうのは良い。国家だ国民だ。本気でそんな事を考えている。まぁ現実に打ちのめされて役所を出て行くか、地べたに這い蹲って上の役人だけを見るヒラメになるか。そこらへんで終わるのがフツウだがな。もしかしたら化けるかも知れねぃ」
「勘違いするなよぉ。助けろとは言ってねぃ。そいつが何かしでかしても大目にみてやれ。今日おまえさんに来てもらったのは、それを言いたかったからだ。帰っていいよ」
「餌にありつけたのは何処なんですか? 」
「へっ。内閣府は甘いんだよ。あいつらは現場を知らねぃ。だから今回のように大事なところで出し抜かれる。まぁ明日のお楽しみだな。何、行けば直ぐに分かるさ」
男は顎で三崎の背後を示した。
「あぁそれとなぁ。連中、三条委員会****を企図してやがったから、そいつは俺の方で潰しておいた。けっ! 俺の目の黒いうちは、そうそう好き勝手にはやらせないぜ」
呼び出された秘書に退出を促される。三崎は、男の最後の言葉の裏にある、権力闘争の熾烈な熱を感じ取った。今日のは貸りなんだろうか。明日次第では貸し借りなしで良いのだろうか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
で、腹をたてた内閣府はこんなところに会場を変更したということか。
「帰ろうか」
後ろにいた男性が驚いて押しとどめる。
「今回の特別チームは民間人がトップで、先生がそのトップではないですか」
「僕だって政府の仕事は今回がはじめてじゃない。PT(プロジェクトチーム)にもSG(スタディグループ)にもTF(タスクフォース)にも何度も参加している。そんなものはマスメディアや野党への言い訳用に用意されたもので、誰も僕の意見を聞きたいわけでも僕の能力を期待しているわけでもないことは承知している。官僚の用意したペーパーを追認することだけが僕の仕事で、後でごちゃごちゃ言ってくる奴がいたら、三崎達弥が同意したことに批判があるのなら対案を示してくれと勝手に僕の名前が使われることも、マスメディアの連中は酒と食い物とファッションの流行りは饒舌に語り、庶民には終生縁の無いブランド品には通暁していても、僕と論争しようという気概のある奴なんか一人もいないことも。そんなことは分かっているんだ。でも、コレは酷い。(衆院)代議士から直々に依頼された仕事ではない。内閣府の連中は引き受け手がいないから僕のところに持ってきたのだろう。あの連中は仕事を与えてやったのだと上から見下すだけで、コレを借りだとは絶対に思ってない。内閣府の仕事だというのに、直前にいきなり会場が変更され、変な地番へ呼び出されたときから嫌だとは思っていたんだよ」
三崎は、ホテルの正面玄関を敵意を込めて睨みつけた。
「しかし、今日この場で辞退するというのは……」
「分かってる。分かってるさ。そんなことができないなんてことは」
忌々しげにホテルを睨みつけると三崎は最後にこう吐き出した。
「僕は予言するよ。今日の会議には必ず空気を読まない馬鹿が出席している」
用意された会議室に入室すると、早い時間に到着したにもかかわらず、室内には既に着席している者がいた。
「コンニチハー」
その太った中年男性は、変にテンションの高い浮ついた声で話しかけてきたが、三崎は返事に詰まった。
その男は、公的な会議室という厳粛な場に、上質なリネン生地の白っぽいシャツを着ていた。シャツには熱帯植物のような派手な刺繍が施されている。そして、下半身は鮮やかなターコイズブルーの膝丈半ズボン。
三崎が最初に思ったのは、そういえば光文の頃の直木賞作家で左右色違いのカラータイツを穿いていた人がいたことだった。でも確かあの人は半ズボンを穿いてはいなかった。
いや、穿いていたのか?
