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54. 番外編*初夜
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ミルクティー色の髪を乾かしているテルミアが、普段からやや険し気な顔を更に煮詰めているので、奥様は何か粗相があったかとソワソワする。
「どうしたんですか? テルミアさん。私、何かしましたか?」
「まぁ、申し訳ございません、奥様にではございません、ちょっと先程旦那様が」
「ジェフですか?」
「ええ。とにかく早くしろ、早くしろと。髪が濡れていても何でも良いと。何も着せていなくていいと仰るものですから」
「へ」
「いい加減になさいませと怒っておきました。わたくしどもはこの日の為にナイトウェアを新調したり香りを選んだり、それはそれは色んなあれこれを用意していると言うのに!」
真っ赤な顔になってシャルロットが俯く。
「もうしわけございません」
リーリエとイルダも手を動かしながら話を聞いて笑っている。
「奥様が謝る必要はありません。全く今まで一年以上あったって言うのに、何を仰っているんだか」
支度が終わり、最後に薄手のガウンを着せられた。
「さぁ、ではお部屋へ参りましょう。奥様、大丈夫ですか?」
「……ハイ」
「何度も申し上げておりますが、ご気分が悪くなったり、ジェフ様が何か無体を働かれたら遠慮なくお呼びくださいませ。このテルミアが参りますので」
「アリガトウゴザイマス」
ごにょごにょ答えた。頼りになり過ぎる専用侍女はさておいて、こういう『今から感』が庶民感覚では信じられないが致し方ない。もたもたしながら立ち上がる。
ジェフからすれば散々待っての今日である。
シャルロットは素足にスリッパでペタペタと、メイド達に先導されて今日初めて寝ることになる夫婦の寝室へ向かった。
****
静かに扉を開けて寝室に進むと、ベッドの中で上半身をクッションに預けたティシャツ姿のラフなジェフが手招きしている。部屋には仄かなオレンジ色の柔らかいフロアランプだけ。
「何をしていたんですか?」
にっこりしてベッドに上がると、ガウンでつんのめった。
静かに手が伸びてシャルロットの身体を支えたジェフが、そのままガウンを剥ぎ取る。腕を引かれ、夫の広げた左腕の下に収まった。
「何もしていないよ、君を待ってた」
酒も飲まず本も読まず、ただ妻を待っていただけのジェフが正直に答える。
それはいたって普通の言葉なのだが予想外で、シャルロットは照れ隠しに真面目な顔をしておく。
「赤いな」
長い指先が頬をつついた。つつかれて、そのままそっぽを向く。
「ジェフが変なこと言うから」
「言ってないだろ、変なことは。待ってた以外に何もしてない」
「だって。こういう時のジェフは寝たいけど眠れないって目を瞑っているか、本当に寝ているかのどっちかでしょう」
「今日この状況で寝ようとしている奴は頭がおかしいと言いながら今、振り返ってそれは俺だと思った」
シャルロットが思わず吹き出し、ふたりでケタケタと笑う。
「あの時本当に初夜をしていたらどうなっていたかな」
「舌を噛んで死んでます」
「いや、それはどうかな? もしかしたら案外好きになっていたかもしれないぞ」
シャルロットは目を丸くする。それから少し想像した様子を見せた後で、夫を見上げた。
「そうですね……あの時、どれだけ道が分かれていても、結局はジェフのこと、きっと大好きになってたとは思います」
可愛い顔で照れている。
眩しそうに瞳を細め、ハンサムな顔が落ちてくる。シャルロットはほんの少し唇を開いて迎え入れた。もうすっかり仲良しになったジェフの舌が小さな口を覆い、丁寧に舐めていく。唇の形を辿り、薄い両端を舐め、首を傾けて上顎を触れるかどうかの加減でそっと触る。シャルロットは肩から剥き出しの両腕を男の首に乗せ、キッチリしていない可愛い髪を撫でる。
