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飯屋の娘に転生した現代人が、ただ特別な日をお祝いしたいだけのお話。
その2 クリスマスといえば
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「シーちゃんシーちゃん、これ、わたしからのプレゼントです」
そう言って厨房からお手製のワゴンに乗せて持ってきたあるものを、お誕生日席に座る彼女の前にそっ、と置きました。
「リーちゃん、これなに?」
反応の薄そうな言葉とは裏腹に、それを見つめるシーちゃんの瞳は期待に満ちてキラキラしています。
「ふっふっふー、よくぞ聞いてくれました。これはですねー、『苺のケーキ』です!」
そう、交渉の結果、料理は駄目でしたが、デザートの提供についてはオーケーをもらいました! お父さんはあくまで料理人ですからね。お菓子やケーキなんかのスイーツは専門外です。そもそも下町にはスイーツなんてほとんど存在しませんからね。現代日本の知識があり、加えて先生のお屋敷で貴族の料理を知っているわたしにしか作れないものを提案すれば、お父さんを説得できると思ったのです。……最終的にはゴリ押しでしたけど(´・ω・`)
「いちごの、ケーキっ……!」
彼女の傍に立つわたしをキラキラとした目で見上げるシーちゃんに、わたしは意識を切り替え、先生のお屋敷でメイドをしているときのように姿勢を正します。……わたしのおもてなしはここからですよ、シーちゃん。
「では、お嬢様。こちらのデザートについてご説明させていただいてもよろしいでしょうか?」
まるでお姫様にでも接するかのように恭しく、片手を胸に置き柔らかく微笑みながら、本日の主役である彼女に声を掛けます。
「は、はわわわゎゎっ……! じゃ、ない。え、えっと……よ、よろしくてよ?」
突然雰囲気と言葉使いが変わったわたしに戸惑ったのか、最初は慌てたものの、意図に気づいてくれたようで彼女もそれらしい言葉使いにしてくれました。
これはあれです。ごっこ遊びというかおままごとの延長です。お金も物もない平民の子どもの遊びなんて、鬼ごっことかかくれんぼとか昭和の子どもみたいな遊びしかありませんからね。……や、実際昭和の子どもがどんな遊びをしていたのかよく知りませんが。なんとなくな言葉のイメージです。
その中でもやはりおままごとは女の子に人気なのです。特にこういったお姫様とか貴族のお嬢様に扮するものは。
識字率が低く情報の限られる平民の、それも子どもがお姫様やお嬢様の存在を知っているのは不思議に思うかもしれませんが、お城から一番近い港のあるこの街は、外交に赴く王族や貴族が結構通るのですよ。逆に他国から外交にやってきた王族や貴族も。ついでに急ぎもでなければご威光を示すために、王様とかお姫様とかパレードとかやっていきますし。
ですので普段は王都や街の中心部に住んでいてあまり姿の見えない王候貴族ですけど、この街の住民はたまに見る機会があります。
ま、あれです、現代だろうと異世界だろうと、女の子は誰だってお姫様に憧れる存在だというお話なのです。わたし? わたしももちろん憧れてますよ、料理人に(ブレない)!
そう、料理です。今回シーちゃんの誕生日ということで真っ先に浮かんだのが、このケーキでした。やっぱり元日本人としては誕生日といったらケーキ! クリスマスといったらケーキ! というくらいにもう、切っても切り離せない仲だと思うのですよ。
というわけでケーキを作るのはすぐ決まったんですけど、地球では今日はクリスマス、せっかくだからフランスのブッシュ・ド・ノエルとかドイツのシュトレン、あとはイギリスのクリスマスプディングとか、クリスマスにちなんだものを作ってみるのもありかな~と迷ってたんですけど、ひとつ(だけじゃなかったけど)問題があったのです。そう、それは…………肝心のケーキを焼くのに適したオーブンが、なかった! のです! がっかりです!
