光と影

ロキ

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第十九話「光の饗宴」

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2025年3月27日、午前8時。
聖マリア病院造血幹細胞移植センター。
春の柔らかな光が、美咲の退院の朝を優しく照らしていた。
「美咲さん、おはようございます」
村井医師が、いつもより晴れやかな表情で入室してくる。
「最後の検査結果が出ました」
「先生、私…」
美咲の声が少し震える。
「ええ、素晴らしい数値です」
医師はタブレットを手に、詳細を読み上げ始める。
「最終検査データを見てください:
• 白血球:4,800/μL
• 好中球:3,200/μL…」
「村井先生」
真理子が声を詰まらせる。
「この数値は、本当に…」
「はい、すべて基準値内です」
医師は穏やかに微笑む。
「麗子さんの造血幹細胞が、完璧に機能していますね」
その時、モニターが点滅を始める。
「美咲!」
麗子の興奮した声が響く。
「もう荷物は準備できた?」
「お姉ちゃん、朝早くからありがとう」
美咲が画面に手を伸ばす。
「でも、まだ先生から注意事項を…」
「あら、ごめんなさい」
麗子が慌てて姿勢を正す。
「村井先生、退院後の注意点を教えていただけますか?」
「ええ、では確認していきましょう」
医師は画面越しの麗子にも見えるようにタブレットを向ける。
「まず、生活管理の基本です。美咲さん、メモを取りますか?」
「私が記録します」
真理子がノートを取り出す。
「お母さん…」
美咲が母を見つめる。
「いつもありがとう」
「これからは、三人で新しい人生を歩いていけるのね」
真理子の目に涙が光る。
「その前に」
村井医師が優しく咳払いをする。
「明日の展示会に向けての注意事項も含めて、しっかり確認していきましょう」

午前9時、病室。
退院の準備が進む中、展示会に向けた最終確認が行われていた。
「美咲さん、退院時の処方です」
村井医師がタブレットを確認しながら説明を始める。
「お薬の内容と注意点:
• 免疫抑制剤:タクロリムス
• 感染予防:ST合剤
• ビタミン剤:総合ビタミン」
「先生」
美咲が不安げに尋ねる。
「明日の展示会、本当に大丈夫でしょうか?」
その時、モニターから麗子の声が響く。
「心配しないで。すべて準備は整ってるわ」
「展示会場の感染対策を確認させてください」
医師が画面越しの麗子に向かって。
「はい!」
麗子が資料を手に取る。
「まず、会場の空調システムは医療用HEPAフィルター完備。紫外線殺菌装置も設置済みです」
「他には?」
医師が真剣な表情で。
「入場前の検温、手指消毒はもちろん」
麗子が続ける。
「美咲専用の動線も確保しました。スタッフ全員PCR検査済みで…」
「お姉ちゃん」
美咲の目に涙が浮かぶ。
「そこまでしてくれて…」
「当然よ」
麗子の声が優しく響く。
「これは私たちの物語なんだから。“Quatre” は、あなたの新しい命と共に完成するの」
「では、明日の具体的なスケジュールを」
村井医師が話を進める。
「はい」
麗子が張り切って説明を始める。
「午前10時、貸切会場に到着。まず “White” から始まって…」
「その前に」
真理子が静かに口を挟む。
「朝の検査を済ませてからね」