細い肩を抱いていた腕が背中に回り、テルミアに着せられた上品なナイトウェアがサラサラと肌を伝った。白いシルクのベビードールは肩や裾にレースが使われ、深く開いた胸元にはもちろん新郎が解く為のリボンが結ばれている。
「着せなくてもいいと言ったけど、こういうのもなかなか」
「ちょっと恥ずかしいけど、これ可愛い」
よいしょ、とジェフが妻を引っ張り上げて腹を跨がせる。それからポスンとクッションに凭れて離れると初めて見る夜の姿を楽しみ始めた。
「いいな」
「可愛いでしょ? レースが蝶々」
「いや、綺麗だ。よく似合ってる」
「………」
目が泳ぐ。頬がまた熱くなる。
「可愛いは良いけど、綺麗は恥ずかしいか。意外に照れ屋だな」
シャルロットは対応に困るので、頭を落として口づけで誤魔化しに向かう。ジェフが小さく笑いながら唇を吸い、舌を絡め合った。
硬い指先がナイトウェアの裾から入り込んで、そうっと包むように細い腰を揉む。腰から背中にかけて弱いシャルロットは、それだけで小さく震える。一生懸命ジェフの唇を食んで舌を挿し入れて逃げる舌を追いかけ、色んな所を舐めた。やがて追いかけていたはずの舌は絡めとられ、恍惚感を連れてくる。唾液で口の周りがぬるぬると光るようになると、男の唇が滑っていくだけでシャルロットは腰から力が抜けていく。
ジェフの手はいつも優しい。だけどいつだって撫でられたり摘ままれたり、しつこいくらいに何度も何度も繰り返されるうちに靄の中に放り込まれたようによくわからなくなってくる。
腰と背中を支えられてまた仰向けにひっくり返されると、覆いかぶさったジェフが首を大きな口で食んでいく。余すことなく食べ尽くす。シャルロットは小さな吐息をついて目を瞑る。
「ん……ん……」
脇腹を撫でていた手が上がって膨らみに行きつく。既に尖った胸先に気が付いて、ジェフはベビードールの上から掠めるように指の腹で不規則に擦る。
「ん……は……あ、あ」
揺れる布地のせいで既に敏感になっている先端に、焦れた手つきで与えられる甘い刺激が心地いい。首筋を吸っていた唇がまた戻って、互いに微笑んで口づける。
「ジェフ、ジェフ」
「んん?」
「だいすき」
「うん」
額をくっ付け合って顔を眺めて、寝転んで何度もキスをする。
やがて真ん中のリボンが解かれて、シャルロットは一糸纏わぬ姿になった。ジェフが自分も脱いでも良いかと聞くので、びっくりする。
「そっか。ジェフも脱ぐんだった」
「上だけ」
どうぞ、と頷くと、着ていた白いティシャツを脱いだ。
「………」
「また赤くなってるけど」
夫は笑い始める。だけど仕方ない。男の裸など初めてだった。
「どこを見たらいいの!?」
「さぁ。好きな所を見ればいいけど……いや、でも違う! しっかり見て覚えておいてくれ」
「え? どういうこと?」
「今日の為に暫く酒を控えた」
「えっ、ジェフが!?」
頷いて、自分の腹を撫でている。
「きっと男は俺で最初で最後なのに、始めからソレじゃあ奥様が可哀想だとセバスが言うから」
説教されている様子が、まるで見ているみたいに浮かぶ。
シャルロットは胸がいっぱいになった。あんなにお酒が大好きなのに。
「じゃあ、今日が最高傑作?」
「そうだ、今日で打ち切りかもしれん」
「……わかんないけど、かっこいい」
「じゃあもう少しがんばろう」
照れたような可愛い忍び笑いがあがる。他の男の身体なんて知らないが、見ているだけで腰骨をなぞられているような気がした。ジェフは背も高く、飲酒のせいで弛んだ腹さえ除けば不規則過ぎる生活で太る暇さえない。たまにバルカスと射撃場に出かけたりもしているので、姿勢が良くて二の腕と胸筋が結構しっかりしている。宰相と側近は師弟関係だそうだ。二人の出会いは射撃の大会で同じチームになった遥か昔。夫は今ではライフル協会の名誉会員で、十三歳から本格的な政治家になるまで十五年以上もの長い間、大会で一位の座を降りなかったと聞いた。
今日はお腹もスッキリしているから、身体も十分ハンサムだった。
肌と肌が触れ合って、温かい身体にぎゅーっと抱きしめられた。シャルロットは一瞬ドキッとしたが、直ぐにそれ以上の安心感が沸き起こって、じっとして胸に抱かれた。
満足そうな息が頭の上で聞こえる。
「なんか」
「ん?」
「なんか、もっと……流されるみたいにわ~っと始まって終わるのかな、って思っていたんですけど」
「ああ」
「意外に楽しい」
「そうか」
じゃあ、もう大丈夫かな。
そう言ったジェフの声が届いたのかはわからない。本人も言ったかどうか曖昧だったから。
****
「んっ、んっ……はぁ、あ、あ、あ……」
脚の間から動かない頭を力の入らぬ手で押すが、意味もない。
「ジェフ、ジェ、フ、また出ちゃう、もっと出ちゃう」
快楽の中心にある、刺激が続き過ぎて痺れたような花芽が下半身を麻痺させる。さっきから強くイくたびに粗相の量が増した。
もう前戯だけでぐずぐずに泣かされて、離して欲しいのに止めてくれない。
手技で達した後から始まった口淫は長く、舌と共に延々と続く指での愛撫に首を振る。
「もうやぁ、ジェフ、や、ぁ、あ、あっ、でるっ」
長く深い快楽と共にコントロールできない痺れが襲う。
我慢できない粗相に必死で抵抗するが、努力も虚しくシーツにまた染みが広がって行く。
ようやく満足したジェフがグスグスと泣くシャルロットの顔を舐め、耳を食べて気を紛らわせる。
「はぁん……も、や」
「ロティ、ロティ」
あやすように耳の中で呼びかけて、自身の下穿きを下げた夫がすっかり蕩ける蜜口に押し当てる。クチ、と卑猥な音を立てながら隘路はすんなり飲み込んでいく。シャルロットは力む暇もない間に夫を受け入れた。
「あ」
少しギュッと腕を掴んで目を瞑ったが、結局またすぐ声も甘く戻る。
「大体入った」
「はぁ、はぁ、はぁ……も、はいった?」
大した痛みもなく、次に一度小さく壁を擦られて、ゾクリと背中に得体のしれない何かが這う。
「散々慣らしてあったから、そんなに痛くなかっただろ?」
「ん、ぜん、ぜ……ふぅんっ……あ、あぁ」
「痛くない?」
眉根を寄せて顔を赤くしたシャルロットが頷く。
初夜までの間に達し方は多岐に渡って教え込まれていたので、もはや処女のようでそうでもなかった。ゆっくりと浅く抽送を繰り返されて、深くキスをして上も下もくっつくと、身体中がジェフと繋がっていくような気分に襲われる。時々、ジェフが様子を見ながら少しずつ奥を穿つ。
「………っ」
「ちゃんと、よければ『いい』、イく時は『いく』と」
虚ろな目で吐息を吐いて夫を見上げる様子に、ジェフの硬度が増す。
「ん……んっ……」
普段の夫からは想像も出来なかったような卑猥な腰の動きを繰り返し、勘所良く探し当て何度もこすりつけてくる。シャルロットの細い腰が反る。
「ぁ、あ、あっ、だめ、だ……あっ」
形の良い乳房を揺らし、両手で瞳を隠した妻はだめだと紡いで喘いでいる。その可愛い抵抗を見つめながら、同じところばかり執拗にゆっくり擦り上げて奥から快感を誘った。
小さく開いたままの口から淫猥な赤い舌が覗き、微かな母音が繰り返される。
よく我慢できたな。
久しぶりのセックスを堪能しながらジェフは自分を褒めた。
正直な所、手を出そうとすれば出せるタイミングはあった。だがバティークの言葉に従った訳ではないが、一度目に見ることは叶わなかった真っ新な新婦のシャルロットが見たかったのも大きい。
時々箍が外れそうにはなったが、執務室や車が初めての場所というのも申し訳ない気もした。昼間に取れる休みもない。
別にそんな趣味があった訳ではないが、とにかく十六も歳が離れていれば二の足を踏むほどの瑞々しさである。快楽を教え込むだけでも十二分に満足できたが、絶頂に身を捩らせている姿を見てはしばしば暴発的に爪を立てさせ喘がせてみたくなって、四十手前になると言うのに持て余した。
身体の下ですっかり悦さに慣れ始め、声にいつもの甘ったるさが戻ってくる。
蕩けた瞳で顎を上げてねだる妻の口を塞いでやり、涎を飲ませてずるりと奥を穿つと、引き起こして正面座位で繋がった。
「はあぁん……」
優しい手つきの夫が、愛おし気に小さな顔を撫でまわし、目尻に滲む涙を拭ってキスをする。
「慣れてきた? 大丈夫か?」
「うん………ジェフ、ジェフ」
「うん?」
広い肩に抱き着いて、珍しく気持ちの高ぶったシャルロットがジェフの首筋に舌を這わせ、吸い付く。大きな手がミルクティー色の髪を撫で、反対の手で背中を抱いた。
「全然余裕だな」
呟いて、抱いた腰を上下に揺すって深く串刺し始める。
「ひゃっ……はんっ…あ、やっ、あ! あっ」
強い刺激に顔を赤く染めて夫の背中に爪を立て、まさかそれで喜ばれているとも知らずに暫く声を上げて揺すられる。ジェフはもっと手の中の愛しい生き物を壊したくなって、しつこく続けた。
汗の滴るジェフが息を乱してくったりする細い腰を支え、丁寧に寝かせる。一度覆って顔中を舐める。シャルロットは気持ちが溢れて嬉しくて、目を潤ませて首に腕を絡ませた。
「んん……ジェフ……だいすき……ずっと…ずっとこうして」
「あんまり可愛いことを言うな」
壊しそうだ、とシャルロットには意味不明なことを口走るくらいにはジェフにも余裕がなくなってきている。
細い片足を高く上げて斜めに深く挿入ると、鳴き声が上がりジェフもきつそうに眉間に皺を寄せた。長い指が繋目から溢れた愛液を掬い、薄茶の淡い恥毛の中からまだ感覚の痺れる粒を摘まむ。同時に硬い陰茎が中をぐちゅぐちゅ擦り始めた。
「あ、それ、や! ひぃん…ジェ……ジェ、だ、っ……」
「あー…いっぱい出てくるな……ん…きつい」
シャルロットが眉を下げて朦朧として首を振り、白い指がシーツや枕を引っ掻き握る。ジェフが暑そうに髪をかきあげ、玩具のように一度グッと女の腰を引き寄せると最後の仕上げに腰を突き上げ始める。
「ロティ、イけそう?」
目を瞑ったシャルロットが真っ赤な顔で一生懸命小さく頷く。
「あーーーーっ、イッてる、も、イ、んんっ……あ、も」
ジェフも吐息を漏らす。
「ぁん、は、や、またくる、ジェフ、ジェ」
可愛い大きな鳴き声を聞いた後で、ジェフも動きを止めた。
シャルロットは放心したように薄目を空けて、暫く荒い息を繰り返した。
低く甘い声が自分の名を呼ぶので目を開けると、上から心配そうにジェフが覗き込んだ。その首に巻き付いて無意識で口に吸い付く。ジェフは可愛くて仕方ないとばかりに大事そうに生え際を撫でさすった。
くちゅくちゅくちゅくちゅ長く舌を絡ませる。次第に脚の間にあった強い余韻が消えた後、夫が身体から出て行った。
「はぁ」
大きな身体でごろんとベッドに横たわって、長い髪を指で遊ぶ。
しばらくシャルロットも転がったままじっとしていたが、だんだん瞼が下がってくる。
「あ、眠たいな」
「ん……」
挙式の準備もあって朝も早く、一日ずっと楽しかったので体力的にもう限界。ジェフがガウンを羽織って洗面に立ち、テルミアが用意してくれていたタオルを熱い湯につけ、絞ってからシャルロットの顔や体を拭いてくれる。
「大丈夫か? どこかつらい所は」
「ぜんぶつらい」
「全部!?」
「ふふ、嘘です……」
眠たそうな中ふざけて答え、満ち足りた表情で腕を伸ばして夫の手首を引っ張った。
「ん?」
「ねむたい」
「うん」
「ぎゅって」
「あぁ、ちょっと待って」
「まてない」
「あ~……ロティ、待て」
慌ててタオルをボウルに放り投げに行く。
またガウンを脱いで床に投げ、眠る肩を抱き寄せると拭いたばかりの頬にキスをした。
「おやすみ、ロティ」
