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第03話:「復讐するぞ!」と号泣して完食する彼
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彼は無言だ。
時折、弟たちが興味津々で「お兄ちゃん、何してるの?」と覗き込むと、
彼は「……邪魔だ、あっちへ行け」と口では言いつつ、切ったばかりの果物の端っこを、そっと彼らの口に入れてやっていた。
心の声が聞こえない「静寂」は、子供たちにも伝わるのだろうか。
彼からは、悪意の気配が微塵も感じられないのだ。
やがて、湯気を立てるトマトスープが完成した。
狭い食卓に、父と弟、私、そしてレオン様が座る。
質素な食卓だが、家族で囲む食事は私の大切な時間だ。
「いただきます!」
弟たちが元気に食べ始める。
レオン様は、少し緊張した面持ちで、目の前のスープを見つめていた。
具材は形が不揃いだし、王宮の料理とは比べるべくもないだろう。
(お口に合うかしら……)
私は固唾を呑んで見守った。
彼はスプーンを手に取り、恐る恐る一口、口に運んだ。
その瞬間。
彼の大きな瞳から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……っ、う、ううっ」
肩を震わせて泣き始めた彼に、父が慌てて声をかける。
「ど、どうされました!? やはり粗末な料理で……」
「…………ッ、うぅ……!」
彼は何も答えなかった。
ただ、ボロボロと涙を流しながら、一心不乱にスプーンを動かし続けている。
まるで、この味を舌に刻み込むかのように。
食卓が静まり返る。
父と弟たちが、心配そうに顔を見合わせている。
けれど、彼の勢いは止まらない。猛烈な勢いでスープを口に運び、パンで皿を拭い、あっという間に完食してしまった。
「……っ、ふぅ……! いつも王宮では、好きな料理ばかりだったからな、苦手な味だったぞ」
空になった皿を前に、彼は涙を拭った。そして、真っ赤な目で私を睨みつけた。
「……こんな料理を食べさせやがって。俺の料理はもっと美味い。明日の夕食で、俺の料理で復讐するぞ。覚悟しておけ!」
「え……えっと……?」
混乱する父と弟たち。
けれど、私はようやく理解した。
夜会での軽薄な言葉も、市場での暴言も。すべて、彼の本心ではないのだと。
つまり翻訳すると、こうだ。
『普段王宮では、冷めた料理や毒見済みの料理ばかり食べていたから、こんな温かい家庭の味は初めてだ。俺の料理は、これよりは旨くないかもしれないが、明日の夕食は、俺の手料理で恩返ししたい』
どうして本心ではない真逆の言葉を言うのだろう。性格の問題ではないような気がする。
以前、彼が何かを書こうとして、震える手でインクをぶちまけていた姿が脳裏をよぎる。言葉も、文字さえも、彼の本心を裏切ってしまうのだとしたら。
けれど、私には分かってしまう。彼の心の中には、一切の悪意がない。
私に向けられる罵倒は騒音にならず、むしろ彼といる時だけ、世界は優しく静まり返っていた。
「……また明日お待ちしていますわ、レオン様」
私が微笑むと、彼は耳まで真っ赤にして「ふん!」とそっぽを向いた。
------------------------------------------------------------------------------------------------
【作者あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
ついにタイトル回収!「復讐するぞ!」と言いながら完食するレオン様、楽しんでいただけましたでしょうか?
次話、いよいよ有言実行。レオン王子の「復讐(という名の絶品手料理)」が炸裂します!
「レオン様可愛い!」と思っていただけたら、お気に入り登録や感想で応援いただけると、更新の励みになります!
時折、弟たちが興味津々で「お兄ちゃん、何してるの?」と覗き込むと、
彼は「……邪魔だ、あっちへ行け」と口では言いつつ、切ったばかりの果物の端っこを、そっと彼らの口に入れてやっていた。
心の声が聞こえない「静寂」は、子供たちにも伝わるのだろうか。
彼からは、悪意の気配が微塵も感じられないのだ。
やがて、湯気を立てるトマトスープが完成した。
狭い食卓に、父と弟、私、そしてレオン様が座る。
質素な食卓だが、家族で囲む食事は私の大切な時間だ。
「いただきます!」
弟たちが元気に食べ始める。
レオン様は、少し緊張した面持ちで、目の前のスープを見つめていた。
具材は形が不揃いだし、王宮の料理とは比べるべくもないだろう。
(お口に合うかしら……)
私は固唾を呑んで見守った。
彼はスプーンを手に取り、恐る恐る一口、口に運んだ。
その瞬間。
彼の大きな瞳から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……っ、う、ううっ」
肩を震わせて泣き始めた彼に、父が慌てて声をかける。
「ど、どうされました!? やはり粗末な料理で……」
「…………ッ、うぅ……!」
彼は何も答えなかった。
ただ、ボロボロと涙を流しながら、一心不乱にスプーンを動かし続けている。
まるで、この味を舌に刻み込むかのように。
食卓が静まり返る。
父と弟たちが、心配そうに顔を見合わせている。
けれど、彼の勢いは止まらない。猛烈な勢いでスープを口に運び、パンで皿を拭い、あっという間に完食してしまった。
「……っ、ふぅ……! いつも王宮では、好きな料理ばかりだったからな、苦手な味だったぞ」
空になった皿を前に、彼は涙を拭った。そして、真っ赤な目で私を睨みつけた。
「……こんな料理を食べさせやがって。俺の料理はもっと美味い。明日の夕食で、俺の料理で復讐するぞ。覚悟しておけ!」
「え……えっと……?」
混乱する父と弟たち。
けれど、私はようやく理解した。
夜会での軽薄な言葉も、市場での暴言も。すべて、彼の本心ではないのだと。
つまり翻訳すると、こうだ。
『普段王宮では、冷めた料理や毒見済みの料理ばかり食べていたから、こんな温かい家庭の味は初めてだ。俺の料理は、これよりは旨くないかもしれないが、明日の夕食は、俺の手料理で恩返ししたい』
どうして本心ではない真逆の言葉を言うのだろう。性格の問題ではないような気がする。
以前、彼が何かを書こうとして、震える手でインクをぶちまけていた姿が脳裏をよぎる。言葉も、文字さえも、彼の本心を裏切ってしまうのだとしたら。
けれど、私には分かってしまう。彼の心の中には、一切の悪意がない。
私に向けられる罵倒は騒音にならず、むしろ彼といる時だけ、世界は優しく静まり返っていた。
「……また明日お待ちしていますわ、レオン様」
私が微笑むと、彼は耳まで真っ赤にして「ふん!」とそっぽを向いた。
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【作者あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
ついにタイトル回収!「復讐するぞ!」と言いながら完食するレオン様、楽しんでいただけましたでしょうか?
次話、いよいよ有言実行。レオン王子の「復讐(という名の絶品手料理)」が炸裂します!
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