幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】

小平ニコ

文字の大きさ
29 / 30

第29話(パメラ視点)

しおりを挟む




 きらびやかなライトに照らされた、血みどろの舞台。
 私は今、例の賭けボクシングのリングに、立っている。

 ……観客ではなく、ボクサーとして。

 黒ずくめの男が言った『あんたでもできそうな仕事』とは、なんと、賭けボクシングの選手になることだった。……なんでも、最近は、男同士の試合に飽きてきた観客から、『今度は女と女を殴り合わせろ』という悪趣味な要望が増えていたらしい。

 私は、震えていた。

 当然だ。

 言うまでもないが、ボクシングなど習ったことはないし、殴り合いの喧嘩すらしたことがない。これまでの人生の中で、私が殴ったことがあるのは、ジョセフだけ。……目いっぱい私を甘やかしてくれた、優しいジョセフの顔だけ。

 そんな私が、賭けボクシングのボクサーですって?

 悪い冗談だ。
 でも、それでも、売春はいやだった。

 だいたい、賭けはもう締め切られている。今さら『やっぱりやめます』なんて言っても、誰も許してはくれないだろう。……黒ずくめの男が言うには、私は強い肩をしているそうなので、経験を積めば、案外いいボクサーになれるかもしれないとのことだった。

 対戦相手は、とても同じ性別とは思えない、筋骨隆々の女だ。もう、何度も試合をしたことがあるのだろう。唇は曲がり、鼻は潰れ、まぶたの上には生々しい切り傷がいくつもある。

 ああああ。

 睨んでる。
 こっちを、睨んでる。

 怖い。
 怖い。
 怖い。

 助けて。
 ジョセフ。
 助けて。

 私、頭が痛いの。
 きっと熱があるんだわ。
 ほら、咳もでる。

 病気よ。
 これ、絶対に病気。

 仮病じゃないわ。
 本当よ。

 だから、中止にして。
 試合を、中止にして!

 カーン。

 何の音?

 カーンって、何の音?

 ああっ。

 対戦相手が、こっちに向かってきた。

 そうか。
 カーンって、試合開始のゴングの音だったのね。

 待って。
 待って。
 待ってよ!

 私、病気なのよ!

 試合なんてできないわ!

 やめて!

 許して!

 ジョセフ!

 パンチが、飛んできた。

 ボクシングの『ボ』の字も知らない私に、防御なんてできるはずがない。

 痛い。

 痛い。

 ああああ。

 鼻から、血が出てる!

 いっぱい、血が出てる!

 もう試合なんてできないわ!

 ストップよ、ストップ!

 しかし、試合は止まらない。

 観客たちは、滅多打ちにされる私を見て、大喜び。

 少しではあるが、私に賭けていた観客は、「逃げんな! 死ぬまで戦えクズ女!」と、かつての私のようなことを叫んでいる。

 私は恐怖と悲しみと激痛の中、サンドバッグ同然に殴られ続け、2ラウンドの中盤で、完全に意識を失った。
しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

誰からも必要とされていないから出て行ったのに、どうして皆追いかけてくるんですか?

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢ミリーシャは、自身が誰からも必要とされていないことを悟った。 故に彼女は、家から出て行くことを決めた。新天地にて、ミリーシャは改めて人生をやり直そうと考えたのである。 しかし彼女の周囲の人々が、それを許さなかった。ミリーシャは気付いていなかったのだ。自身の存在の大きさを。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。

旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。 本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。 初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。 翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス…… (※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)

「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。

佐藤 美奈
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」 弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。 結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。 それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。 非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……

聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日

佐藤 美奈
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」 「相手はフローラお姉様ですよね?」 「その通りだ」 「わかりました。今までありがとう」 公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。 アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。 三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。 信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった―― 閲覧注意

妹と王子殿下は両想いのようなので、私は身を引かせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナシアは、第三王子との婚約を喜んでいた。 民を重んじるというラナシアの考えに彼は同調しており、良き夫婦になれると彼女は考えていたのだ。 しかしその期待は、呆気なく裏切られることになった。 第三王子は心の中では民を見下しており、ラナシアの妹と結託して侯爵家を手に入れようとしていたのである。 婚約者の本性を知ったラナシアは、二人の計画を止めるべく行動を開始した。 そこで彼女は、公爵と平民との間にできた妾の子の公爵令息ジオルトと出会う。 その出自故に第三王子と対立している彼は、ラナシアに協力を申し出てきた。 半ば強引なその申し出をラナシアが受け入れたことで、二人は協力関係となる。 二人は王家や公爵家、侯爵家の協力を取り付けながら、着々と準備を進めた。 その結果、妹と第三王子が計画を実行するよりも前に、ラナシアとジオルトの作戦が始まったのだった。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

処理中です...