「ん……み……ぃ、ジェフ」
すっかり安心したように、すぅすぅと寝息を立て始めた愛しい生き物をジェフはそれからじっと眺め続けた。
「どうしたんですか? テルミアさん。私、何かしましたか?」
「まぁ、申し訳ございません、奥様にではございません、ちょっと先程旦那様が」
「ジェフですか?」
「ええ。とにかく早くしろ、早くしろと。髪が濡れていても何でも良いと。何も着せていなくていいと仰るものですから」
「へ」
「いい加減になさいませと怒っておきました。わたくしどもはこの日の為にナイトウェアを新調したり香りを選んだり、それはそれは色んなあれこれを用意していると言うのに!」
真っ赤な顔になってシャルロットが俯く。
「もうしわけございません」
リーリエとイルダも手を動かしながら話を聞いて笑っている。
「奥様が謝る必要はありません。全く今まで一年以上あったって言うのに、何を仰っているんだか」
支度が終わり、最後に薄手のガウンを着せられた。
「さぁ、ではお部屋へ参りましょう。奥様、大丈夫ですか?」
「……ハイ」
「何度も申し上げておりますが、ご気分が悪くなったり、ジェフ様が何か無体を働かれたら遠慮なくお呼びくださいませ。このテルミアが参りますので」
「アリガトウゴザイマス」
ごにょごにょ答えた。頼りになり過ぎる専用侍女はさておいて、こういう『今から感』が庶民感覚では信じられないが致し方ない。もたもたしながら立ち上がる。
ジェフからすれば散々待っての今日である。
シャルロットは素足にスリッパでペタペタと、メイド達に先導されて今日初めて寝ることになる夫婦の寝室へ向かった。
****
静かに扉を開けて寝室に進むと、ベッドの中で上半身をクッションに預けたティシャツ姿のラフなジェフが手招きしている。部屋には仄かなオレンジ色の柔らかいフロアランプだけ。
「何をしていたんですか?」
にっこりしてベッドに上がると、ガウンでつんのめった。
静かに手が伸びてシャルロットの身体を支えたジェフが、そのままガウンを剥ぎ取る。腕を引かれ、夫の広げた左腕の下に収まった。
「何もしていないよ、君を待ってた」
酒も飲まず本も読まず、ただ妻を待っていただけのジェフが正直に答える。
それはいたって普通の言葉なのだが予想外で、シャルロットは照れ隠しに真面目な顔をしておく。
「赤いな」
長い指先が頬をつついた。つつかれて、そのままそっぽを向く。
「ジェフが変なこと言うから」
「言ってないだろ、変なことは。待ってた以外に何もしてない」
「だって。こういう時のジェフは寝たいけど眠れないって目を瞑っているか、本当に寝ているかのどっちかでしょう」
「今日この状況で寝ようとしている奴は頭がおかしいと言いながら今、振り返ってそれは俺だと思った」
シャルロットが思わず吹き出し、ふたりでケタケタと笑う。
「あの時本当に初夜をしていたらどうなっていたかな」
「舌を噛んで死んでます」
「いや、それはどうかな? もしかしたら案外好きになっていたかもしれないぞ」
シャルロットは目を丸くする。それから少し想像した様子を見せた後で、夫を見上げた。
「そうですね……あの時、どれだけ道が分かれていても、結局はジェフのこと、きっと大好きになってたとは思います」
可愛い顔で照れている。
眩しそうに瞳を細め、ハンサムな顔が落ちてくる。シャルロットはほんの少し唇を開いて迎え入れた。もうすっかり仲良しになったジェフの舌が小さな口を覆い、丁寧に舐めていく。唇の形を辿り、薄い両端を舐め、首を傾けて上顎を触れるかどうかの加減でそっと触る。シャルロットは肩から剥き出しの両腕を男の首に乗せ、キッチリしていない可愛い髪を撫でる。
細い肩を抱いていた腕が背中に回り、テルミアに着せられた上品なナイトウェアがサラサラと肌を伝った。白いシルクのベビードールは肩や裾にレースが使われ、深く開いた胸元にはもちろん新郎が解く為のリボンが結ばれている。
