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第31話(ルーパート視点)
兄上が何故これほど怒っているのか、僕にはまったくわからない。
なので、恐る恐る、尋ねてみる。
「あ、兄上、落ち着いてください。いったい、何をそんなに、怒っているんですか?」
だが、それが良くなかった。
僕の言葉は、兄上の怒りにますます油を注ぐ結果となり、兄上はなんと、壁に身を預けたまま座り込んでいた僕の腹を、思い切り蹴飛ばした。
「ぐぇっ!?」
腹を蹴るのには慣れているが、腹を蹴られるのは、生まれて初めてだった。猛烈な痛みと苦しさが、まるで全身を焼いているみたいだ。そして、喉をすっぱいものが駆け上がっていき、それは、ボタボタと口から溢れた。
「何をそんなに怒っているだと!? ふざけたことをぬかすな! 全部、貴様のせいだろうが! 貴様の、貴様のっ! 貴様のぉっ!」
兄上は、口から泡を漏らすほど叫び、また僕を蹴り始めた。激しい苦痛の中、僕は何故か、いつだったか鏡に映った、アドレーラの腹を蹴りまくる僕自身の姿を思い出していた。
僕はボロボロと涙をこぼし、胃液と唾液と血にまみれた唇で、必死に哀訴する。
「あ、あにうえぇっ、ぼ、僕は、何もっ、してません……っ! お、お願いします、許して、くださいっ、もう、蹴らないで、くださいっ……!」
不意に、過去の記憶がよみがえる。
『お願いします』
『許してください』
『もう蹴らないでください』
アドレーラも、僕に蹴られるたび、よくそう言ってたっけ。
あいつも、こんなに痛かったのかな。
思う存分僕を蹴りまくったことで、少しだけ気持ちが落ち着いたのか、それとも、単に蹴り続けるのに疲れただけなのか、兄上は肩で息をしながら、僕を見下ろし、語り始めた。
「はぁ……はぁ……ルーパート、貴様、レデリップ家の令嬢、アドレーラを酷くいたぶり、最後には、虐待の事実を隠ぺいするため、あの古戦場跡の森にある井戸に放り込んで、殺そうとしたらしいな」
「えっ、いや、そ、そんなことは……」
「しらばっくれるな! 今朝、レデリップ家当主、ドルフレッド様から連絡があり、執事のジョーンズからも話を聞いた。すべて分かっているんだ! この馬鹿が! 気に入らない許嫁なら、しかるべき手順を踏んで解消してもいいとは言ったが、それがどうして、婚約相手を殺すことにつながるんだ! 貴様の頭の中はどうなっているんだ!?」
ちっ。
ジョーンズのジジイめ。
きつく口止めしておいたのに、喋りやがって。
しかし、どうしてアドレーラを井戸に突き落としたことまで知っているんだ? あのことを知っているのは、僕とアドレーラ、たった二人だけのはず。……まさか、アドレーラが正気に戻って、僕にやられたと証言したのか?
なので、恐る恐る、尋ねてみる。
「あ、兄上、落ち着いてください。いったい、何をそんなに、怒っているんですか?」
だが、それが良くなかった。
僕の言葉は、兄上の怒りにますます油を注ぐ結果となり、兄上はなんと、壁に身を預けたまま座り込んでいた僕の腹を、思い切り蹴飛ばした。
「ぐぇっ!?」
腹を蹴るのには慣れているが、腹を蹴られるのは、生まれて初めてだった。猛烈な痛みと苦しさが、まるで全身を焼いているみたいだ。そして、喉をすっぱいものが駆け上がっていき、それは、ボタボタと口から溢れた。
「何をそんなに怒っているだと!? ふざけたことをぬかすな! 全部、貴様のせいだろうが! 貴様の、貴様のっ! 貴様のぉっ!」
兄上は、口から泡を漏らすほど叫び、また僕を蹴り始めた。激しい苦痛の中、僕は何故か、いつだったか鏡に映った、アドレーラの腹を蹴りまくる僕自身の姿を思い出していた。
僕はボロボロと涙をこぼし、胃液と唾液と血にまみれた唇で、必死に哀訴する。
「あ、あにうえぇっ、ぼ、僕は、何もっ、してません……っ! お、お願いします、許して、くださいっ、もう、蹴らないで、くださいっ……!」
不意に、過去の記憶がよみがえる。
『お願いします』
『許してください』
『もう蹴らないでください』
アドレーラも、僕に蹴られるたび、よくそう言ってたっけ。
あいつも、こんなに痛かったのかな。
思う存分僕を蹴りまくったことで、少しだけ気持ちが落ち着いたのか、それとも、単に蹴り続けるのに疲れただけなのか、兄上は肩で息をしながら、僕を見下ろし、語り始めた。
「はぁ……はぁ……ルーパート、貴様、レデリップ家の令嬢、アドレーラを酷くいたぶり、最後には、虐待の事実を隠ぺいするため、あの古戦場跡の森にある井戸に放り込んで、殺そうとしたらしいな」
「えっ、いや、そ、そんなことは……」
「しらばっくれるな! 今朝、レデリップ家当主、ドルフレッド様から連絡があり、執事のジョーンズからも話を聞いた。すべて分かっているんだ! この馬鹿が! 気に入らない許嫁なら、しかるべき手順を踏んで解消してもいいとは言ったが、それがどうして、婚約相手を殺すことにつながるんだ! 貴様の頭の中はどうなっているんだ!?」
ちっ。
ジョーンズのジジイめ。
きつく口止めしておいたのに、喋りやがって。
しかし、どうしてアドレーラを井戸に突き落としたことまで知っているんだ? あのことを知っているのは、僕とアドレーラ、たった二人だけのはず。……まさか、アドレーラが正気に戻って、僕にやられたと証言したのか?
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