片翅の火蝶 ▽お家存続のため蝋燭頭の旦那様と愛し合います▽

偽月

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三章 風の前の塵

-46- 災物出現の兆し

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 柿丸はつい最近になって帝都へ引っ越してきた。親の仕事の都合で、と言う奴だ。その引っ越し途中で友達である亀の萬治まんじを川へ落としてしまったらしい。萬治を探しに行きたいと何度も親に懇願したそうだが、子供が山や川へ捜索に入る危険性と、既にあの場所には居ないだろうと言う現実を突きつけられ、探しに行くことを許してもらえなかったらしい。
 果てには、新しい亀を買ってあげるから……と宥めすかされ、柿丸は親への反抗心を芽生えさせたようだ。柿丸の年は八歳。友達の亀を見失ったことで、早めの反抗期が来てしまったらしい。

 それでも諦めきれなかった柿丸は、引っ越しの際に乗ってきた蒸気機関車に乗り、萬治捜索を独断決行しようとしていたようだ。
 尤も、蒸気機関車の切符は、そう安くはない。朧げな記憶で探しに行こうとしていた以上、どれだけの切符代が必要になるかも分からない。
 結局、柿丸はそのすばしっこさを生かして、無賃乗車をしてしまおうと考えに至ったらしい。そこを第三炎護中隊の第四小隊に見つかったのである。

 それがまさか、ベーゴマ大会に行き着くなどと誰が思っただろうか。ともあれ、一人の少年の蛮行を未然に防げたことに大人達は密かに安堵していた。
 早々に勝負に負けてしまった太蝋に剛田が近付いて言った。

「第三の調査対象が風蛙かぜかわずだったのは聞いたか?」

 先ほどまで豪快な笑い声をあげていたとは思えないほどの真剣さで話しかけてきた剛田に、太蝋は背筋を伸ばして応対する。

「はい。柿丸を保護するに至った経緯に交えて聞きました」
「流石に耳が早ェな。調査の結果、風蛙の数は少なかったようだが、俺ァ、どうも柿丸の友達ってのが気になって仕方がねェ」

 柿丸の友達――亀の萬治まんじ。それの何が気になるのか、と言うところを太蝋はすぐさまに察した。

「……嵐亀あらしがめ、ですか」
「あァ。台風の災物は、普通の台風とおンなじで海から来るだろ。ありゃあ、海亀の死体が海を漂ってっからだな。それに台風の被害は、普通のも災物のも南の方が多いんだがなァ……」
「山間部での風蛙の目撃情報。加えて行方不明の亀。最悪の事態が起こるとすれば――」
「内陸で台風が発生する。それも普通のじゃねェ。霊核を破壊するまで消滅することがない災物の台風だ」

 分かっていても改めて最悪の事態の予想を口に出されると、太蝋はそれに伴って発生する被害がどれほど甚大なものになるか、想像して頭を抱えた。それほどの大きな災物になるのであれば、第一炎護中隊だけでは対処しきれない可能性がある。炎護隊全部隊が対処にあたる可能性すらあるのだ。

「あと、もう一個、気になることがある」
「これ以上に何が?」
「東海岸沿いから竜蛇たつへびの目撃情報が町民から上がってきたんだが、調査に向かわせても発見出来なかった。見た端から消えて行っているような状態らしい」
「台風の次は竜巻ですか……。いや、竜巻の方が先か?」
「分かんねェぞォ。両方、同時に帝都を攻めてくるかもしんねェ」

 状況が状況だけに、冗談では済みそうにないことをケタケタと笑って言う剛田を見上げ、太蝋は改めて夏の忙しさを痛感した。

 大雨、雷、竜巻、台風……梅雨から秋にかけて特に発生する災物達だ。これらが一気に帝都周辺で発生したら、炎護隊だけの手に負えなくなるかもしれない。そうならぬように日々の調査で地道に災物討伐を行なっているわけだが、今回は災物の中でも大物に属される台風と竜巻の危機が、一気に迫り来るかもしれない。

 ますます頭痛の原因が増えるのを知りながら、太蝋は無邪気にはしゃぐ柿丸の姿を見て、少しだけでも和やかな気分に浸ろうとするのだった。
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