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第1話

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「目を覚ましたか、エリザベラ! ああ……本当に良かった……!」

 銀髪の美しい青年が、私の顔を覗き込むようにして、そう言った。

 ……彼は、誰だろう?
 知らない人だ。

 うっ……
 頭が痛い……

 いや、頭だけじゃない。
 腕も、足も、腰も、胸も。
 つまり、全身が痛い。

 意識が冴えるのと同時に、鈍かった痛みが少しずつ鋭くなり、私は頭を抱え、小さく叫んだ。

「うぅ……! 痛い、痛い……っ!」

 すると、銀髪の青年の背後から、背の高い、栗毛の青年が走って来て、慌てて言う。

「大丈夫ですか、エリザベラさん。無理に体を起こさないで。さあ、横になってください」

 そこで初めて、私は自分がベッドに寝かされていることに気がついた。栗毛の青年の指示に従い、大人しく体を休めると、少しだけ痛みが楽になる。

 ……今、栗毛の青年は、私のことを『エリザベラさん』と呼んだ。
 どうやら、それが私の名前らしい。

 私は、エリザベラ。
 それは、わかった。

 それ以外は?

 わからない。
 何もわからない。

 ここがどこかも、今が何月何日かもわからない。

 私は、記憶喪失だ――





 目を覚ましてから三日が経ち、少しずつ状況が飲み込めてきた。

 ここは病院で、あの栗毛の青年は、病院長のダンストン先生だ。

 私とそれほど変わらない年齢に見えるが、若くして個人医院を開業しているのだから、相当に優秀で、人望のある人なのだろう。

 そして、私が目覚めた時、一番に声をかけてくれた銀髪の青年が、私の婚約者であるバーナルドだ。彼は重々しいため息を何度も吐きながら、どうして私がこんなことになってしまったのかを、説明してくれた。

 三日前の夜、私とバーナルドは王都に芝居見物に行き、その帰りに運悪く暴れ馬と出くわして、私は跳ね飛ばされてしまったらしい。

 全身――特に頭を強打した私は、近くにあったダンストン先生の病院に担ぎ込まれ、先生の迅速かつ的確な治療のおかげで、何とか一命をとりとめた。しかし、頭部に受けた衝撃の影響は大きく、自分のことも、大切な人のことも、すべて忘れてしまった……

 私はこれからいったい、どうなってしまうんだろう……
 永久に、記憶は戻らないのだろうか?

 体の痛みと未来への不安から、ふさぎ込みがちになる私を、バーナルドは必死になって励ましてくれた。

「大丈夫だよエリザベラ。記憶喪失なんて、一時的なものに決まってるさ。またすぐに、元気で快活な、いつものきみに戻れるよ」

 何の根拠もない励ましだが、それでもこれだけ言い切ってもらえると、なんとなく元気が出る。私は「ありがとう」と微笑み、事故で記憶は奪われても、バーナルドという優しい婚約者を残してくれた神様に感謝した。
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