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第40話
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しかし……
「うっ、ぐっ……! こ、こいつ……っ!」
エリウッドは、目に見えて苦戦していた。
すでに幾度も、エリウッドの鋭い剣撃がゴーファの急所を捉え、普通ならどう考えても死んでいるレベルの深手を負わせているのだが、お城の庭園で教えてもらった通り、魔人の再生能力はとんでもなく、切ったそばから、見る見るうちに傷が治ってしまうのだ。
しかも、どうやら魔人という存在は、体力を消耗しないらしい。
信じられないような運動量で、激しい連続攻撃を繰り返しているのに、ゴーファは息を乱すどころか、汗ひとつかいておらず、その表情は戦いが始まる前とまったく同じ、穏やかなものだった。
このままでは、あと数分で、エリウッドは負けてしまうだろう。
当然、そうなる前に、私の『黒い光』で、ゴーファを消滅させるべきだ。
しかし、エリウッドは一度だって、私に助けを求めてはこなかった。
私は、迷った。
戦いを始める前にエリウッドが言った、『正々堂々』『一対一』という言葉が、心に引っかかっていたからだ。恐らく彼は、魔人が相手でも、一対一の勝負に横やりを入れられるようなことは、望んでいないに違いない。……男の人って、そういうとこ、あるもんね。
だが、無尽蔵の体力と、永遠に回復し続ける再生能力を持ち合わせた『魔人』との一騎打ちに、そもそも『正々堂々』も何もないんじゃないだろうか。いくらなんでも、相手の方が有利すぎる。うがった見方をすれば、ゴーファの落ち着き払った態度も、所詮、絶対に自分が負けることはないという余裕からきているように思える。
事実、明らかに疲れ、剣技の冴えが鈍ってきたエリウッドを見るゴーファの顔に、若干だが、優越感のようなものが浮かんでいる。
ゴーファは何も語らないが、その瞳は、どんな言葉よりも雄弁に『身の程知らずの若造が、人間ごときが、魔人にかなうはずがないだろう』と言っているように見えた。……ふうん、あなた、随分楽しそうな顔で、エリウッドを蹴るのね。
……やっと、覚悟が決まった。
こいつは……ゴーファは、お坊さんでも何でもない。さっきは聖人のような顔をして、それっぽいことを言っていたが、結局のところは、圧倒的な力で、自分より弱い者を蹂躙することを楽しむ、ただの卑怯者だ。
ごめんなさい、エリウッド。
一騎打ちの邪魔をして、あなたは私のことを嫌いになるかもしれないけど、それでも、このままむざむざ、あなたを殺させるわけにはいかないわ。
「うっ、ぐっ……! こ、こいつ……っ!」
エリウッドは、目に見えて苦戦していた。
すでに幾度も、エリウッドの鋭い剣撃がゴーファの急所を捉え、普通ならどう考えても死んでいるレベルの深手を負わせているのだが、お城の庭園で教えてもらった通り、魔人の再生能力はとんでもなく、切ったそばから、見る見るうちに傷が治ってしまうのだ。
しかも、どうやら魔人という存在は、体力を消耗しないらしい。
信じられないような運動量で、激しい連続攻撃を繰り返しているのに、ゴーファは息を乱すどころか、汗ひとつかいておらず、その表情は戦いが始まる前とまったく同じ、穏やかなものだった。
このままでは、あと数分で、エリウッドは負けてしまうだろう。
当然、そうなる前に、私の『黒い光』で、ゴーファを消滅させるべきだ。
しかし、エリウッドは一度だって、私に助けを求めてはこなかった。
私は、迷った。
戦いを始める前にエリウッドが言った、『正々堂々』『一対一』という言葉が、心に引っかかっていたからだ。恐らく彼は、魔人が相手でも、一対一の勝負に横やりを入れられるようなことは、望んでいないに違いない。……男の人って、そういうとこ、あるもんね。
だが、無尽蔵の体力と、永遠に回復し続ける再生能力を持ち合わせた『魔人』との一騎打ちに、そもそも『正々堂々』も何もないんじゃないだろうか。いくらなんでも、相手の方が有利すぎる。うがった見方をすれば、ゴーファの落ち着き払った態度も、所詮、絶対に自分が負けることはないという余裕からきているように思える。
事実、明らかに疲れ、剣技の冴えが鈍ってきたエリウッドを見るゴーファの顔に、若干だが、優越感のようなものが浮かんでいる。
ゴーファは何も語らないが、その瞳は、どんな言葉よりも雄弁に『身の程知らずの若造が、人間ごときが、魔人にかなうはずがないだろう』と言っているように見えた。……ふうん、あなた、随分楽しそうな顔で、エリウッドを蹴るのね。
……やっと、覚悟が決まった。
こいつは……ゴーファは、お坊さんでも何でもない。さっきは聖人のような顔をして、それっぽいことを言っていたが、結局のところは、圧倒的な力で、自分より弱い者を蹂躙することを楽しむ、ただの卑怯者だ。
ごめんなさい、エリウッド。
一騎打ちの邪魔をして、あなたは私のことを嫌いになるかもしれないけど、それでも、このままむざむざ、あなたを殺させるわけにはいかないわ。
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