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丸くて柔らかい頬にキスをすると、ウィルの目にはじわりと涙が浮かぶ。
「あ…あ~、やっぱり」
「行くのやめようかな、じゃないですよ? 大丈夫です、お歌を歌って体操したらきっと直ぐにお昼寝の時間ですから、目が覚める頃にお迎えです。初めてなんでしょう?託児チケットお使いになるのも。勿体ない! せっかくなんですから羽を伸ばして来てください」
「う…なるべく早くに迎えに来るね?」
「早くなくても。あの…それとは別にウィル君のこの」
「びぇ…ぁぁまぁ」
「あ~! よ~しよしよし大丈夫ですよぉぉ、ささ、早く行って下さい、クラウディアさん!」
「あ、あ、じゃあ、行ってきます」
用件が用件なだけに後ろめたさを感じながら、ウィルを預けた託児所を後にする。
ごめんね、ウィル。あばずれなママで。本当にごめんなさい。
でも私、考えたの。このまま人里離れたあの家でどんどん歳を重ねていく自分と、大きくなっていくあなた。一度も結婚しないで、まともな恋人ひとり持った経験がないままウィルが出て行ったがらんどうの家でずーーーーーっとブツブツ呪文唱えながら回復薬作って売って作って売って作って売って腐っていくのかな、って。
妊娠がわかったあの日から千五百日近く家に籠って唱え続けて働いて、正直私は街の空気を吸いたかったのと、人恋しさでおかしくなっていた。毎週回復薬を取りに来るおじいちゃんと、十日に一度回ってくる守銭奴の行商夫婦しか話し相手がいなかったせいだ。三人ともいかにも訳ありで山中に隠れ住む私が余程痛々しいのか、目線を合わせてもくれないし、無駄話もしてくれない。挙句、人恋しさにうっかり値の張る回復薬を売っているとバラシてしまい、私は夫婦に完全にカモにされていた。
だけどもう、街中へ降りてもきっと大丈夫だろう。
それで先日思い切って街の婚活バーでのイベントに登録と申込をした。
なんとかの舞台から飛び降りた気分でウィルのお昼寝タイムに高位転移魔法で役所にぶっ飛び、イベント一覧から健全な休日昼間のバーで開催されるイベントを申し込んだ。夜の婚活バーとかは最初からちょっと怖い。夜泣きも怖い。
ぷるぷると軽い両手を振って、抱っこも手も繋いでいない身軽な自分に衝撃を受ける。
今、完全に自由!!
カッと奮起して、イベント会場のバー近くにある飲み屋街で完全にイケている服を買い、着替えた。胸元は深く切れ込んで露出度お高め、値段もお高めで腰に巻かれた太いサシェがくびれを程よく強調出来ている。
ここまででお察しの通り、私は純朴ではない。ゆえにたかだか二、三時間で自分を知ってもらおうと考えると、それなりの『見るからにこなれた感』を出す方が誠実であろう、という結論からのチョイスだった。
サクッと転移して、託児所の斜め前、婚活バーの入っている建物の路地へと戻る。
そうして私は雰囲気のある落ち着いた店の扉を開けた。
****
「今日はご参加くださいまして、あ~りがとうございまぁす!わたくし、本日の司会を務めさせていただきますライトンでございます!どうぞ二時間のイベント、一緒にも~りあげていきましょ~!」
わ~ぱちぱちぱち
急に帰りたくなってきた。
私は床板の木目をじっと見つめる。自己紹介は小さい頃から苦手だったし、折角の深い胸元の切れ込みを隠すかのごとく貼られた大きな大きなお名前シールも痒かった。
「え~、では~、本日は五、対、五の男女比でマッチング大会! ゆっくりじっくりお話時間を設けていますから、お相手への質問しっかりなさってくださいね! また、今回は非常に誠実なマッチングを目的としていますので、嘘を言った場合は水責めの魔法にかかります」
まじか。
「嘘が二回で強制退場です。皆さん誠実な態度で向き合い、良縁を! 素敵なカップリングを成立させましょ~!」
お~ぱちぱちぱち
「では、最初に女性は決められた壁際に設けてある半個室ブースへお入り下さい。今から十分の時間を測りますので順番にやってくる男性とペアになり、お互いに自己紹介タイムです」
なるほど効率よく時間内に理解を深めるプログラムになっている。私は係員にあらかじめ渡されていた番号が付いたブースに入った。
