異世界でも介護するんだってさ〜王宮の魔法と絆〜

異世界でも介護するんだってさ

第十八話: 過去と未来の交差点

悠斗たちが影喰らいとの激戦を終えてから数日が経った。彼らはエルドリッチの故郷である「古の森」を後にし、次なる目的地である「灰色の山脈」を目指していた。旅路は穏やかだったが、戦いで得た傷跡や心の重みは、誰もがまだ抱えたままだった。
馬車の中では、悠斗がエルドリッチの車椅子を調整しながら話しかけていた。
「エルドリッチさん、体調はどうですか？無理はしないでくださいね。」
エルドリッチは静かに微笑んだ。「心配するな、悠斗。この程度でへこたれるほど、私は老いてはいないさ。」
その言葉には力強さがあったが、その目にはどこか遠い過去を見つめる寂しさも垣間見えた。リリスがその様子を見て明るく声をかける。
「でも、本当にすごかったですよ！封印を完成させた時のエルドリッチ様、まさに伝説の魔法使いって感じでした！」
「ふん、伝説などというものは虚しいものだよ。」
エルドリッチは焚き火のような赤い瞳を細めながら呟いた。その言葉に、一瞬だけ場の空気が静まり返る。

1. 旅路の中の葛藤
その夜、一行は平原の真ん中で野営をすることになった。焚き火を囲みながら、それぞれが静かな時間を過ごしている中、エルドリッチがぽつりと口を開いた。
「私は……ずっと自分の過去から逃げていた。」
悠斗とリリス、そしてダリウスも顔を上げた。普段は多くを語らないエルドリッチが、自ら過去について話し始めることは珍しい。
「若い頃、私はこの世界でも名高い魔法使いだった。数多くの冒険や戦いを経験し、多くの仲間と共に勝利を収めてきた。しかし……その力ゆえに、多くのものを失った。」
焚き火の炎が揺れる中、エルドリッチの声は低く響いた。
「仲間たちを守れなかったこともあれば、自分自身の傲慢さゆえに犠牲を生んだこともある。そして最終的には、自分すら信じられなくなり、この森へ隠遁した。」
その言葉には重みがあり、一同は静かに耳を傾けていた。特にダリウスは険しい表情で拳を握りしめている。
「だが、お前たちと共に影喰らいと戦ったことで気づいたよ。私にはまだやるべきことがある、と。そして、それは過去から逃げることではなく、それと向き合うことだ。」
悠斗は静かに頷きながら言った。「過去って、本当に重たいものですよね。でも、それと向き合おうと思えるなら、それだけで一歩前進していると思います。」
エルドリッチはその言葉に微笑みながら、「そうだな」と小さく呟いた。

2. ダリウスとの夜更けの対話
その夜更け、一同が眠りにつこうとしている中、ダリウスだけが焚き火の前に座り続けていた。彼は剣を膝に置き、その刃先を見つめながら何か考え込んでいるようだった。
そこへエルドリッチが車椅子を押して近づいてきた。「眠れないか？」
ダリウスは顔を上げず、「少し考え事をしていただけです」と短く答えた。
「お前もまた、過去に囚われているようだな。」
エルドリッチの言葉にダリウスは表情を曇らせた。そして少し間を置いて口を開いた。
「……あの日、もし俺がもっと強ければ……あなたや仲間たちを守れたかもしれないと思うことがあります。」
それはダリウス自身が長年抱えてきた後悔だった。彼とエルドリッチには古い縁があり、その中でダリウスは何度も自分の無力さによる失敗を経験してきた。それでも彼は騎士として立ち続けてきたが、その心には深い傷跡が残っていた。
「お前は十分強いよ。」
エルドリッチは静かに語り始めた。「強さとは剣や魔法だけではない。それ以上に大事なのは、自分自身と向き合う勇気だ。そして、お前にはそれがある。」
ダリウスはその言葉に驚いたようだった。そして少しだけ肩の力を抜き、「ありがとうございます」と呟いた。その声には僅かな安堵感が混じっていた。

3. リリスと悠斗の会話
翌朝、旅立ちの準備中、悠斗とリリスが馬車付近で荷物整理をしていた。ふとした瞬間、リリスがぽつりと言った。
「ねぇ、悠斗さんって、本当にすごい人ですよね。」
悠斗は驚いて振り返る。「え？急にどうしたんですか？」
「だって、この異世界で何も知らない状態からここまで来れたなんて……普通じゃできませんよ。」
彼女の瞳には純粋な憧れと尊敬が宿っていた。
悠斗は少し照れくさそうに笑った。「いやいや、僕なんてただ必死なだけですよ。それに僕一人じゃ何もできませんでしたから。」
「でも、それでも悠斗さんのおかげでみんな助かったんです！」
そう言う彼女の声には力強さがあった。その言葉に悠斗もまた、自分自身への自信を少し取り戻すようだった。

4. 次なる冒険への出発
旅路の途中、一行は小さな村へ立ち寄った。その村では病気や怪我で苦しむ人々がおり、悠斗は介護職員として培った知識や技術で村人たちを助け始めた。その姿を見るエルドリッチやダリウス、そしてリリス。それぞれが心の中で思う――この旅路には確かな意味がある、と。
そして彼らは再び旅立つ。新しい冒険への期待と共に――それぞれが過去と向き合いながら、新しい未来へ向けて進むために。