午前10時、病室。
退院の手続きが進む中、美咲は窓際に立っていた。
「10時のバイタルチェックです」
森田看護師が声をかける。
「はい」
美咲が振り向く。
「もう最後のチェックなんですね」
「バイタルサイン:
• 体温:36.6℃
• 血圧:114/68mmHg
• 脈拍:76/分
• SpO2:99%」
「森田さん」
美咲の目に涙が浮かぶ。
「この2ヶ月間、ありがとうございました」
「私たちこそ」
看護師が優しく微笑む。
「美咲さんの頑張りに、勇気をもらいました」
その時、モニターが点滅。
「美咲!」
麗子の声が弾む。
「展示会場の最終チェックが終わったわ。明日を待ちきれなくて…」
「お姉ちゃん、どんな感じ?」
美咲が画面に近づく。
「まず、入り口には純白の光のトンネルがあって」
麗子が興奮気味に説明を始める。
「そこに “White Dress” が、まるで天使の羽のように…」
「麗子」
真理子が優しく制する。
「サプライズは明日までとっておきなさい」
「あ、ごめんなさい」
麗子が慌てて言い直す。
「でも美咲、明日はきっと素敵な一日になるわ。私たちの新しい物語の始まりよ」
村井医師が入室してくる。
「退院の書類が整いました」
「先生…」
美咲と真理子が同時に振り向く。
「最後の注意事項です」
医師が静かに説明を始める。
「明日の展示会、30分以内の見学。マスクは必ず着用。そして…」

午前11時、病院の玄関ロビー。
退院の時を迎えた美咲を、スタッフたちが見送っていた。
「美咲さん」
村井医師が最後の指示を伝える。
「明日の展示会前の検査時間は8時半です」
「はい。その時の数値で…」
美咲が不安げに言いかける。
「心配いりません」
医師が優しく微笑む。
「今朝の最終検査データを見てください:
• 白血球:4,850/μL(+50)
• 好中球:3,300/μL
• リンパ球:1,550/μL
• NK細胞活性:38%」
その時、病院の自動ドアが開き、麗子が姿を現す。
「美咲!」
麗子が駆け寄ろうとする。
「麗子さん、まだマスクと手指消毒を」
森田看護師が慌てて制する。
「あ、ごめんなさい」
麗子が立ち止まり、消毒液を手に取る。
「興奮しすぎて…でも、やっとこの日が」
「お姉ちゃん…」
美咲の目に涙が溢れる。
「まあ、お二人とも」
真理子が微笑みながら。
「感動は明日の展示会までとっておきましょう」
「そうそう」
麗子が消毒を終えて近づく。
「明日の “Quatre” で、私たちの物語が完成するの」
「展示会の最終確認です」
村井医師がタブレットを開く。
「時間は10時から30分以内、会場の温度管理は…」

午後2時、美咲の自宅。
15年ぶりに帰宅した美咲を迎え、明日の展示会に向けた最終確認が行われていた。
「自宅療養環境チェック:
• 室温:24±1℃に設定
• 湿度:50±5%
• 空気清浄機:HEPAフィルター稼働
• 寝具:全て滅菌済み
• 食器:専用セット準備完了」
「明日の “Quatre Collection” 展示詳細」
麗子がタブレットで図面を示しながら説明する。
「展示空間構成:
1. White Zone “Innocence”
• 純白の光のトンネル
• 天井高:6メートル
• LED照明:200基
• 温度管理:22℃固定
• White Dress展示位置:中央祭壇風
2. Grey Zone “Transition”
• グラデーションライティング
• 特殊プリズム効果
• 9段階の光の変化
• Grey Dress周囲:スポットライト12基
3. Navy Zone “Depth”
• 深海をイメージした空間
• 特殊水中照明効果
• Navy Dress:360度回転展示
• 波紋エフェクト投影
4. Black Zone “Rebirth”
• 最終展示空間
• 天井:星空演出
• Black Dress背面:特殊ライティング
• 金魚モチーフの光の演出」
「お姉ちゃん」
美咲が静かに問いかける。
「この4つのドレス、私たちの物語なのね」
「ええ」
麗子が優しく微笑む。
「White から Black まで、あなたの細胞の再生と共に完成したの」
「明日の予定確認します」
真理子がスケジュールを読み上げる。
「8:30 - 病院で最終検査
9:30 - 検査結果確認
10:00 - 展示会場到着
10:05 - White Zone入場
10:30 - 見学終了」
窓の外では、夕暮れの光が優しく差し込んでいた。
明日、姉妹の物語は新たな章を迎えようとしていた。
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