ゾンビのいない世界で俺に与えられたスキルは『ゾンビ殺し』だった。役立たずとして追放される俺。でもあと少しで世界はゾンビだらけになるんだけどね

第５５話

　もう時間がないのだ。
　一刻も早く、王に会って事情を説明しないと。

　しかし、謁見を求める俺とルイーズに対し、門番の態度は予想以上に冷たかった。

「いきなり王様に会わせてくれって言われてもねえ。ほら、王様も色々と忙しいからねえ。だいたいきみ、なんで今さら戻って来たの？　ちゃんと、しばらく生活していけるだけの金は貰ったんだろう？　まさか、もう一度金を恵んでもらおうとでも思ってるのかい？」

　まるで乞食を見るような瞳と物言いにムッとしながらも、俺は喧嘩腰にならぬよう、なるべく丁寧に話す。ここで争いになったら、もう王宮に入ることは不可能になるからだ。

「そんなこと思ってません。とにかく、緊急事態なんです。この王宮に危機が迫っている。今すぐ王様と話をさせてください。王様が無理なら、大臣でも、誰でも、ある程度の地位にある人と……」

「じゃあ俺が、その『ある程度の地位にある人』だよ。これでも門番長だからね。その危機ってやつについて、詳しく話してごらん」

　明らかにこちらを軽く見ているこの男に、世界の滅亡について話しても信じてもらえるとは思えないが、それでも俺は、いちから事情を説明した。だって、他に方法がないから。

　そして案の定。
　話が終わっても、門番は退屈そうにあくびをかくだけだった。

「ふぁ～あ。話は終わったかい。まったく、荒唐無稽にもほどがある。そのアンデッドっていうのもよく分からんし、そんな怪物が一瞬で１０００体も王宮内に溢れかえるなんて、まずありえない。ほら話をするなら、もう少し内容を練るんだね」

　やっぱり駄目か。

　いや、しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
　どうやったら、彼を説得できるだろう。

　そう思い悩むうちに黙り込んでしまった俺の代わりに、門番はペラペラと語り始めた。彼の視線は、俺の後ろに隠れるようにしていたルイーズの方向を向いていた。

「きみ、そのエルフに何か変なことでも吹き込まれたんじゃないのか？　気をつけた方がいい。エルフは嘘つきで、人間のことを侮蔑しているからね」

　門番はそこで言葉を区切り、今度はルイーズに直接声をかける。

「おい、そこのエルフ。いったい何のつもりだ。お前、何の目的でこのシャンパ人と一緒にいる。物を知らない彼を騙して王宮に入り込み、宝を盗むつもりなのか？」

　それは、ほとんど恫喝に近い口調だった。
　俺の時よりかなり厳しい声だ。

　俺に対しては、一応召喚されたシャンパ人ということで気を使っていたのか、エルフのルイーズに特別な警戒心を抱いているのか、それは分からない。だが、言うに事欠いて『宝を盗むつもりなのか』とは、ふざけるにもほどがある。