そこにはテーブルセットがあり、良い香りのするティポットとティカップ、すごく美味しそうな小さなお菓子が籠にセットされていた。男性がクジを引いている間に、紅茶を入れてマロングラッセを食べた。別に頼んだわけではないが紅茶は私好みのオレンジティーで、グラッセもクッキーも上品で良い味だった。なかなかコスパの良い婚活だ。
直ぐにアイスコーヒーを手に、私のブースへと男性がやってきた。
「初めまして、ギリアムです」
「初めまして、クラウディアです」
それからお互いに自己紹介カードを差し出しあう。そこには必要最低限の情報が既に書かれていた。私のカード内容はこうだ。
①氏名:クラウディア・オルネラス
②年齢:二十八歳
③職業:ハンドクラフト作家
④既婚歴:なし
⑤同居している家族:子
⑥趣味:特になし
⑦相手に求める一番の特性:優しさ
⑧レベル:4
ギリアムさんは三十三歳、役所でカウンセラーをしていて既婚歴が無く、実家住まい。相手に求める特性は特になし、レベルはなんと0だった。1でもなくて、0なんだ。
「ご趣味はバードウォッチング、ですか」
「はい。実は大事な鳥を逃がしてしまいまして。それ以来、空を」
「ああ、じゃあずっと探されているのですね?」
「おっしゃる通りです」
そうか、全く魔力が無いヒトならどうしようもないだろう。気の毒に。
ギリアムさんは落ち着いたスーツで、どちらかと言うと特徴のない顔をしていた。でも優しそうな表情をする人だ。
「クラウディアさんはハンドクラフト作家? 何を作っていらっしゃるんですか」
「元気が出るお薬です」
「…元気が?」
「うふふ」
回復薬というと人の目が変わることを経験しているので、曖昧に答えておくに限る。
この国ではほとんどの人間に魔力がある。魔力は上から順に
レベル5 レベル高位4と無効化
レベル4 レベル高位3と高位転移
レベル3 レベル2と回復、変換
レベル2 レベル1とループ、擬態
レベル1 生活魔法
レベル0 ヒト
というレベル分けを測定されて、国民すべてが管理局に登録される。レベル0は暗闇で暗いまま過ごすくらいにただの人、という『ヒト』である。かえって珍しかった。
「あの私、レベルが4なんです。色々と作って売り物に出来る感じで。」
「ええ、そうですよね。4の方なんて初めて会いました。こんな辺境の土地になぜ? もっと都会の方が良いお仕事もあるんじゃ」
「仕事だけを考えたら、働き口は都会の方がね。でも、自然豊かな場所も子供の環境に良いので。都会に戻るつもりはありません」
戻りたくもない。
「なるほど。お子さんが。どんなお子さんです?」
「今、三つです。少しヤンチャな男の子で。よく木登りをします。直ぐに虫をポケットに入れてしまうような子です」
「へぇ!それは元気があって良いですね」
「あの…こども、大丈夫ですか?」
これは完全必須の確認事項。嫌いなのに好きなんて答えれば目の前の人はビッショビショになる。嘘を吐けばわかるなんて、とても良いシステムだった。
「大歓迎です。こちらに連れていらっしゃれば良かったのに」
水は一滴も来ない。ホッとする。
「さすがにそれは…今日はすぐそこの託児所で遊んでいます」
「へぇ、近くの。すいません、ちょっとお手洗いに。緊張してしまって」
「ええ、もちろんどうぞ」
ギリアムさんは一旦席を立ってブースを離れた。私はほっとして一息を吐く。
これをあと四回繰り返すのもぞっとするが、仕方ない。そういう場所だ。ギリアムさんは良い人そうだった。役所というのも安定していて手堅く、ポイントが高い。私もかつては役人だった。
魔力に関する一切を管理する管理局。そこで四人いる管理官のうちの一人の補佐をしていた。
平民の私が貴族ばかりが集まる管理局に勤められたのは、ひとえにレベル4という魔力によるものだ。さっきギリアムさんが驚いていたが、レベル4の人間は国にそう多くない。そもそも私が算出していたから非公表のパーセンテージまで知っている。4以上は金持ちや貴族ばかり。これはレベル4だからこそ貴族や金持ちになれたことを意味している。魔力なんてものはほぼ遺伝。たま~に私のような突発が生まれるくらいで、国民の八割が1か2だった。