光文といえば某新聞が勇み足をしなければ、元号は確か昭和と決まっていたとかいう話もあったな。などと持ち前の雑知識を思い返しながら、三崎は最初の疑問に立ち返った。
何故この男は僕の席に座っているのだろう……
返事がないことに苛立ったのか、その太った男は今度は咳を一つしてからもう一度繰り返した。
「こんにちは」
三崎は、男が座る席の名札に目をやり、冷めた視線を向ける。
「ん? あぁ。そこは僕の席だと思うのだが、もしかして君は僕と同姓同名で、肩書も同じで、座長も依頼されているのか? 」
言われると男は驚いた顔をして、僕が指さす紙を覗き込んだ。
少しフリーズしてから、その太った男はうつむきながらブツブツと話しはじめる。
「俺は令和ダンジョンの専門家として、今世界中を騒がしていて、人も大勢死んでいる異常事態に、専門家として、専門家の優れた知見を披露するために、今日この場に呼ばれたのだ。専門家である俺が座長を務めるのは当然じゃないのか。なんだこのジジイは、挨拶もできない。社会常識がない。それなのに専門家である俺を糾弾している。俺は専門家として広く名を知られた作家で、作品はアニメにもなっているのだ。そうだ、どのアニメも1クールだけだったとはいえ、複数のアニメを世界に送り出したダンジョン専門家で、世界中の人が俺の名前を知っているのだ。ビートルズを気取るわけではないが、俺はダンジョン専門家として、その高名をキリストより知られているのだ」
三崎は、目の前の半ズボンの男から物理的に後ずさりしたくなった。
帰りてぇ~
「どうかしましたか? 」
知らない背広の若い男が後ろから話しかけてきた。
あいつ。逃げやがったな。僕に出ろと強要した奴は振り向いてもどこにもいなくなっていた。
この背広。状況がおおよそ分かっているだろうに、何おすまし顔で返事をまっているんだ。
「えっと。彼が座長を務めてくれるそうですし。僕の席はないようなので帰っていいですか? 」
「三崎様がこのチームを差配することは決定事項です。既に稟申し、承認印も頂戴しております」
「えっ、ハンコはもう使わないと、デジタル大臣が先年発表したはずでは? 」
「他省庁の話だということは三崎様もご承知おきされているかと」
……出たよ。省あって国なし。本当に。帰りてぇ。
通路が騒がしくなってきた。席の前にぶらさがってる紙をみるに、内閣人事局、総務省行政管理局、内務省警保局の末裔や、防衛省の背広組といった連中か。
最低でも課長レベルが出席するんだよな? なんで所属だけで役職は書いてねぃんだよ……
__________________________________________________________________
* 諸葛亮孔明亡き後、蜀の国の文官最高位相当を約十年務めた
** 蔣琬亡き後、蜀の国の文官最高位相当を約十年務めた
*** 中国三国時代蜀の国の丞相
**** 国の行政組織の一つ。一般に行政委員会とよばれ、府省の大臣などからの指揮や監督を受けず、独立して権限を行使することができる合議制の機関。国の行政機関の名称や機構などを定めた国家行政組織法第3条に規定されているため、三条委員会とよばれる。第三条では、府と省を内閣の行政事務を行う組織とし、その外局として、委員会と庁を置くことを規定している。三条委員会は庁と同格の行政機関であり、高い独立性を保つために予算や人事を自ら決定し、独自に規則や告示を制定することができ、それを命令、公表する権限が与えられている。{日本大百科全書(ニッポニカ)}
白髪の目立つまだら髪の初老男性が溜息をついた。
研究開発コンサルティング会社の副代表であるその男、三崎達弥は昨日の事を思い返していた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「俺だ」
電話口の向こうで秘書らしき男が取り次いできたのは特徴あるダミ声だった。
「お前。面白い事に巻き込まれているな。今日は国(福岡県)に帰る予定だったが、話があるから今直ぐ俺のトコに顔をだせ」
返事も聞かずに部屋の固定電話は一方的に切られた。
三崎は溜息をついたが、民主自由党の重鎮を無視するわけにもいかず、その後のスケジュール調整を事務員に丸投げしてから部屋をでた。
俺のトコということは議員会館ではないのだろう。タクシーの後部座席に深く沈み込みながら、三崎はこれから向かう番地を頭の中でなぞる。最後にあの場所を訪れたのは、大河昭太が身罷った日。それがもう15年も前の月日であったことに気がつき、彼の胸に暗然としたものが広がった。車窓を流れる都市の風景が空しく見える。
灯滅せんとして光を増す。梅下派の七本槍が気勢をあげていた頃。あの時代が民自党の最後の輝きだったな。
エリートの中のエリート。大蔵省主税局の面々を「小僧」呼びし、「勉強し直せ」と怒鳴りつけることが度々あった最強を謳われた川下率いる党税調の時代。現在の党税調や政府税調に、往事の勢いは全くない。
今の民自党で財務官僚の言いなりにならないのは、これから会う人ぐらいだ。
高部さんももういない。馬場澄高が民自党だったら、まだこの国は十年ぐらいは保っていたかもしれないが、あの人は最初からアノ政党系だ。十数年前の悪夢の主民党政権時代には将来の総理大臣として、政財界や保守系評論家からの評価も高かったが、ここ十年、口の端に上る際は失笑ばかりという体たらく。
考えてみれば僕がこれから会う人の今の状況は、後を託す予定の蔣琬*と費禕**に先立たれた諸葛亮孔明***の心境か。