確かにこの世界、基本焼くか煮るかしか調理法がありませんし、ウチは料理屋さんなのでオーブン、というか竈(日本人的にはピザ窯といったほうがイメージしやすいですかね)はあるんですけど、あんな感じの薪を使った火力の調整が難しい代物なんですよ。しかも家庭用じゃなくて業務用なのでなかなかに高火力。ついでにいうならタイマーもありませんので、何回か試したんですけど焼き上がりが安定せず、現代日本のスポンジケーキには程遠い出来だったのです……。他にも綺麗な形のスポンジケーキにするための丸い型とか、それに敷くクッキングシートとか、前世の知識はあっても道具がほとんどありませんでした……。しょんぼりです。
……しょんぼりではありますが、それで諦めるわたしではありません。
「お嬢様、こちらは『苺のケーキ』といいまして、厚く焼いたパンケーキを重ね、間にカットした苺とホイップクリームを挟み、周囲にもホイップクリームを塗り、トッピングに苺を飾り付けたスイーツになります」
そう、現代のショートケーキを再現するのではなく、今のわたしにできる、できるかもしれない調理法──フライパンでスポンジケーキのようにできるだけ厚く、なるたけふわふわのパンケーキを焼いて上面にホイップクリーム(卵や乳製品のような生鮮食品は洗浄魔法で滅菌済みです)を塗り、カットした苺を並べ、再びホイップクリームを塗って、その上にもう一枚のパンケーキを重ね、側面と上面にホイップクリームを塗って、あとは現代のお誕生日ケーキのように等間隔で円の形に赤い苺と白いホイップクリームをデコレーションして、はい、わたし特製『異世界風苺のケーキ』の完成で~す。
「こ、これ、パンケーキ……なの!? じゃなくて、えっと……なのですわ?」
若干言葉使いがおかしいですけど、あわあわしつつも、興奮からかほっぺが赤く染まり、瞳がキラキラしているシーちゃんの無邪気な笑顔が眩しいです。
「はい、ですがこちらは特別な、お嬢様のためにご用意させていただいたスイーツでございます」
パンケーキはシーちゃんの好きな食べ物ですからね。その好物に普段はちょっとお高いので食べられない苺(そこら辺に生っている木苺なんかはよく食べますが)に、見たことないでしょうが、なにやらとても甘そうな香りのするホイップクリームが表面を覆っていますからね。期待に胸が膨らむのも頷けま…………なぜか突然表情が固まったシーちゃんがこちらを向いてチョイチョイと手招きしているので、膝に手をついて少し屈み、椅子に座っている彼女に視線を合わせます。……な、なんですかね?
そう言って厨房からお手製のワゴンに乗せて持ってきたあるものを、お誕生日席に座る彼女の前にそっ、と置きました。
「リーちゃん、これなに?」
反応の薄そうな言葉とは裏腹に、それを見つめるシーちゃんの瞳は期待に満ちてキラキラしています。
「ふっふっふー、よくぞ聞いてくれました。これはですねー、『苺のケーキ』です!」
そう、交渉の結果、料理は駄目でしたが、デザートの提供についてはオーケーをもらいました! お父さんはあくまで料理人ですからね。お菓子やケーキなんかのスイーツは専門外です。そもそも下町にはスイーツなんてほとんど存在しませんからね。現代日本の知識があり、加えて先生のお屋敷で貴族の料理を知っているわたしにしか作れないものを提案すれば、お父さんを説得できると思ったのです。……最終的にはゴリ押しでしたけど(´・ω・`)
「いちごの、ケーキっ……!」
彼女の傍に立つわたしをキラキラとした目で見上げるシーちゃんに、わたしは意識を切り替え、先生のお屋敷でメイドをしているときのように姿勢を正します。……わたしのおもてなしはここからですよ、シーちゃん。
「では、お嬢様。こちらのデザートについてご説明させていただいてもよろしいでしょうか?」
まるでお姫様にでも接するかのように恭しく、片手を胸に置き柔らかく微笑みながら、本日の主役である彼女に声を掛けます。
「は、はわわわゎゎっ……! じゃ、ない。え、えっと……よ、よろしくてよ?」
突然雰囲気と言葉使いが変わったわたしに戸惑ったのか、最初は慌てたものの、意図に気づいてくれたようで彼女もそれらしい言葉使いにしてくれました。
これはあれです。ごっこ遊びというかおままごとの延長です。お金も物もない平民の子どもの遊びなんて、鬼ごっことかかくれんぼとか昭和の子どもみたいな遊びしかありませんからね。……や、実際昭和の子どもがどんな遊びをしていたのかよく知りませんが。なんとなくな言葉のイメージです。
その中でもやはりおままごとは女の子に人気なのです。特にこういったお姫様とか貴族のお嬢様に扮するものは。
識字率が低く情報の限られる平民の、それも子どもがお姫様やお嬢様の存在を知っているのは不思議に思うかもしれませんが、お城から一番近い港のあるこの街は、外交に赴く王族や貴族が結構通るのですよ。逆に他国から外交にやってきた王族や貴族も。ついでに急ぎもでなければご威光を示すために、王様とかお姫様とかパレードとかやっていきますし。
ですので普段は王都や街の中心部に住んでいてあまり姿の見えない王候貴族ですけど、この街の住民はたまに見る機会があります。
ま、あれです、現代だろうと異世界だろうと、女の子は誰だってお姫様に憧れる存在だというお話なのです。わたし? わたしももちろん憧れてますよ、料理人に(ブレない)!
