18 / 30
第18話(ジョセフ視点)
しおりを挟む
何がそんなにおかしいのか、パメラはけたたましく笑い続けた。
……確かに、指輪が盗品でないことには安心したが、まさか、ギャンブルとは……この女は、自分の両親が、ギャンブルまがいの投資話で破滅したことから、なんにも学んでいないのか?
だいたい、我が家に寄生して、いつもひたすら金を吸い上げているだけなのだから、たまに臨時収入が入ったのなら、少しは恩を返そうと思い、うちに生活費を入れようとか、考えないのだろうか?
そこまで考えて、僕は苦笑した。
このパメラが、そんな殊勝なことを考えるはずがない。
……母上の台詞ではないが、この女はまさに、人の姿をした『寄生虫』だ。
恐らく、鉱山の事故か何かで僕が死んだとしても、『あーあ、寄生する宿主が死んじゃった。明日からどうしよっかなー』程度にしか思わず、涙の一滴だって、流してはくれないだろうな。
うぅっ……頭が痛くなってきた……最近、パメラと話していると、よくこんなふうに、ギリギリと締め付けられるように頭が痛む。きっと、ストレスのせいだな。
頭痛に顔をしかめる僕のほうなど見もせずに、パメラは自慢話を始めた。ギャンブルで大勝したのが、よっぽど嬉しかったらしい。
「ふふん、カードにサイコロ、くじにスロット。まあ、色々やったけど、特に面白いのは、賭けボクシングね。二人のボクサーのうち、どっちが勝つかに賭ける、あれよあれ」
「…………」
「体力だけが取り柄の馬鹿男が、血みどろで殴り合う姿を見るだけでもスカッとするし、私、けっこう見る目ある方だから、体格や面構えをじっくり観察すれば、どっちが勝つか、だいたいわかっちゃうのよねぇ。んふふ、凄い才能でしょ?」
もはや、相槌を打つのも馬鹿らしい。
百発百中ならともかく、一回か二回、予想が的中したくらいで、よくもここまで調子に乗れるものだ。
……ちょっと待て。
賭けボクシングだって?
あれは確か、残酷すぎるという理由で、違法だったはずだ。
この町のどこにも、賭けボクシングの興行をやっている場所などない。
僕は、なるべく平静を装って、尋ねる。
「……賭けボクシングなんて、どこでやってるんだ?」
訝しむ僕の内心に気づかず、パメラは上機嫌に語り続ける。
「んふふ、あんまり大きな声じゃ言えないけどね。繁華街の裏通りに、闇カジノがあるのよ。そこで、えっと、ギャングだかマフィアだか知らないけど、裏社会の人間が仕切って、興行をやってるってわけ」
あああああ。
頭痛が、ますます酷くなる。
馬鹿。
馬鹿。
僕も馬鹿だが、こいつはそれ以上の大馬鹿だ。
裏社会の人間が仕切っている闇カジノに出入りするなんて。
……確かに、指輪が盗品でないことには安心したが、まさか、ギャンブルとは……この女は、自分の両親が、ギャンブルまがいの投資話で破滅したことから、なんにも学んでいないのか?
だいたい、我が家に寄生して、いつもひたすら金を吸い上げているだけなのだから、たまに臨時収入が入ったのなら、少しは恩を返そうと思い、うちに生活費を入れようとか、考えないのだろうか?
そこまで考えて、僕は苦笑した。
このパメラが、そんな殊勝なことを考えるはずがない。
……母上の台詞ではないが、この女はまさに、人の姿をした『寄生虫』だ。
恐らく、鉱山の事故か何かで僕が死んだとしても、『あーあ、寄生する宿主が死んじゃった。明日からどうしよっかなー』程度にしか思わず、涙の一滴だって、流してはくれないだろうな。
うぅっ……頭が痛くなってきた……最近、パメラと話していると、よくこんなふうに、ギリギリと締め付けられるように頭が痛む。きっと、ストレスのせいだな。
頭痛に顔をしかめる僕のほうなど見もせずに、パメラは自慢話を始めた。ギャンブルで大勝したのが、よっぽど嬉しかったらしい。
「ふふん、カードにサイコロ、くじにスロット。まあ、色々やったけど、特に面白いのは、賭けボクシングね。二人のボクサーのうち、どっちが勝つかに賭ける、あれよあれ」
「…………」
「体力だけが取り柄の馬鹿男が、血みどろで殴り合う姿を見るだけでもスカッとするし、私、けっこう見る目ある方だから、体格や面構えをじっくり観察すれば、どっちが勝つか、だいたいわかっちゃうのよねぇ。んふふ、凄い才能でしょ?」
もはや、相槌を打つのも馬鹿らしい。
百発百中ならともかく、一回か二回、予想が的中したくらいで、よくもここまで調子に乗れるものだ。
……ちょっと待て。
賭けボクシングだって?
あれは確か、残酷すぎるという理由で、違法だったはずだ。
この町のどこにも、賭けボクシングの興行をやっている場所などない。
僕は、なるべく平静を装って、尋ねる。
「……賭けボクシングなんて、どこでやってるんだ?」
訝しむ僕の内心に気づかず、パメラは上機嫌に語り続ける。
「んふふ、あんまり大きな声じゃ言えないけどね。繁華街の裏通りに、闇カジノがあるのよ。そこで、えっと、ギャングだかマフィアだか知らないけど、裏社会の人間が仕切って、興行をやってるってわけ」
あああああ。
頭痛が、ますます酷くなる。
馬鹿。
馬鹿。
僕も馬鹿だが、こいつはそれ以上の大馬鹿だ。
裏社会の人間が仕切っている闇カジノに出入りするなんて。
881
あなたにおすすめの小説
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~
舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」
わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。
ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。
驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。
※話自体は三人称で進みます。
平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」
その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。
王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。
――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。
学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。
「殿下、どういうことでしょう?」
私の声は驚くほど落ち着いていた。
「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる