王の物語。

ひゅ~が

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序章

第6話 『天罰』

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 ―あれから数年が過ぎた。シュウの成長はめざましかった。剣技に関しては父をも凌ぐ程に成長し、新たなるスキルもたくさん習得した。魔術に関しても、光属性はさることながら、全ての属性がまんべんなく使えるようになっていた。(『全属性魔術B+』)けれども魔術はユナンにはかなわなかった。もともと魔術の家系であることもあり、ユナンは齢17歳にして『魔術協会』から『法位』の称号を得ていた。国内でも五本の指に数えられるほどの魔術師だった。彼は剣技に関してもぬかりなかった。さすがにシュウには劣るものの、確かな剣の才もあったようで、学舎の中ではシュウに次ぐ剣技の持ち主であった。シュウといると剣技が研ぎ澄まされていくようだ、今は魔術を使うよりも剣のほうが好きだ、と彼は諧謔交じりにシュウに話した。二人は良き友になっていた。時に支えあい、叱咤激励しながら互いを高めあってゆく―彼らの姿に憧れる後輩も少なくなかった。
 
 ―冬の、ある晴れた日の事だった。暦の上では冬だったが、もう少し暖かくなりはじめていたころだった。学舎の高等部からの卒業を控えていた彼らは、多少魔術で連絡を取り合いながら、卒業の際提出する、共同研究を書いていた。当然成績優秀、天才ともてはやされる彼らの卒業研究、それも共同のものともなれば、学舎の講師のみならず、国内の大勢の学者が注目していたし、彼らも革命的な研究になる、と考えていた。
 だが、終ぞその研究が発表されることはなかった。
 その日、彼らの国に『天罰』が降り注ぐことになる。

 ―時刻は午後1時21分。王都で、一人の男が声をあげた。
 「…おい、なんだあの光は!」
まわりにいた者も大きく顔をあげ、空を仰ぐ。
 「光の帯みたいね。何なのかしら。あれ。」
 「ねぇ、お母さん、あれなぁに?」
 「さぁ、何でしょうね。私たちへの祝福かもしれないわね。」
―それは祝福とは程遠いものだった。異変に気が付く。
 「おい、あれどんどん大きくなってきていないか?」 
 「そうね、なんだか―」
 「違う!」男の叫びが街に響く。
 「あれは『降ってきて』いるんだ!!こっちに来ている!!光が降ってくるぞ!!」
 煽動にもおもわれたこの戯言は、真実であった。光は大きさを増し、そのまま、大地に落ちてきた。その威力は絶大で、大地に決して小さくない穴をあけ、家を燃やした。人々は、逃げ惑う。その間にも光は絶え間なく降り注ぎ、それは少しずつ、量を増していた。人が燃えた。焼かれた。その無差別な破壊は、まさに『神の御業』であった。
 
 当然、彼らの屋敷も炎に襲われることになる。辺りの騒ぎを聞きかねたシュウは、カーテンを開けた。そこにはあるはずのいつもの街の光景などなく、ただ地獄が広がっていた。街が、燃えている。人が、燃えている。逃げ惑う人々。自分だけは助かろうと、転んだ子供を置いてゆく父親らしき人物、蹲って泣く子供。その頭上に、光が迫っていた。
 「『神速』――」まだ覚えたてのスキルだけれど、この距離ならば…!
 彼は窓を超高速で突き破り、子供を抱きかかえ、光を躱した。
 「よかった…さぁ、お父さんのところにお行き。」
 「ありがとう、お兄さん。」
 彼は空を見上げた。
 「―なんだこれ…」空は光に覆いつくされ、そこから際限なく光が降り注いできた。流星群のように。
―家が、燃えている。いけない、と彼は思った。屋敷の中にはまだ使用人と父がいる。 父は三年前、戦の際に負傷して、足が不自由になっていた。父は動けない。自分が助けなければならない。
 「家が燃えている。早く避難しろ!!」彼は屋敷に戻ると使用人にそう告げ、急いで父の部屋に向かった。煙臭い。父の部屋からだ。父は葉巻を吸わない。燃えているのだ。と確信した。
 「父上‼屋敷が燃えています!今すぐ避難を!」
 案の定父の部屋は燃えていた。父は彼のほうを見ても、椅子に座ったままだった。
 「父上‼避難いたします!!」
 「こちらに来い。話が、ある。」父はそういうと彼を手招いた。
 「父上、このような状況で話すべきことなどありますまい!! 避難します!」
 「今ここで話せねばならんのだ!!!」父は自分の意志で動けなくなってから、物静かになってしまった。以前のような威厳はなくなってしまったかのように見えていた。だがその時の父からは以前のような強い気迫が感じられた。彼は気圧されてしまった。
 「何でしょうか、父上。」
 「今、ここで当主継承の儀を執り行う。」
 「父上!!」
 「黙っておれ。」
 「アストラル家には代々、当主のみに継承される、三本の剣がある。受け取れ、シュウ。これがアストラル家当主の証である。」
 「『創生神器 グラン‐アスト』。『継世神器 グラン‐モルト』。そして、『黒龍ノ幻刀』。『創龍』グランの名を冠した三本の剣、確かに継承した。それらは絶対に絶やしてはならん。どの世においてもそれらは継承されてきた。私はもうじき死ぬだろう。だから、『剣帝』と共に、次の世代に…」
 「父上、言っていることがわかりません。これは、この剣は、一体何なのですか!」
 「最後まで説明不足で済まない。私も『そこ』までは辿りつけなかった。だがシュウ、お前ならば、この剣と共に、世界を…」
 「父上!!」
 「最期に、一つだけ。…我々は、『神』の、『リヴァイス』の怒りを買ったのだ…」
 「そ、それは、『リヴァイス』とは何なのですか!!」
―父がその問いに答えることはなかった。父の身体は、急速に熱を失っていった。

 彼は父の最期を看取ると、三本の剣を背負って、家を出た。
 「―…シュウ、シュウ聞こえるか!!こちらユナン、何なんだこれは!!」
 連絡用の魔術だ。 涙を拭い、彼はこたえる。
 「…わからない。俺たちも、逃げなければ…」
 「…わかった。とりあえず僕の屋敷に来い!地下室ならわけのわからない光から隠れられるはずだ!たぶん!」
 「…了解。すぐ向かうよ。」

 ―光がやんだのはちょうど午後7時ころだった。彼らは地下から這いずるように出て、街の惨状を目の当たりにした。目の当たりにした。 街は焦土と化していた。人でごった返しているはずの商店街には人っ子一人おらず、代わりに数時間前までおそらく人であっただろうモノがそこかしこにころがっていた。
 王宮は消失している。おそらく王族も死んでしまったのであろう。家々も燃え尽き、焼け野原だった。川には死体がたくさん浮いていた。―王都は、ものの数時間で壊滅したのだ。

 一晩が過ぎた。ようやく彼らも平静をとりもどしつつあったけれども、相変わらずのこの悲惨には目を覆った。

 シュウは旅に出ることにした。リヴァイス、父が最後に残したその名前の『神』と呼ばれる者がこのような惨事を引き起こしたのだとするならば、彼はそいつを許せなかった。復讐せねばならない。同じ目に遭わせてやらねばならない。その時の憎しみは、いつになっても名状することはできない。
 
 ―『神』を、討つ。俺は、神であろうとこの手で殺す。

 その思いはユナンも同じであったようだ。
 「シュウ、どこに行くんだい。」早朝、出立しようとする彼にユナンは問うた。
 「―復讐だ。報復だ。父上が最後に残した言葉…リヴァイス。奴を探す旅に出る。」
 「僕も、君についてゆくよ。シュウ。もしその者がこんな攻撃をしてきたのであれば、僕たちはその理由を問わねばなるまい。」
 「俺は、そいつを殺すかもしれない。それでも、いいのか」
 「―僕だって、殺したい気持ちさ。罪もない人々を、僕たちの故郷を…!!!」


 こうして彼らは旅に出る。『神』への復讐の旅に。

 
                          
                第1章『剣に舞う姫君』に続く
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