「あ…あ~、やっぱり」
「行くのやめようかな、じゃないですよ? 大丈夫です、お歌を歌って体操したらきっと直ぐにお昼寝の時間ですから、目が覚める頃にお迎えです。初めてなんでしょう?託児チケットお使いになるのも。勿体ない! せっかくなんですから羽を伸ばして来てください」
「う…なるべく早くに迎えに来るね?」
「早くなくても。あの…それとは別にウィル君のこの」
「びぇ…ぁぁまぁ」
「あ~! よ~しよしよし大丈夫ですよぉぉ、ささ、早く行って下さい、クラウディアさん!」
「あ、あ、じゃあ、行ってきます」
用件が用件なだけに後ろめたさを感じながら、ウィルを預けた託児所を後にする。
ごめんね、ウィル。あばずれなママで。本当にごめんなさい。
でも私、考えたの。このまま人里離れたあの家でどんどん歳を重ねていく自分と、大きくなっていくあなた。一度も結婚しないで、まともな恋人ひとり持った経験がないままウィルが出て行ったがらんどうの家でずーーーーーっとブツブツ呪文唱えながら回復薬作って売って作って売って作って売って腐っていくのかな、って。
妊娠がわかったあの日から千五百日近く家に籠って唱え続けて働いて、正直私は街の空気を吸いたかったのと、人恋しさでおかしくなっていた。毎週回復薬を取りに来るおじいちゃんと、十日に一度回ってくる守銭奴の行商夫婦しか話し相手がいなかったせいだ。三人ともいかにも訳ありで山中に隠れ住む私が余程痛々しいのか、目線を合わせてもくれないし、無駄話もしてくれない。挙句、人恋しさにうっかり値の張る回復薬を売っているとバラシてしまい、私は夫婦に完全にカモにされていた。
だけどもう、街中へ降りてもきっと大丈夫だろう。
それで先日思い切って街の婚活バーでのイベントに登録と申込をした。
なんとかの舞台から飛び降りた気分でウィルのお昼寝タイムに高位転移魔法で役所にぶっ飛び、イベント一覧から健全な休日昼間のバーで開催されるイベントを申し込んだ。夜の婚活バーとかは最初からちょっと怖い。夜泣きも怖い。
ぷるぷると軽い両手を振って、抱っこも手も繋いでいない身軽な自分に衝撃を受ける。
今、完全に自由!!
カッと奮起して、イベント会場のバー近くにある飲み屋街で完全にイケている服を買い、着替えた。胸元は深く切れ込んで露出度お高め、値段もお高めで腰に巻かれた太いサシェがくびれを程よく強調出来ている。
ここまででお察しの通り、私は純朴ではない。ゆえにたかだか二、三時間で自分を知ってもらおうと考えると、それなりの『見るからにこなれた感』を出す方が誠実であろう、という結論からのチョイスだった。
サクッと転移して、託児所の斜め前、婚活バーの入っている建物の路地へと戻る。
そうして私は雰囲気のある落ち着いた店の扉を開けた。
****
「今日はご参加くださいまして、あ~りがとうございまぁす!わたくし、本日の司会を務めさせていただきますライトンでございます!どうぞ二時間のイベント、一緒にも~りあげていきましょ~!」
わ~ぱちぱちぱち
急に帰りたくなってきた。
私は床板の木目をじっと見つめる。自己紹介は小さい頃から苦手だったし、折角の深い胸元の切れ込みを隠すかのごとく貼られた大きな大きなお名前シールも痒かった。
「え~、では~、本日は五、対、五の男女比でマッチング大会! ゆっくりじっくりお話時間を設けていますから、お相手への質問しっかりなさってくださいね! また、今回は非常に誠実なマッチングを目的としていますので、嘘を言った場合は水責めの魔法にかかります」
まじか。
「嘘が二回で強制退場です。皆さん誠実な態度で向き合い、良縁を! 素敵なカップリングを成立させましょ~!」
お~ぱちぱちぱち
「では、最初に女性は決められた壁際に設けてある半個室ブースへお入り下さい。今から十分の時間を測りますので順番にやってくる男性とペアになり、お互いに自己紹介タイムです」
なるほど効率よく時間内に理解を深めるプログラムになっている。私は係員にあらかじめ渡されていた番号が付いたブースに入った。