明治維新から百五十有余年。政治家も官僚もガラガラポンしないと、この体制が改まることはないだろう。だからと言って、そうなるためにダンジョンから化け物が溢れ出て、国民の一定数が死傷するような事態を望んでいるわけではないが……
ドアを開けるとニヤついた“半径3メートルの男”が革張りのソファにふんぞり返っていた。部屋には特徴的なトルコタバコの臭いと、上質な家具の匂いが混じり合っている。何か飲むかと聞かれたが、三崎は反射的に首を振って遠慮した。
「明日お前さんが座長の会議。もう勝負は決したぜ」
いきなり結論を告げられた。
「天下りの温床だと、次々と特殊法人が廃止されていくご時世で、久々の大物だ。飢えた官僚共が放っとく訳があんめぃよ」
「お前さんもよく知っている話だが、個室付き秘書付き車付き、年に数千万の金を受け取れる天下りの受け皿法人を1つ創れば、同期の次官(長官)レースで勝ちを決めたようなもんだ。ましてや億単位の金が受け取れる法人創出なんかしでかした日には、同期どころか一周二周を素っ飛ばしての目出度い次官(長官)様の誕生だ。場合によっては防衛省で天皇と呼ばれた男の任期を超えるかも知れない」
こちらに何も言わせず“半径3メートルの男”は独り喋り続けた。
「連中。財務省には別の安パイを用意して黙らせた。直接ダンジョンに関わる法人には一定のリスクが伴うからな。そっちも億は堅い。俺やお前さんより頭の良いのが揃っているんだから、妙ちきりんな法の抜け道を見つけたのだろう。最初からそんなに儲かる筈がねぃんだが」
男はトルコタバコを灰皿に押し付けると、前のめりの姿勢のまま、初めて三崎の顔をまっすぐ見た。
「で、だ。今日お前さんに来てもらったのはだなぁ」
何か言葉を選んでいる。この人にしては珍しい。
「法務省の若造が動いている。あぁいうのは良い。国家だ国民だ。本気でそんな事を考えている。まぁ現実に打ちのめされて役所を出て行くか、地べたに這い蹲って上の役人だけを見るヒラメになるか。そこらへんで終わるのがフツウだがな。もしかしたら化けるかも知れねぃ」
「勘違いするなよぉ。助けろとは言ってねぃ。そいつが何かしでかしても大目にみてやれ。今日おまえさんに来てもらったのは、それを言いたかったからだ。帰っていいよ」
「餌にありつけたのは何処なんですか? 」
「へっ。内閣府は甘いんだよ。あいつらは現場を知らねぃ。だから今回のように大事なところで出し抜かれる。まぁ明日のお楽しみだな。何、行けば直ぐに分かるさ」
男は顎で三崎の背後を示した。
「あぁそれとなぁ。連中、三条委員会****を企図してやがったから、そいつは俺の方で潰しておいた。けっ! 俺の目の黒いうちは、そうそう好き勝手にはやらせないぜ」
呼び出された秘書に退出を促される。三崎は、男の最後の言葉の裏にある、権力闘争の熾烈な熱を感じ取った。今日のは貸りなんだろうか。明日次第では貸し借りなしで良いのだろうか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
で、腹をたてた内閣府はこんなところに会場を変更したということか。
「帰ろうか」
後ろにいた男性が驚いて押しとどめる。
「今回の特別チームは民間人がトップで、先生がそのトップではないですか」
「僕だって政府の仕事は今回がはじめてじゃない。PT(プロジェクトチーム)にもSG(スタディグループ)にもTF(タスクフォース)にも何度も参加している。そんなものはマスメディアや野党への言い訳用に用意されたもので、誰も僕の意見を聞きたいわけでも僕の能力を期待しているわけでもないことは承知している。官僚の用意したペーパーを追認することだけが僕の仕事で、後でごちゃごちゃ言ってくる奴がいたら、三崎達弥が同意したことに批判があるのなら対案を示してくれと勝手に僕の名前が使われることも、マスメディアの連中は酒と食い物とファッションの流行りは饒舌に語り、庶民には終生縁の無いブランド品には通暁していても、僕と論争しようという気概のある奴なんか一人もいないことも。そんなことは分かっているんだ。でも、コレは酷い。(衆院)代議士から直々に依頼された仕事ではない。内閣府の連中は引き受け手がいないから僕のところに持ってきたのだろう。あの連中は仕事を与えてやったのだと上から見下すだけで、コレを借りだとは絶対に思ってない。内閣府の仕事だというのに、直前にいきなり会場が変更され、変な地番へ呼び出されたときから嫌だとは思っていたんだよ」
三崎は、ホテルの正面玄関を敵意を込めて睨みつけた。
「しかし、今日この場で辞退するというのは……」
「分かってる。分かってるさ。そんなことができないなんてことは」
忌々しげにホテルを睨みつけると三崎は最後にこう吐き出した。
「僕は予言するよ。今日の会議には必ず空気を読まない馬鹿が出席している」
用意された会議室に入室すると、早い時間に到着したにもかかわらず、室内には既に着席している者がいた。
「コンニチハー」
その太った中年男性は、変にテンションの高い浮ついた声で話しかけてきたが、三崎は返事に詰まった。
その男は、公的な会議室という厳粛な場に、上質なリネン生地の白っぽいシャツを着ていた。シャツには熱帯植物のような派手な刺繍が施されている。そして、下半身は鮮やかなターコイズブルーの膝丈半ズボン。
三崎が最初に思ったのは、そういえば光文の頃の直木賞作家で左右色違いのカラータイツを穿いていた人がいたことだった。でも確かあの人は半ズボンを穿いてはいなかった。
いや、穿いていたのか?
