身勝手な理由で婚約者を殺そうとした男は、地獄に落ちました【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
31 / 50

第31話(ルーパート視点)

 兄上が何故これほど怒っているのか、僕にはまったくわからない。
 なので、恐る恐る、尋ねてみる。

「あ、兄上、落ち着いてください。いったい、何をそんなに、怒っているんですか?」

 だが、それが良くなかった。

 僕の言葉は、兄上の怒りにますます油を注ぐ結果となり、兄上はなんと、壁に身を預けたまま座り込んでいた僕の腹を、思い切り蹴飛ばした。

「ぐぇっ!?」

 腹を蹴るのには慣れているが、腹を蹴られるのは、生まれて初めてだった。猛烈な痛みと苦しさが、まるで全身を焼いているみたいだ。そして、喉をすっぱいものが駆け上がっていき、それは、ボタボタと口から溢れた。

「何をそんなに怒っているだと!? ふざけたことをぬかすな! 全部、貴様のせいだろうが! 貴様の、貴様のっ! 貴様のぉっ!」

 兄上は、口から泡を漏らすほど叫び、また僕を蹴り始めた。激しい苦痛の中、僕は何故か、いつだったか鏡に映った、アドレーラの腹を蹴りまくる僕自身の姿を思い出していた。

 僕はボロボロと涙をこぼし、胃液と唾液と血にまみれた唇で、必死に哀訴する。

「あ、あにうえぇっ、ぼ、僕は、何もっ、してません……っ! お、お願いします、許して、くださいっ、もう、蹴らないで、くださいっ……!」

 不意に、過去の記憶がよみがえる。

『お願いします』
『許してください』
『もう蹴らないでください』

 アドレーラも、僕に蹴られるたび、よくそう言ってたっけ。
 あいつも、こんなに痛かったのかな。

 思う存分僕を蹴りまくったことで、少しだけ気持ちが落ち着いたのか、それとも、単に蹴り続けるのに疲れただけなのか、兄上は肩で息をしながら、僕を見下ろし、語り始めた。

「はぁ……はぁ……ルーパート、貴様、レデリップ家の令嬢、アドレーラを酷くいたぶり、最後には、虐待の事実を隠ぺいするため、あの古戦場跡の森にある井戸に放り込んで、殺そうとしたらしいな」

「えっ、いや、そ、そんなことは……」

「しらばっくれるな! 今朝、レデリップ家当主、ドルフレッド様から連絡があり、執事のジョーンズからも話を聞いた。すべて分かっているんだ! この馬鹿が! 気に入らない許嫁なら、しかるべき手順を踏んで解消してもいいとは言ったが、それがどうして、婚約相手を殺すことにつながるんだ! 貴様の頭の中はどうなっているんだ!?」

 ちっ。
 ジョーンズのジジイめ。
 きつく口止めしておいたのに、喋りやがって。

 しかし、どうしてアドレーラを井戸に突き落としたことまで知っているんだ? あのことを知っているのは、僕とアドレーラ、たった二人だけのはず。……まさか、アドレーラが正気に戻って、僕にやられたと証言したのか?
感想 98

あなたにおすすめの小説

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。