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第17話(ジョセフ視点)
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パメラは、テーブルの上で一番立派なパンに齧り付きながら、いかにも不満といった感じで眉を顰め、言う。
「あーあ、いっつもいっつも、安物のかったいパンばっかり。たまには、もうちょっとマシなもの食べさせてよね。炭鉱夫って、仕事がきつい分、稼ぎ自体はなかなかいいんでしょ?」
くちゃくちゃと音を立ててパンを咀嚼するパメラを、母上は横目で睨み、小さく「寄生虫がぁ……」と呟いた。固く握りしめられた母上の手の中には、テーブルナイフがギラリと光り、小刻みに揺れている。
まずい。
今日の母上は、相当にまずいぞ。
近頃、精神的に不安定だとは思っていたが、今日は完全に目がすわっている。
このままでは、テーブルナイフでパメラに襲いかかりそうだ。
なんとか、この険悪な空気を変えなくては。
そう思い、何か明るい話題を振ろうとして、僕は気がついた。
パメラの指に、見慣れない指輪がはめられていることに。
小さいながらも、深紅の宝石が妖しく光る、美しい指輪だった。
……これは、安物じゃないぞ。
どういうことだ。パメラが駄々をこねるので、少しくらいは小遣いをやっているが、とても、その小遣いで買える代物じゃない。
まさか、盗んだのか……?
僕は緊張で喉を鳴らし、いまだにぶつくさと文句を言いながらパンをかじっているパメラに問う。
「……パメラ。その指輪、どうしたんだ?」
パメラはパンを安ワインで飲み下してから、小さく息を吐いて、言う。
「どうしたって? どういう意味?」
「だから、どうしてお前が、そんな高級品を身に着けているのかと、聞いているんだ。とてもじゃないが、僕の渡している小遣いで買える金額じゃないだろう?」
パメラは、無遠慮にワインのおかわりを注ぎながら、ケラケラと笑う。
「あははは! そりゃそうよね。あんたから貰ってる小遣いで買える指輪と言ったら、子供用のおもちゃのリングくらいだわ!」
ふざけた態度に、僕はテーブルを叩いて怒った。
「パメラ! 笑い事じゃない! 僕は、真剣に聞いてるんだ! ……もしかして、盗んだのか?」
僕の怒りなど意にも介さず、パメラはワインを一口飲み、下品にげっぷをしてから答える。
「馬鹿ね、盗んでなんかいないわよ。ちゃんと買ったの。領収書だってあるわよ、見せてあげましょうか?」
「買ったって……しかし、今、お前、自分で言ったじゃないか、僕が渡してる小遣いじゃ、おもちゃの指輪くらいしか買えないって」
パメラは、困惑する僕を、まるでからかうように笑い、言う。
「私ね、最近、ギャンブルにはまってるのよ。んで、今日は大勝ちしたから、戦利品としてこの指輪を買ったってわけ。どう、盗品じゃなくて、安心した? あははっ! あんたのさっきの慌てた顔、傑作だったわ! あははははは!」
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そう思い、何か明るい話題を振ろうとして、僕は気がついた。
パメラの指に、見慣れない指輪がはめられていることに。
小さいながらも、深紅の宝石が妖しく光る、美しい指輪だった。
……これは、安物じゃないぞ。
どういうことだ。パメラが駄々をこねるので、少しくらいは小遣いをやっているが、とても、その小遣いで買える代物じゃない。
まさか、盗んだのか……?
僕は緊張で喉を鳴らし、いまだにぶつくさと文句を言いながらパンをかじっているパメラに問う。
「……パメラ。その指輪、どうしたんだ?」
パメラはパンを安ワインで飲み下してから、小さく息を吐いて、言う。
「どうしたって? どういう意味?」
「だから、どうしてお前が、そんな高級品を身に着けているのかと、聞いているんだ。とてもじゃないが、僕の渡している小遣いで買える金額じゃないだろう?」
パメラは、無遠慮にワインのおかわりを注ぎながら、ケラケラと笑う。
「あははは! そりゃそうよね。あんたから貰ってる小遣いで買える指輪と言ったら、子供用のおもちゃのリングくらいだわ!」
ふざけた態度に、僕はテーブルを叩いて怒った。
「パメラ! 笑い事じゃない! 僕は、真剣に聞いてるんだ! ……もしかして、盗んだのか?」
僕の怒りなど意にも介さず、パメラはワインを一口飲み、下品にげっぷをしてから答える。
「馬鹿ね、盗んでなんかいないわよ。ちゃんと買ったの。領収書だってあるわよ、見せてあげましょうか?」
「買ったって……しかし、今、お前、自分で言ったじゃないか、僕が渡してる小遣いじゃ、おもちゃの指輪くらいしか買えないって」
パメラは、困惑する僕を、まるでからかうように笑い、言う。
「私ね、最近、ギャンブルにはまってるのよ。んで、今日は大勝ちしたから、戦利品としてこの指輪を買ったってわけ。どう、盗品じゃなくて、安心した? あははっ! あんたのさっきの慌てた顔、傑作だったわ! あははははは!」
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