「着せなくてもいいと言ったけど、こういうのもなかなか」
「ちょっと恥ずかしいけど、これ可愛い」
よいしょ、とジェフが妻を引っ張り上げて腹を跨がせる。それからポスンとクッションに凭れて離れると初めて見る夜の姿を楽しみ始めた。
「いいな」
「可愛いでしょ? レースが蝶々」
「いや、綺麗だ。よく似合ってる」
「………」
目が泳ぐ。頬がまた熱くなる。
「可愛いは良いけど、綺麗は恥ずかしいか。意外に照れ屋だな」
シャルロットは対応に困るので、頭を落として口づけで誤魔化しに向かう。ジェフが小さく笑いながら唇を吸い、舌を絡め合った。
硬い指先がナイトウェアの裾から入り込んで、そうっと包むように細い腰を揉む。腰から背中にかけて弱いシャルロットは、それだけで小さく震える。一生懸命ジェフの唇を食んで舌を挿し入れて逃げる舌を追いかけ、色んな所を舐めた。やがて追いかけていたはずの舌は絡めとられ、恍惚感を連れてくる。唾液で口の周りがぬるぬると光るようになると、男の唇が滑っていくだけでシャルロットは腰から力が抜けていく。
ジェフの手はいつも優しい。だけどいつだって撫でられたり摘ままれたり、しつこいくらいに何度も何度も繰り返されるうちに靄の中に放り込まれたようによくわからなくなってくる。
腰と背中を支えられてまた仰向けにひっくり返されると、覆いかぶさったジェフが首を大きな口で食んでいく。余すことなく食べ尽くす。シャルロットは小さな吐息をついて目を瞑る。
「ん……ん……」
脇腹を撫でていた手が上がって膨らみに行きつく。既に尖った胸先に気が付いて、ジェフはベビードールの上から掠めるように指の腹で不規則に擦る。
「ん……は……あ、あ」
揺れる布地のせいで既に敏感になっている先端に、焦れた手つきで与えられる甘い刺激が心地いい。首筋を吸っていた唇がまた戻って、互いに微笑んで口づける。
「ジェフ、ジェフ」
「んん?」
「だいすき」
「うん」
額をくっ付け合って顔を眺めて、寝転んで何度もキスをする。
やがて真ん中のリボンが解かれて、シャルロットは一糸纏わぬ姿になった。ジェフが自分も脱いでも良いかと聞くので、びっくりする。
「そっか。ジェフも脱ぐんだった」
「上だけ」
どうぞ、と頷くと、着ていた白いティシャツを脱いだ。
「………」
「また赤くなってるけど」
夫は笑い始める。だけど仕方ない。男の裸など初めてだった。
「どこを見たらいいの!?」
「さぁ。好きな所を見ればいいけど……いや、でも違う! しっかり見て覚えておいてくれ」
「え? どういうこと?」
「今日の為に暫く酒を控えた」
「えっ、ジェフが!?」
頷いて、自分の腹を撫でている。
「きっと男は俺で最初で最後なのに、始めからソレじゃあ奥様が可哀想だとセバスが言うから」
説教されている様子が、まるで見ているみたいに浮かぶ。
シャルロットは胸がいっぱいになった。あんなにお酒が大好きなのに。
「じゃあ、今日が最高傑作?」
「そうだ、今日で打ち切りかもしれん」
「……わかんないけど、かっこいい」
「じゃあもう少しがんばろう」
照れたような可愛い忍び笑いがあがる。他の男の身体なんて知らないが、見ているだけで腰骨をなぞられているような気がした。ジェフは背も高く、飲酒のせいで弛んだ腹さえ除けば不規則過ぎる生活で太る暇さえない。たまにバルカスと射撃場に出かけたりもしているので、姿勢が良くて二の腕と胸筋が結構しっかりしている。宰相と側近は師弟関係だそうだ。二人の出会いは射撃の大会で同じチームになった遥か昔。夫は今ではライフル協会の名誉会員で、十三歳から本格的な政治家になるまで十五年以上もの長い間、大会で一位の座を降りなかったと聞いた。
今日はお腹もスッキリしているから、身体も十分ハンサムだった。
肌と肌が触れ合って、温かい身体にぎゅーっと抱きしめられた。シャルロットは一瞬ドキッとしたが、直ぐにそれ以上の安心感が沸き起こって、じっとして胸に抱かれた。
満足そうな息が頭の上で聞こえる。
「なんか」
「ん?」
「なんか、もっと……流されるみたいにわ~っと始まって終わるのかな、って思っていたんですけど」
「ああ」
「意外に楽しい」
「そうか」
じゃあ、もう大丈夫かな。
そう言ったジェフの声が届いたのかはわからない。本人も言ったかどうか曖昧だったから。
****
「んっ、んっ……はぁ、あ、あ、あ……」
脚の間から動かない頭を力の入らぬ手で押すが、意味もない。
「ジェフ、ジェ、フ、また出ちゃう、もっと出ちゃう」
快楽の中心にある、刺激が続き過ぎて痺れたような花芽が下半身を麻痺させる。さっきから強くイくたびに粗相の量が増した。
もう前戯だけでぐずぐずに泣かされて、離して欲しいのに止めてくれない。
手技で達した後から始まった口淫は長く、舌と共に延々と続く指での愛撫に首を振る。
「もうやぁ、ジェフ、や、ぁ、あ、あっ、でるっ」
長く深い快楽と共にコントロールできない痺れが襲う。
我慢できない粗相に必死で抵抗するが、努力も虚しくシーツにまた染みが広がって行く。
ようやく満足したジェフがグスグスと泣くシャルロットの顔を舐め、耳を食べて気を紛らわせる。
「はぁん……も、や」
「ロティ、ロティ」
あやすように耳の中で呼びかけて、自身の下穿きを下げた夫がすっかり蕩ける蜜口に押し当てる。クチ、と卑猥な音を立てながら隘路はすんなり飲み込んでいく。シャルロットは力む暇もない間に夫を受け入れた。
「あ」
少しギュッと腕を掴んで目を瞑ったが、結局またすぐ声も甘く戻る。
「大体入った」
「はぁ、はぁ、はぁ……も、はいった?」
大した痛みもなく、次に一度小さく壁を擦られて、ゾクリと背中に得体のしれない何かが這う。
「散々慣らしてあったから、そんなに痛くなかっただろ?」
「ん、ぜん、ぜ……ふぅんっ……あ、あぁ」
「痛くない?」
眉根を寄せて顔を赤くしたシャルロットが頷く。
初夜までの間に達し方は多岐に渡って教え込まれていたので、もはや処女のようでそうでもなかった。ゆっくりと浅く抽送を繰り返されて、深くキスをして上も下もくっつくと、身体中がジェフと繋がっていくような気分に襲われる。時々、ジェフが様子を見ながら少しずつ奥を穿つ。
「………っ」
「ちゃんと、よければ『いい』、イく時は『いく』と」
虚ろな目で吐息を吐いて夫を見上げる様子に、ジェフの硬度が増す。
「ん……んっ……」
普段の夫からは想像も出来なかったような卑猥な腰の動きを繰り返し、勘所良く探し当て何度もこすりつけてくる。シャルロットの細い腰が反る。
「ぁ、あ、あっ、だめ、だ……あっ」
形の良い乳房を揺らし、両手で瞳を隠した妻はだめだと紡いで喘いでいる。その可愛い抵抗を見つめながら、同じところばかり執拗にゆっくり擦り上げて奥から快感を誘った。
小さく開いたままの口から淫猥な赤い舌が覗き、微かな母音が繰り返される。
よく我慢できたな。
久しぶりのセックスを堪能しながらジェフは自分を褒めた。
正直な所、手を出そうとすれば出せるタイミングはあった。だがバティークの言葉に従った訳ではないが、一度目に見ることは叶わなかった真っ新な新婦のシャルロットが見たかったのも大きい。
時々箍が外れそうにはなったが、執務室や車が初めての場所というのも申し訳ない気もした。昼間に取れる休みもない。
別にそんな趣味があった訳ではないが、とにかく十六も歳が離れていれば二の足を踏むほどの瑞々しさである。快楽を教え込むだけでも十二分に満足できたが、絶頂に身を捩らせている姿を見てはしばしば暴発的に爪を立てさせ喘がせてみたくなって、四十手前になると言うのに持て余した。
身体の下ですっかり悦さに慣れ始め、声にいつもの甘ったるさが戻ってくる。