そう、料理です。今回シーちゃんの誕生日ということで真っ先に浮かんだのが、このケーキでした。やっぱり元日本人としては誕生日といったらケーキ! クリスマスといったらケーキ! というくらいにもう、切っても切り離せない仲だと思うのですよ。
というわけでケーキを作るのはすぐ決まったんですけど、地球では今日はクリスマス、せっかくだからフランスのブッシュ・ド・ノエルとかドイツのシュトレン、あとはイギリスのクリスマスプディングとか、クリスマスにちなんだものを作ってみるのもありかな~と迷ってたんですけど、ひとつ(だけじゃなかったけど)問題があったのです。そう、それは…………肝心のケーキを焼くのに適したオーブンが、なかった! のです! がっかりです!
確かにこの世界、基本焼くか煮るかしか調理法がありませんし、ウチは料理屋さんなのでオーブン、というか竈(日本人的にはピザ窯といったほうがイメージしやすいですかね)はあるんですけど、あんな感じの薪を使った火力の調整が難しい代物なんですよ。しかも家庭用じゃなくて業務用なのでなかなかに高火力。ついでにいうならタイマーもありませんので、何回か試したんですけど焼き上がりが安定せず、現代日本のスポンジケーキには程遠い出来だったのです……。他にも綺麗な形のスポンジケーキにするための丸い型とか、それに敷くクッキングシートとか、前世の知識はあっても道具がほとんどありませんでした……。しょんぼりです。
……しょんぼりではありますが、それで諦めるわたしではありません。
「お嬢様、こちらは『苺のケーキ』といいまして、厚く焼いたパンケーキを重ね、間にカットした苺とホイップクリームを挟み、周囲にもホイップクリームを塗り、トッピングに苺を飾り付けたスイーツになります」
そう、現代のショートケーキを再現するのではなく、今のわたしにできる、できるかもしれない調理法──フライパンでスポンジケーキのようにできるだけ厚く、なるたけふわふわのパンケーキを焼いて上面にホイップクリーム(卵や乳製品のような生鮮食品は洗浄魔法で滅菌済みです)を塗り、カットした苺を並べ、再びホイップクリームを塗って、その上にもう一枚のパンケーキを重ね、側面と上面にホイップクリームを塗って、あとは現代のお誕生日ケーキのように等間隔で円の形に赤い苺と白いホイップクリームをデコレーションして、はい、わたし特製『異世界風苺のケーキ』の完成で~す。
「こ、これ、パンケーキ……なの!? じゃなくて、えっと……なのですわ?」
若干言葉使いがおかしいですけど、あわあわしつつも、興奮からかほっぺが赤く染まり、瞳がキラキラしているシーちゃんの無邪気な笑顔が眩しいです。
「はい、ですがこちらは特別な、お嬢様のためにご用意させていただいたスイーツでございます」
パンケーキはシーちゃんの好きな食べ物ですからね。その好物に普段はちょっとお高いので食べられない苺(そこら辺に生っている木苺なんかはよく食べますが)に、見たことないでしょうが、なにやらとても甘そうな香りのするホイップクリームが表面を覆っていますからね。期待に胸が膨らむのも頷けま…………なぜか突然表情が固まったシーちゃんがこちらを向いてチョイチョイと手招きしているので、膝に手をついて少し屈み、椅子に座っている彼女に視線を合わせます。……な、なんですかね?
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