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第102話
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「いっそ、冷たく突き放していれば、彼女も身の程を悟り、危険な野心など抱かなかったのではと今でも思うわ。人には皆『分』というものがあるのよ。それぞれの『分』をわきまえなくなった時、大抵は悲劇が起こる。わたくしはそれを単なる理屈ではなく、態度でエリウッドに教えたかった。グラディスとジェロームにもね」
「…………」
「その効果は抜群で、グラディスとジェロームは『分』をわきまえ、エリウッドの補佐として生きる道を抵抗なく受け入れたわ。その結果、政権移行時のゴタゴタを乗り越え、パーミルは再び安定期に入ろうとしている。でもね、今、ちょっと困ったことが起こっているのよ」
リザベルトは柔らかなひじ掛けに肘を置き、右手の甲で頬杖を突く。
それから天窓を見上げた。月は出ておらず、暗い夜だった。
「オルソン聖王国との最後の会談以来、従順だったジェロームが、エリウッドに対して明らかな反発の意思を見せ始めたの。マリヤちゃん、ジェロームと接することの多いあなたも、それを如実に感じ取っているはずよ」
「それは……」
「それでもエリウッドはジェロームを信頼して、軍部を統括する参謀総長という立場を任せたけど、最近、その軍部の動きがどうにもおかしいのよね」
「おかしい? 具体的に、どうおかしいんですか?」
「ハッキリ言っちゃいましょうか。謀反の気配があるってことよ」
「まさか、ジェロームが軍部を率いて、エリウッドに反旗を翻すと、そうおっしゃるんですか?」
「まあ、そういうことね。弟想いで、過ぎたことにこだわらないグラディスと違って、静かな怒りを胸に秘めるタイプのジェロームの行動には前々から神経をとがらせていたけど、やっぱり来るべき時が来たという感じかしら」
「そんなの、信じられません。確かに最近、エリウッドとジェロームはうまくいっていませんが、二人は幼い頃から……」
そう言いかけて、私は黙った。私は結局、エリウッドとジェロームが『うまくいっている』場面など、一度も見たことがないからだ。幼い頃は仲が良かったというのも、エリウッドから聞いただけで、私と初めて出会ったときから、あの二人の関係は、どうにもぎこちないものだった。
私の言葉を受け継いだかのように、リザベルトが続きを語る。
「確かに、幼い頃の二人は仲が良かったわ。でもね、楽しげに過ごしながらも、ジェロームの瞳には、隠し切れない執念の炎が、消えることなく燃え盛っているような気がしていた。そしてそれは、思い過ごしではなかったということね」
「…………」
「その効果は抜群で、グラディスとジェロームは『分』をわきまえ、エリウッドの補佐として生きる道を抵抗なく受け入れたわ。その結果、政権移行時のゴタゴタを乗り越え、パーミルは再び安定期に入ろうとしている。でもね、今、ちょっと困ったことが起こっているのよ」
リザベルトは柔らかなひじ掛けに肘を置き、右手の甲で頬杖を突く。
それから天窓を見上げた。月は出ておらず、暗い夜だった。
「オルソン聖王国との最後の会談以来、従順だったジェロームが、エリウッドに対して明らかな反発の意思を見せ始めたの。マリヤちゃん、ジェロームと接することの多いあなたも、それを如実に感じ取っているはずよ」
「それは……」
「それでもエリウッドはジェロームを信頼して、軍部を統括する参謀総長という立場を任せたけど、最近、その軍部の動きがどうにもおかしいのよね」
「おかしい? 具体的に、どうおかしいんですか?」
「ハッキリ言っちゃいましょうか。謀反の気配があるってことよ」
「まさか、ジェロームが軍部を率いて、エリウッドに反旗を翻すと、そうおっしゃるんですか?」
「まあ、そういうことね。弟想いで、過ぎたことにこだわらないグラディスと違って、静かな怒りを胸に秘めるタイプのジェロームの行動には前々から神経をとがらせていたけど、やっぱり来るべき時が来たという感じかしら」
「そんなの、信じられません。確かに最近、エリウッドとジェロームはうまくいっていませんが、二人は幼い頃から……」
そう言いかけて、私は黙った。私は結局、エリウッドとジェロームが『うまくいっている』場面など、一度も見たことがないからだ。幼い頃は仲が良かったというのも、エリウッドから聞いただけで、私と初めて出会ったときから、あの二人の関係は、どうにもぎこちないものだった。
私の言葉を受け継いだかのように、リザベルトが続きを語る。
「確かに、幼い頃の二人は仲が良かったわ。でもね、楽しげに過ごしながらも、ジェロームの瞳には、隠し切れない執念の炎が、消えることなく燃え盛っているような気がしていた。そしてそれは、思い過ごしではなかったということね」
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