光文といえば某新聞が勇み足をしなければ、元号は確か昭和と決まっていたとかいう話もあったな。などと持ち前の雑知識を思い返しながら、三崎は最初の疑問に立ち返った。
何故この男は僕の席に座っているのだろう……
返事がないことに苛立ったのか、その太った男は今度は咳を一つしてからもう一度繰り返した。
「こんにちは」
三崎は、男が座る席の名札に目をやり、冷めた視線を向ける。
「ん? あぁ。そこは僕の席だと思うのだが、もしかして君は僕と同姓同名で、肩書も同じで、座長も依頼されているのか? 」
言われると男は驚いた顔をして、僕が指さす紙を覗き込んだ。
少しフリーズしてから、その太った男はうつむきながらブツブツと話しはじめる。
「俺は令和ダンジョンの専門家として、今世界中を騒がしていて、人も大勢死んでいる異常事態に、専門家として、専門家の優れた知見を披露するために、今日この場に呼ばれたのだ。専門家である俺が座長を務めるのは当然じゃないのか。なんだこのジジイは、挨拶もできない。社会常識がない。それなのに専門家である俺を糾弾している。俺は専門家として広く名を知られた作家で、作品はアニメにもなっているのだ。そうだ、どのアニメも1クールだけだったとはいえ、複数のアニメを世界に送り出したダンジョン専門家で、世界中の人が俺の名前を知っているのだ。ビートルズを気取るわけではないが、俺はダンジョン専門家として、その高名をキリストより知られているのだ」
三崎は、目の前の半ズボンの男から物理的に後ずさりしたくなった。
帰りてぇ~
「どうかしましたか? 」
知らない背広の若い男が後ろから話しかけてきた。
あいつ。逃げやがったな。僕に出ろと強要した奴は振り向いてもどこにもいなくなっていた。
この背広。状況がおおよそ分かっているだろうに、何おすまし顔で返事をまっているんだ。
「えっと。彼が座長を務めてくれるそうですし。僕の席はないようなので帰っていいですか? 」
「三崎様がこのチームを差配することは決定事項です。既に稟申し、承認印も頂戴しております」
「えっ、ハンコはもう使わないと、デジタル大臣が先年発表したはずでは? 」
「他省庁の話だということは三崎様もご承知おきされているかと」
……出たよ。省あって国なし。本当に。帰りてぇ。
通路が騒がしくなってきた。席の前にぶらさがってる紙をみるに、内閣人事局、総務省行政管理局、内務省警保局の末裔や、防衛省の背広組といった連中か。
最低でも課長レベルが出席するんだよな? なんで所属だけで役職は書いてねぃんだよ……
__________________________________________________________________
* 諸葛亮孔明亡き後、蜀の国の文官最高位相当を約十年務めた
** 蔣琬亡き後、蜀の国の文官最高位相当を約十年務めた
*** 中国三国時代蜀の国の丞相
**** 国の行政組織の一つ。一般に行政委員会とよばれ、府省の大臣などからの指揮や監督を受けず、独立して権限を行使することができる合議制の機関。国の行政機関の名称や機構などを定めた国家行政組織法第3条に規定されているため、三条委員会とよばれる。第三条では、府と省を内閣の行政事務を行う組織とし、その外局として、委員会と庁を置くことを規定している。三条委員会は庁と同格の行政機関であり、高い独立性を保つために予算や人事を自ら決定し、独自に規則や告示を制定することができ、それを命令、公表する権限が与えられている。{日本大百科全書(ニッポニカ)}
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる