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第9話:偽りの決勝と魔王族の影
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アルマ学院、入学試験当日。
午前の筆記試験は、マルクから叩き込まれた魔導理論と前世の知識を駆使すれば、あくびが出るほど簡単だった。目立たぬよう数問だけ書き損じ、アスヤは午後の実技試験へと向かった。
実技はブロック別のトーナメント形式だ。
掲示板で組み合わせを確認していると、あの上級貴族の少年が取り巻きを引き連れて現れた。
「ふん、運がいいな。貴様が私と戦うのはブロック決勝だ。そこまで負けずに上がってこい。もっとも、頂点に立つのはこの俺様だがな!」
アスヤは適当に聞き流し、試合に臨んだ。魔力を一切封印し、純粋な体術と剣の軌道だけで対戦相手を翻弄し、宣言通り決勝へと駒を進める。
しかし、異変は準決勝で起きた。あの上級貴族の少年が、「ゾグマ」と名乗る無名の青年に手も足も出ず、赤子の手をひねるように叩き伏せられたのだ。
そして迎えたブロック決勝戦。
対峙したゾグマから放たれる気配に、アスヤの肌が粟立った。
「……試合開始!」
審判の合図とともに、アスヤは鋭い踏み込みから一撃を放つ。だが、ゾグマはそれを柳のように受け流すと、音もなくアスヤの懐へと潜り込んできた。
(速い……! 身体能力が人間離れしている!)
交差する木剣。アスヤは至近距離で相手の瞳を覗き込み、その奥に潜む底知れない闇の色を見た。
「……君、人間じゃないね?」
アスヤの低い呟きに、ゾグマの口角が吊り上がった。
「ほう……なぜわかった? この精巧な魔力偽装を見破るとはな」
「人のオーラじゃない。……冷たくて、禍々しい気配が漏れてるよ」
「ククッ……バレては仕方ない。そうだ、我は魔王族の密偵。この学院を、そして未来の芽を摘み、壊滅させるために来た。……まずは貴様から殺し、次に観客席の者どもを一人残らず血の海に沈めてやろう」
ゾグマの姿が歪み、その背後から黒い魔力が噴き出す。凄まじい暴力の嵐がアスヤを襲った。
魔力を封印した状態では、防戦一方。アスヤの足元が石畳を削り、じりじりと後退させられる。
(くそっ……剣術だけじゃ、このレベルの魔王族はキツい……!)
その時、観客席の最前列で腕を組んで見ていたライの声が、アスヤの脳裏に直接響いた。
『アスヤ、焦るな。――半分くらいの力で勝て。いいな?』
それは、父からの許可だった。
アスヤは不敵に笑い、自分を縛っていた魔力の鎖を内側から解き放つ。
「了解。半分……いや、四分の一くらいで十分かな」
ドォッ、と闘技場の空気が爆ぜた。
アスヤの周囲に立ち昇る、圧倒的な密度の魔力。ゾグマの顔が驚愕に引きつる。
「……反撃開始だ!」
アスヤの姿がかき消えた。
次の瞬間、ゾグマの腹部にアスヤの拳がめり込み、その巨体が弾丸のように吹き飛んだ。
「ガハッ……!? なに、この、魔力……ッ!」
アスヤの猛攻が始まる。右、左、そして回し蹴り。一つ一つの動作に全属性の魔力が乗り、虹色の残像が闘技場を埋め尽くした。
午前の筆記試験は、マルクから叩き込まれた魔導理論と前世の知識を駆使すれば、あくびが出るほど簡単だった。目立たぬよう数問だけ書き損じ、アスヤは午後の実技試験へと向かった。
実技はブロック別のトーナメント形式だ。
掲示板で組み合わせを確認していると、あの上級貴族の少年が取り巻きを引き連れて現れた。
「ふん、運がいいな。貴様が私と戦うのはブロック決勝だ。そこまで負けずに上がってこい。もっとも、頂点に立つのはこの俺様だがな!」
アスヤは適当に聞き流し、試合に臨んだ。魔力を一切封印し、純粋な体術と剣の軌道だけで対戦相手を翻弄し、宣言通り決勝へと駒を進める。
しかし、異変は準決勝で起きた。あの上級貴族の少年が、「ゾグマ」と名乗る無名の青年に手も足も出ず、赤子の手をひねるように叩き伏せられたのだ。
そして迎えたブロック決勝戦。
対峙したゾグマから放たれる気配に、アスヤの肌が粟立った。
「……試合開始!」
審判の合図とともに、アスヤは鋭い踏み込みから一撃を放つ。だが、ゾグマはそれを柳のように受け流すと、音もなくアスヤの懐へと潜り込んできた。
(速い……! 身体能力が人間離れしている!)
交差する木剣。アスヤは至近距離で相手の瞳を覗き込み、その奥に潜む底知れない闇の色を見た。
「……君、人間じゃないね?」
アスヤの低い呟きに、ゾグマの口角が吊り上がった。
「ほう……なぜわかった? この精巧な魔力偽装を見破るとはな」
「人のオーラじゃない。……冷たくて、禍々しい気配が漏れてるよ」
「ククッ……バレては仕方ない。そうだ、我は魔王族の密偵。この学院を、そして未来の芽を摘み、壊滅させるために来た。……まずは貴様から殺し、次に観客席の者どもを一人残らず血の海に沈めてやろう」
ゾグマの姿が歪み、その背後から黒い魔力が噴き出す。凄まじい暴力の嵐がアスヤを襲った。
魔力を封印した状態では、防戦一方。アスヤの足元が石畳を削り、じりじりと後退させられる。
(くそっ……剣術だけじゃ、このレベルの魔王族はキツい……!)
その時、観客席の最前列で腕を組んで見ていたライの声が、アスヤの脳裏に直接響いた。
『アスヤ、焦るな。――半分くらいの力で勝て。いいな?』
それは、父からの許可だった。
アスヤは不敵に笑い、自分を縛っていた魔力の鎖を内側から解き放つ。
「了解。半分……いや、四分の一くらいで十分かな」
ドォッ、と闘技場の空気が爆ぜた。
アスヤの周囲に立ち昇る、圧倒的な密度の魔力。ゾグマの顔が驚愕に引きつる。
「……反撃開始だ!」
アスヤの姿がかき消えた。
次の瞬間、ゾグマの腹部にアスヤの拳がめり込み、その巨体が弾丸のように吹き飛んだ。
「ガハッ……!? なに、この、魔力……ッ!」
アスヤの猛攻が始まる。右、左、そして回し蹴り。一つ一つの動作に全属性の魔力が乗り、虹色の残像が闘技場を埋め尽くした。
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