そこにはテーブルセットがあり、良い香りのするティポットとティカップ、すごく美味しそうな小さなお菓子が籠にセットされていた。男性がクジを引いている間に、紅茶を入れてマロングラッセを食べた。別に頼んだわけではないが紅茶は私好みのオレンジティーで、グラッセもクッキーも上品で良い味だった。なかなかコスパの良い婚活だ。
直ぐにアイスコーヒーを手に、私のブースへと男性がやってきた。
「初めまして、ギリアムです」
「初めまして、クラウディアです」
それからお互いに自己紹介カードを差し出しあう。そこには必要最低限の情報が既に書かれていた。私のカード内容はこうだ。
①氏名:クラウディア・オルネラス
②年齢:二十八歳
③職業:ハンドクラフト作家
④既婚歴:なし
⑤同居している家族:子
⑥趣味:特になし
⑦相手に求める一番の特性:優しさ
⑧レベル:4
ギリアムさんは三十三歳、役所でカウンセラーをしていて既婚歴が無く、実家住まい。相手に求める特性は特になし、レベルはなんと0だった。1でもなくて、0なんだ。
「ご趣味はバードウォッチング、ですか」
「はい。実は大事な鳥を逃がしてしまいまして。それ以来、空を」
「ああ、じゃあずっと探されているのですね?」
「おっしゃる通りです」
そうか、全く魔力が無いヒトならどうしようもないだろう。気の毒に。
ギリアムさんは落ち着いたスーツで、どちらかと言うと特徴のない顔をしていた。でも優しそうな表情をする人だ。
「クラウディアさんはハンドクラフト作家? 何を作っていらっしゃるんですか」
「元気が出るお薬です」
「…元気が?」
「うふふ」
回復薬というと人の目が変わることを経験しているので、曖昧に答えておくに限る。
この国ではほとんどの人間に魔力がある。魔力は上から順に
レベル5 レベル高位4と無効化
レベル4 レベル高位3と高位転移
レベル3 レベル2と回復、変換
レベル2 レベル1とループ、擬態
レベル1 生活魔法
レベル0 ヒト
というレベル分けを測定されて、国民すべてが管理局に登録される。レベル0は暗闇で暗いまま過ごすくらいにただの人、という『ヒト』である。かえって珍しかった。
「あの私、レベルが4なんです。色々と作って売り物に出来る感じで。」
「ええ、そうですよね。4の方なんて初めて会いました。こんな辺境の土地になぜ? もっと都会の方が良いお仕事もあるんじゃ」
「仕事だけを考えたら、働き口は都会の方がね。でも、自然豊かな場所も子供の環境に良いので。都会に戻るつもりはありません」
戻りたくもない。
「なるほど。お子さんが。どんなお子さんです?」
「今、三つです。少しヤンチャな男の子で。よく木登りをします。直ぐに虫をポケットに入れてしまうような子です」
「へぇ!それは元気があって良いですね」
「あの…こども、大丈夫ですか?」
これは完全必須の確認事項。嫌いなのに好きなんて答えれば目の前の人はビッショビショになる。嘘を吐けばわかるなんて、とても良いシステムだった。
「大歓迎です。こちらに連れていらっしゃれば良かったのに」
水は一滴も来ない。ホッとする。
「さすがにそれは…今日はすぐそこの託児所で遊んでいます」
「へぇ、近くの。すいません、ちょっとお手洗いに。緊張してしまって」
「ええ、もちろんどうぞ」
ギリアムさんは一旦席を立ってブースを離れた。私はほっとして一息を吐く。
これをあと四回繰り返すのもぞっとするが、仕方ない。そういう場所だ。ギリアムさんは良い人そうだった。役所というのも安定していて手堅く、ポイントが高い。私もかつては役人だった。
魔力に関する一切を管理する管理局。そこで四人いる管理官のうちの一人の補佐をしていた。
平民の私が貴族ばかりが集まる管理局に勤められたのは、ひとえにレベル4という魔力によるものだ。さっきギリアムさんが驚いていたが、レベル4の人間は国にそう多くない。そもそも私が算出していたから非公表のパーセンテージまで知っている。4以上は金持ちや貴族ばかり。これはレベル4だからこそ貴族や金持ちになれたことを意味している。魔力なんてものはほぼ遺伝。たま~に私のような突発が生まれるくらいで、国民の八割が1か2だった。
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