19 / 20
第19話
しおりを挟む
「そ、そんな、いきなり出て行けと言われても困ります。ここは税も軽いし、他の土地では、女一人では生きていけませんっ」
「この領地の税が軽いのは、善良な人々が健やかに暮らすためだ! 何不自由ない生活をしておきながら、我が子を売るような者を養うためではない! 牢にぶち込まれたくなければ、とっとと失せろ!」
「ひっ、ひいぃぃぃぃ……っ」
そして『お母さんだった人』は、逃げるようにお屋敷を去りました。
侯爵様は「ふん」と息を吐き、私の方を見て言います。
「本当に、これで良かったのか?」
私は、頷きます。
「はい。わざわざ裁判をしてまで、殊更に彼女をいたぶる必要はないと思います。それに私、あの人には感謝しているんです」
「育ててもらったことをか?」
「それもですけど、彼女が私を捨てなかったら、私、こうやって侯爵様のおそばにお仕えすることができませんでしたから……」
「そうか……そうだな。ああいう女は許せんが、それでもお前との縁を繋いだことに免じて、ここで手打ちにしておくか」
・
・
・
それから、三年の月日が流れました。私も17歳となり、一般の使用人と同じ仕事を任せてもらえるようになって、日々、充実した日々を過ごしています。
マブドの腕は、三年前とは比較にならないほど上達し、今では10回やれば、9回私が勝つようになりました。今日も侯爵様は、悔しそうに頭をかきます。
「ええい、また負けた。リネット、少しは手加減しろ」
「あら、侯爵様は手に汗握る熱戦がしたくて、私を雇ったのでしょう? 手加減なんかしたら、契約違反になってしまいます」
「まったく、あの大人しい娘が、よくもここまで生意気になったものだ。ああ言えばこう言うんだからな」
「侯爵様のおかげです。あの時あなたが私を救ってくれなかったら、私は今頃、口にするのもおぞましい生活をしていたでしょう。あるいは、すでに死んでいたかもしれません」
「『おかげ』というなら、俺もお前のおかげで領民と交流することが増え、三年前よりは随分良い領主になれた。俺たちの出会いは、互いにとって良縁だったというわけだな」
「この領地の税が軽いのは、善良な人々が健やかに暮らすためだ! 何不自由ない生活をしておきながら、我が子を売るような者を養うためではない! 牢にぶち込まれたくなければ、とっとと失せろ!」
「ひっ、ひいぃぃぃぃ……っ」
そして『お母さんだった人』は、逃げるようにお屋敷を去りました。
侯爵様は「ふん」と息を吐き、私の方を見て言います。
「本当に、これで良かったのか?」
私は、頷きます。
「はい。わざわざ裁判をしてまで、殊更に彼女をいたぶる必要はないと思います。それに私、あの人には感謝しているんです」
「育ててもらったことをか?」
「それもですけど、彼女が私を捨てなかったら、私、こうやって侯爵様のおそばにお仕えすることができませんでしたから……」
「そうか……そうだな。ああいう女は許せんが、それでもお前との縁を繋いだことに免じて、ここで手打ちにしておくか」
・
・
・
それから、三年の月日が流れました。私も17歳となり、一般の使用人と同じ仕事を任せてもらえるようになって、日々、充実した日々を過ごしています。
マブドの腕は、三年前とは比較にならないほど上達し、今では10回やれば、9回私が勝つようになりました。今日も侯爵様は、悔しそうに頭をかきます。
「ええい、また負けた。リネット、少しは手加減しろ」
「あら、侯爵様は手に汗握る熱戦がしたくて、私を雇ったのでしょう? 手加減なんかしたら、契約違反になってしまいます」
「まったく、あの大人しい娘が、よくもここまで生意気になったものだ。ああ言えばこう言うんだからな」
「侯爵様のおかげです。あの時あなたが私を救ってくれなかったら、私は今頃、口にするのもおぞましい生活をしていたでしょう。あるいは、すでに死んでいたかもしれません」
「『おかげ』というなら、俺もお前のおかげで領民と交流することが増え、三年前よりは随分良い領主になれた。俺たちの出会いは、互いにとって良縁だったというわけだな」
101
あなたにおすすめの小説
宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~
よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。
しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。
なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。
そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。
この機会を逃す手はない!
ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。
よくある断罪劇からの反撃です。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
悪役令嬢ですが、副業で聖女始めました
碧井 汐桜香
ファンタジー
前世の小説の世界だと気がついたミリアージュは、小説通りに悪役令嬢として恋のスパイスに生きることに決めた。だって、ヒロインと王子が結ばれれば国は豊かになるし、騎士団長の息子と結ばれても防衛力が向上する。あくまで恋のスパイス役程度で、断罪も特にない。ならば、悪役令嬢として生きずに何として生きる?
そんな中、ヒロインに発現するはずの聖魔法がなかなか発現せず、自分に聖魔法があることに気が付く。魔物から学園を守るため、平民ミリアとして副業で聖女を始めることに。……決して前世からの推し神官ダビエル様に会うためではない。決して。
潜入捜査中の少女騎士は、悩める相棒の恋心に気がつかない。~男のふりをしているのに、メイド服を着て捜査とかどうしたらいいんですか。~
石河 翠
恋愛
平民の孤児でありながら、騎士団に所属するフィンリー。そのフィンリーには、大きな秘密があった。実は女であることを隠して、男として働いているのだ。
騎士団には女性も所属している。そのため性別変更は簡単にできるのだが、彼女にはどうしてもそれができない理由があった。友人であり、片思いの相手であり、何より大切な相棒でもあるローガンと離れたくなかったのだ。
女性にモテるローガンだが、誰かひとりに肩入れすることはない。自分が女であるとわかれば、彼は自分を相棒としてふさわしくないと認識するだろう。
そう考えたフィンリーは相棒として隣に立つことを望んでいたのだが、ある日厄介な任務を受けることになる。それは、男として暮らしているフィンリーが、メイドとして潜入捜査を行うというものだった。
正体と恋心がバレないように必死に男らしく振る舞おうとするフィンリーだったが、捜査相手にさらわれてしまい……。
男として振る舞うちょっと鈍感なヒロインと、彼女を大切に思うあまり煙草が手放せなくなってしまったヒーローのお話。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、相内充希さまに作成していただきました。
聖女を怒らせたら・・・
朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
奥様は聖女♡
喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。
ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる