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第36話

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 ガンアイン氏は、メイナード先生の視線を受け、震えていた。
 もう、『ほほほ』と笑う余裕もないらしく、彼はその、震える唇で、叫ぶ。

「あ、あ、あ、あなた様は、ナディアス王子! 転送魔法を想起させる光に包まれ、まさかとは思いましたが、こ、これはいったい、どういうことですかな……?」

 ……王子?

 今、王子って言った?

 ナディアス王子って、この国の、第二王子の名前よね。
 メイナード先生が、そのナディアス王子だって言うの……?

 急転する状況に、頭がついていけない。

 私はぽかんとして、メイナード先生とガンアイン氏を見比べる。いつの間にか近くに来ていたエミリーナも、私と同じく困惑した様子で、じっと様子を伺っていた。

 メイナード先生……いや、ナディアス王子は、厳しい視線を少しも緩めることなく、ガンアイン氏に言う。

「ガンアイン殿、お久しぶりですね。宮廷魔導師であったあなたに魔法の手ほどきを受けていたのは、もう十年以上前のことですから、私の顔など、覚えていないと思っていましたよ」

 ガンアイン氏は、激しく首を左右に振る。
 たぷたぷの頬肉が、それに合わせてぶるぶると揺れた。

「と、とんでもないことです! ナディアス王子殿下に魔法の指導をさせていただいたことは、このガンアインにとって、一生の誉れ! 殿下のお顔を忘れることなど、あるはずがございません! いやあ、それにしても、テレポートの魔法、とうとう完成したのですな! さすがは殿下、王室一の魔法の天才、いや、いや、お見事でございます!」

 必死におべっかを使うガンアイン氏だったが、ナディアス王子は一度も笑わない。王子は小さく息を吐くと、残念そうに言葉を紡いでいく。

「天才は、テレポートの基礎理論を作ったあなたの方ですよ、ガンアイン殿。私はあなたの考えた基礎を元に研究を続け、実用化に成功しただけです。……あなたは、本当に優秀な魔法使いだった。王宮の侍女たちに、手当たり次第に手を付ける悪癖さえなければ、この国始まって以来の大魔導師として、人々の尊敬を集めていたでしょう」

 王宮の侍女たちに、手当たり次第に手を付けるって……
 もう充分わかってはいたつもりだが、最低な男である。

 ガンアイン氏は、イタズラが見つかって怒られた子供のように頭をかき、大して悪びれもせず、言う。

「いやはや、耳の痛い話ですな。……えっと、それで、その、殿下。先程もお尋ねしましたが、これはいったい、どういうことです? なぜ我々は、まとめてこんなところに転送されたのですかな?」
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