王の物語。

ひゅ~が

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序章

第2話 才あるもの

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 ―立場が変わった。兄が五年かかってできなかったことを弟は一瞬で成したのだ。指南役オドロは父に彼のことを報告した。オドロはティアニスとは違う。父の配下である。
 オドロは骨こそ折れてはいなかったが筋は断裂し、二度と剣を振れない体になった。  
 父は彼を呼びつけた。
 「お前は騎士になりたいのか。私のように…」
 「はい!!僕は父上や兄様のような強い騎士になって、皆を守りたいのです!!」
 「…ミリアムのように、か。」
 「やつは五年も訓練をしながら、オドロごときのやつに一発すら与えられなかった。」
 「…それに比べて、お前は剣を習ったこともないながらやつに四発も与えた…」
 「…お前には、才がある。私は、お前を後継にすることにしよう。」
 「お待ちください!!父上様!!」
大広間の扉が勢いよく開けられ、兄が入ってきた。
 「なんだ、ミリアム。私はシュウを後継にすることにした。貴様はもう十分だ。安寧の日々を過ごすがよい。」
 「…あれは偶然であります!!」
兄は絞り出すようにして言った。
 「兄様…」
 「黙れ!!…そうだ、あれはマグレ、マグレだったんだ!! そうじゃなければあんなこと、起こるはず無いんだよ…お前ごときが俺を超えるなんて!!」
父は笑った。 
 「そうか。ならばミリアム、それを証明するがよい。 無論、お前自身の力で。」
 「…へ?」
 「お前とシュウの決闘だ。あれが偶然だというのならば、お前はシュウに勝てるはずだ。」
 「…はい!ありがとうございます、父上。」
 「―だが、」
 「もしもお前がシュウに敗北を喫することがあるならば、私は今度こそ容赦なくお前を後継から外す、シュウを後継とし、お前は我がアストラル家の礎となってもらう。」
 「ぐ、具体的にはどのように?」
 「かつてのシュウと同じだ、政略結婚の道具になってもらう。―無論、負けることなどないのだろう?」
 「私こそが後継にふさわしいのです。」
 「よい、それでこそ我が子だ。」
 「決闘は今日より、一週間後、アストラル家訓練場にて行うこととする。もうよいぞ、ミリアム。下がってよい。私はシュウに話すことがある。」
 「⁉ それはいかようなことでございますか!」
 「…なぜ、私がお前に話の内容を語らねばならない。下がれといったはずだ。」
 「…申し訳ございません。」
兄は自分よりも父の近くに立っていた彼を一度睨みつけると、足早に部屋を去った。彼は複雑な気持ちになった。
決闘。もしこれで自分が負けるようなことがあればまたあの生活に戻ってしまう。だがもし自分が勝ってしまったら。兄は政略結婚をさせられてしまう。彼は兄のことが好きだった。そんな兄が自分のもとを去ってしまうと考えただけで胸を痛めた。
 「シュウ。」 
父が語りかけた。 
 「お前はお前の最善を尽くせばよい。おそらく、お前にとっては造作もないことだろう。」
 「ですが、僕が勝ったら兄様が!!」
 「甘ったれるな!!」
父は激昂した。父の怒りでこの部屋の空気が震えている、彼はそう感じた。
 「負けてやろうと考えるのは簡単だ。それは確かに才あるものの慈悲かもしれん。だが、それは才なきものへの最大級の侮蔑であることを忘れるな。 いいかシュウ、才あるものは勝ち続けなければならん。それが、持って生まれたお前の責務だ。」
 「…少し、難しい話をしてしまったようだ。下がってよいぞ。」
 「失礼しました。」
彼はそう言って、父の部屋を後にした。
―わからなかった。そもそも彼は自分が才あるものなどとは思っていなかった。あの時はなぜか倒せたのだ。正直よく覚えていない。兄が「始め」といった瞬間、目の前が真っ白になっていた。気がついたとき自分よりもはるかに大きい人が倒れていた。無意識に体が動いていた。その証拠に、興奮が冷めたころ彼の各関節、筋肉が悲鳴を上げた。
使用人が医者を呼んだ。医者はおそらく疲労痛であろう、と言った。普段使わないような筋肉や普段しないような動きをするとそれについてゆけず、痛むことがあるのだそう。
 
「お前は、才に溢れている。おそらく、『視えて』いるのだろう。オドロは戦争で、肩と腰、そして脚を負傷していた…お前であれば、この家を継ぐにふさわしい。」
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