85 / 121
第85話
しおりを挟む
「無論、俺だって、マリヤに人殺しなどさせたくはない……」
「そうでしょうか? オルソン聖王国の王子の言う通り、あなたもまた、彼女を、魔人を駆逐するための便利な道具あつかいしているだけなのではないですか?」
「なんだと……」
「私はあなたと違う。マリヤ様と共に魔人討伐におもむき、私が倒せる相手であった場合は、私の手で斬り捨てます。出来得る限り、マリヤ様の手を汚させたくありませんからね。あなたはどうでしたか? 自分の手で魔人を倒すこともできず、彼女に助けてもらったのでしょう? それで、よく正当な王位継承者などと……」
怒りのままに冷たい言葉を投げかけ続けるジェロームの肩を、グラディスが強く引いた。彼女の目は鋭い。先程までの豪快で朗らかな笑顔とは違う、刺すような眼差しだった。
「よせ、ジェローム。言いすぎだ」
しかしジェロームは止まらなかった。
「いえ、姉上。この際ですから言わせてもらいます。病床の国王陛下のご意思を尊重し、正統王位継承者であるエリウッド様のことを、私は影となって支えていくつもりでした。しかしこの腹違いの弟は、短気で傲慢、あまりにも浅はかすぎる。ハッキリ言って、人の上に立つ器ではありません」
「ジェローム……」
「今日の騒動をきっかけに、これからパーミル周辺を取り巻く状況は劇的に変化するでしょう。姉上は、今夜の攻撃はないとおっしゃっていましたが、決して楽観はできません。私は念のため、今から軍隊を編成し、夜襲に備えます。それでは」
そしてジェロームは一礼し、去って行った。
彼の向かう先は砦だ。
いま述べた通り、軍隊を取りまとめるのだろう。
会談に同行した二人の近衛兵も、ジェロームの後を追い、大臣たちは疲れた顔で自らの館に戻って行った。その結果、残されたのは私とグラディス、そして、エリウッドだけとなった。
エリウッドは、唇を強く噛みしめていた。
怒っているようにも、悔しがっているようにも、悲しんでいるようにも見えるが、いったいどういう感情が彼の心の中を渦巻いているのか、明確に悟ることはできなかった。
重苦しい沈黙。
その沈黙を和ませるように、グラディスがあえて軽い調子で言う。
「やれやれ。普段真面目な奴ほど、一度怒ると手が付けられんな。エリウッド、そんなに気にするな。ジェロームも、100パーセント本気で言ったわけではあるまいよ」
「そうでしょうか? オルソン聖王国の王子の言う通り、あなたもまた、彼女を、魔人を駆逐するための便利な道具あつかいしているだけなのではないですか?」
「なんだと……」
「私はあなたと違う。マリヤ様と共に魔人討伐におもむき、私が倒せる相手であった場合は、私の手で斬り捨てます。出来得る限り、マリヤ様の手を汚させたくありませんからね。あなたはどうでしたか? 自分の手で魔人を倒すこともできず、彼女に助けてもらったのでしょう? それで、よく正当な王位継承者などと……」
怒りのままに冷たい言葉を投げかけ続けるジェロームの肩を、グラディスが強く引いた。彼女の目は鋭い。先程までの豪快で朗らかな笑顔とは違う、刺すような眼差しだった。
「よせ、ジェローム。言いすぎだ」
しかしジェロームは止まらなかった。
「いえ、姉上。この際ですから言わせてもらいます。病床の国王陛下のご意思を尊重し、正統王位継承者であるエリウッド様のことを、私は影となって支えていくつもりでした。しかしこの腹違いの弟は、短気で傲慢、あまりにも浅はかすぎる。ハッキリ言って、人の上に立つ器ではありません」
「ジェローム……」
「今日の騒動をきっかけに、これからパーミル周辺を取り巻く状況は劇的に変化するでしょう。姉上は、今夜の攻撃はないとおっしゃっていましたが、決して楽観はできません。私は念のため、今から軍隊を編成し、夜襲に備えます。それでは」
そしてジェロームは一礼し、去って行った。
彼の向かう先は砦だ。
いま述べた通り、軍隊を取りまとめるのだろう。
会談に同行した二人の近衛兵も、ジェロームの後を追い、大臣たちは疲れた顔で自らの館に戻って行った。その結果、残されたのは私とグラディス、そして、エリウッドだけとなった。
エリウッドは、唇を強く噛みしめていた。
怒っているようにも、悔しがっているようにも、悲しんでいるようにも見えるが、いったいどういう感情が彼の心の中を渦巻いているのか、明確に悟ることはできなかった。
重苦しい沈黙。
その沈黙を和ませるように、グラディスがあえて軽い調子で言う。
「やれやれ。普段真面目な奴ほど、一度怒ると手が付けられんな。エリウッド、そんなに気にするな。ジェロームも、100パーセント本気で言ったわけではあるまいよ」
24
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる