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第5話

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 このままの調子では、明日からの勉強にも、差しさわりが出てしまう。かといって、チェスタスに直接、『エミリーナの不正入学にかかわってるの?』と聞きに行くわけにもいかず、私はその日、悶々とした気分で夜を過ごした。

 そして、翌朝。

 一晩ぐっすり寝れば、多少は気分も変わるかと思ったが、まったくそんなことはなく、私は相変わらず思い悩みながら、登校する。

 鬱屈とした私の気持ちとは正反対に、お天気は今日も素晴らしく、燦燦と輝く太陽は目に眩しいほどだ。……以前はよく、こんな眩しい太陽の下を、チェスタスと一緒に登校したっけ。

 最近は、『エミリーナは王立高等貴族院への道がよくわかってないから、僕が案内してあげないといけないんだ』と言い、いつもエミリーナと登校しているので、私は毎日一人ぼっちで通学路を歩いている。

 ……エミリーナが転入してきてから、すでに二週間以上が経ってるんだから、もう『王立高等貴族院への道がよくわかってない』なんてこと、あり得ないのに、チェスタスは今でもエミリーナにべったりだ。

 正直、ここまで放っておかれると、段々と私の方も、チェスタスに対する愛情が冷めていくのを感じる。……そうよ。だいたい、元々親同士が決めた婚約だし、私の方から懸命に尻尾を振ってまで、チェスタスに構ってほしいと思うほど、私はプライドの低い女じゃないわ。

 と、心の中で勇んではみたものの、やっぱり、つい最近までは仲良く過ごしていた婚約者が、突然離れていってしまったことは、悲しく、辛く、そして、寂しかった。

 その時である。
 視界の果てに、よく見知った二人の姿が映った。

 チェスタスと、エミリーナだ。

 二人はまるで、恋人同士のように肩を寄せ合い、ニコニコと談笑しながら、歩みを進めている。……私の胸の中に、何か、苦い感情が広がった。

 何よ。チェスタスったら、随分楽しそうね。
 私といる時より、楽しそうじゃない。

 エミリーナの話は、そんなに面白いの?

 今、彼女がいる場所は、少し前まで、私がいた場所だったのに。

 そう思うと、心の中の苦い感情はますます暗く煮詰まり、それはやがて、小さな邪心となった。……二人とも、いったい何を話してるんだろう? ちょっとくらい、盗み聞きしてもいいわよね。だって私は、チェスタスの婚約者なんだから。

 私は唇をかみしめた後、小さく呪文を唱え、魔法を発動させる。

 使ったのは、中級レベルの『音声盗聴魔術』だ。……盗聴という文字が入っているので、あまり印象の良くない名前ではあるが、遠く離れた場所の音をクリアに聞くことができる優れもので、私の得意魔法だった。
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