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一章 雨だれ石を穿つ
-13- 雨降らす鴨
しおりを挟む災害。それは火ノ本に於いて動物の形を成す。
様々な要因が重なり発生する災害の側には、動物の姿をした霊力の塊が現れ、周囲に災いを振り撒きながら霊力を吸収し、更なる強力な災害へと勢力を増すのである。
物体となった災害を火ノ本では【災物】と呼んでおり、火ノ元の全国各地で発生し、放っておけば大災害を呼び込む為、早急な討伐が求められる。
大火々本帝国軍の中に災物討伐を専門とする【災物対策炎護隊】と言う名の部隊があり、通称【炎護隊】に火焚太蝋は所属している。第一炎護中隊の隊長として。
大雨降り注ぐ災害級の天気の中、太蝋は田植えが始まったばかりの水田を前に仁王立ちしていた。
各所の水田には大量の白い鴨の姿があり、上空では大雨を降らせ続けている分厚い黒雲を背に、白い鷺が飛んでいる。
「――周辺住民の避難、完了しました!」
敬礼し状況を報告する隊員に対し、太蝋の隣に控えている副隊長の斬島が返事をした。
「ご苦労さん。雨鴨討伐の進捗は?」
「ここより半径1キロほどの距離まで勢力を小さく出来ています」
「鴨撃ちは順調っぽいな。問題は雨鷺の方か~」
そう言って斬島は上空を飛び続けている鷺を見上げた。
「鷺ってあんなに高く飛びましたっけ? そもそも、長時間飛べましたっけ?」
災害級の大雨に打たれながらにして呑気に雑談を始めた斬島。
その問いは大雨の中でも頭の炎を灯し続けている太蝋に向けられたものだ。
太蝋は斬島と同じように雨鷺を見つめ続けながら、呆れた口調で答えた。
「通常の鷺と同じ訳がないだろう。あれは災物なんだから」
「そうですけど~。普通の白鷺と見た目おんなじなのに、実は災物でした~なんて、それこそ詐欺じゃないっすか~」
「私はお前が中尉等級であることに、今だに猜疑心を抱えてるよ」
「うっわ、キッツ!! 隊長、駄洒落で喜ぶには早い歳ですって~!」
「この大雨で消せないほどの炎で炙ってやろうか?」
「炙るなら鴨肉でお願いします。鷺肉はあんま美味しそうじゃないし」
「よし、燃え滓にしよう。お前を」
「え!? 俺っすか!?」
「当たり前じゃないか」
状況報告に訪れていた隊員は、隊長と副隊長のやり取りを見て苦笑を浮かべた。
またいつもの漫才が始まった、と。
周辺地域に水害を及ぼすほどの大雨を前にして、まるで緊張感がない。
そんなくだらない会話の最中にも太蝋と斬島は戦闘準備を進めていた。
斬島は腰に差している軍刀を手にし、太蝋ははめていた白手袋を外している。
近辺の水田から何羽もの雨鴨が飛び立ち、太蝋と斬島の上を通過しようとした瞬間。
斬島は太蝋より一歩前へ踏み込み、上空目掛けて軍刀を振り切った!
軍刀で薙ぎ払われた雨粒が地面に叩きつけられ、雨鴨は斬撃に晒され、跡形もなく消滅する。
しかし、まだ数羽残っている。全ての雨鴨を斬り伏せた訳ではなかった。
斬島の斬撃から逃れた数羽の雨鴨。
このまま討伐し損なえば、次なる地で雨の災害が始まってしまう。
だが、太蝋がそうはさせなかった。
手の平に蝋のような汗を発生させ指先で纏め上げると、二ミリ大の丸玉が出来上がり、それを指先で弾く。
生き残った雨鴨全羽を蝋の弾丸が襲い、小さい頭を的確に撃ち抜いている。
撃ち抜かれた雨鴨は小さい悲鳴と共に消滅した。
全ての雨鴨が討伐されるまでに、ものの数秒しか経っていない。
目にも止まらぬ速さで雨鴨が討伐される光景を前に、遅れて戦闘体勢に入っていた隊員は目を見張った。
互いの射程範囲を把握していなければできない妙技である。
静かに納刀した後、斬島は途端に騒ぎだした。
「あっぶねぇ~!! 今ので逃してたら責任追及されて、ふサギこむ所だった~!!」
「鴨だろう、今のは」
「そうだったカモ!」
「本当に責任追及されたくなければ、とっとと雨鴨を殲滅してこい」
「ハイ」
冷淡な声から本格的に太蝋の炎が怒りで燃えかねないと判断したのか、斬島は殊勝に返事をして未だ残っている雨鴨討伐に向かっていく。
その後ろをついて行くように太蝋も歩き始め、茫然としていた隊員も慌ててついて行った。
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