蕩けた瞳で顎を上げてねだる妻の口を塞いでやり、涎を飲ませてずるりと奥を穿つと、引き起こして正面座位で繋がった。
「はあぁん……」
優しい手つきの夫が、愛おし気に小さな顔を撫でまわし、目尻に滲む涙を拭ってキスをする。
「慣れてきた? 大丈夫か?」
「うん………ジェフ、ジェフ」
「うん?」
広い肩に抱き着いて、珍しく気持ちの高ぶったシャルロットがジェフの首筋に舌を這わせ、吸い付く。大きな手がミルクティー色の髪を撫で、反対の手で背中を抱いた。
「全然余裕だな」
呟いて、抱いた腰を上下に揺すって深く串刺し始める。
「ひゃっ……はんっ…あ、やっ、あ! あっ」
強い刺激に顔を赤く染めて夫の背中に爪を立て、まさかそれで喜ばれているとも知らずに暫く声を上げて揺すられる。ジェフはもっと手の中の愛しい生き物を壊したくなって、しつこく続けた。
汗の滴るジェフが息を乱してくったりする細い腰を支え、丁寧に寝かせる。一度覆って顔中を舐める。シャルロットは気持ちが溢れて嬉しくて、目を潤ませて首に腕を絡ませた。
「んん……ジェフ……だいすき……ずっと…ずっとこうして」
「あんまり可愛いことを言うな」
壊しそうだ、とシャルロットには意味不明なことを口走るくらいにはジェフにも余裕がなくなってきている。
細い片足を高く上げて斜めに深く挿入ると、鳴き声が上がりジェフもきつそうに眉間に皺を寄せた。長い指が繋目から溢れた愛液を掬い、薄茶の淡い恥毛の中からまだ感覚の痺れる粒を摘まむ。同時に硬い陰茎が中をぐちゅぐちゅ擦り始めた。
「あ、それ、や! ひぃん…ジェ……ジェ、だ、っ……」
「あー…いっぱい出てくるな……ん…きつい」
シャルロットが眉を下げて朦朧として首を振り、白い指がシーツや枕を引っ掻き握る。ジェフが暑そうに髪をかきあげ、玩具のように一度グッと女の腰を引き寄せると最後の仕上げに腰を突き上げ始める。
「ロティ、イけそう?」
目を瞑ったシャルロットが真っ赤な顔で一生懸命小さく頷く。
「あーーーーっ、イッてる、も、イ、んんっ……あ、も」
ジェフも吐息を漏らす。
「ぁん、は、や、またくる、ジェフ、ジェ」
可愛い大きな鳴き声を聞いた後で、ジェフも動きを止めた。
シャルロットは放心したように薄目を空けて、暫く荒い息を繰り返した。
低く甘い声が自分の名を呼ぶので目を開けると、上から心配そうにジェフが覗き込んだ。その首に巻き付いて無意識で口に吸い付く。ジェフは可愛くて仕方ないとばかりに大事そうに生え際を撫でさすった。
くちゅくちゅくちゅくちゅ長く舌を絡ませる。次第に脚の間にあった強い余韻が消えた後、夫が身体から出て行った。
「はぁ」
大きな身体でごろんとベッドに横たわって、長い髪を指で遊ぶ。
しばらくシャルロットも転がったままじっとしていたが、だんだん瞼が下がってくる。
「あ、眠たいな」
「ん……」
挙式の準備もあって朝も早く、一日ずっと楽しかったので体力的にもう限界。ジェフがガウンを羽織って洗面に立ち、テルミアが用意してくれていたタオルを熱い湯につけ、絞ってからシャルロットの顔や体を拭いてくれる。
「大丈夫か? どこかつらい所は」
「ぜんぶつらい」
「全部!?」
「ふふ、嘘です……」
眠たそうな中ふざけて答え、満ち足りた表情で腕を伸ばして夫の手首を引っ張った。
「ん?」
「ねむたい」
「うん」
「ぎゅって」
「あぁ、ちょっと待って」
「まてない」
「あ~……ロティ、待て」
慌ててタオルをボウルに放り投げに行く。
またガウンを脱いで床に投げ、眠る肩を抱き寄せると拭いたばかりの頬にキスをした。
「おやすみ、ロティ」
「ん……み……ぃ、ジェフ」
すっかり安心したように、すぅすぅと寝息を立て始めた愛しい生き物をジェフはそれからじっと眺め続けた。
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