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第43話

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「そうですね。どこで見ても、空は空ですから。……推測ですが、あなたの曾祖父殿にとって、この景色が特別美しく見えたのは、王宮に仕える彼自身の誇りと特権意識が、そうさせていたのでしょう。景色というものは、見る側の心境や立場が違うと、まったく違って見えるものですからね」

「きっと、そういうことなんでしょうね。曽祖父は失脚し、王宮を追い出されたから、余計に、この天窓から見る景色が心に焼き付いてしまったのかもしれません……ふっ、ふふっ、ふふっ……」

 エミリーナは、笑っていた。
 乾いた、寂しい笑い。
 その笑いがやむと、エミリーナは、自分を嘲るように、言う。

「……私、馬鹿みたい。こんな、大したことのない天窓を見るために、頑張って、頑張って、いやらしい男の機嫌を取って、やりたくないことも、まちがったこともして……本当に、馬鹿みたい……ルブラン家を再興するんだなんて意気込んで、分不相応な夢を見て、馬鹿みたい……」

 そんなエミリーナに対し、ナディアス王子は慈悲深い瞳を向け、静かに、諭すように語り掛けた。

「エミリーナさん、失礼ながら、あなたが地下室でアンジェラさんに言ったことは、魔導具を通して、全て私の耳にも入っています。……あなたは、こう言っていましたね。『間違った国の、間違った大人たち。吐き気がする』と」

「ふふ、そんなこと言いましたっけ……? もう、忘れました……」

「あなたの言葉を聞いた時、心臓を掴まれたかのような衝撃を、私は受けました。上級貴族、下級貴族という、奇妙な身分制度があり、一部の特権階級と、とびぬけた天才以外は、どんなに努力をしても、高い地位へと昇っていくことはできず、そのいびつな社会構造が、もう百年以上も続いている。……確かにあなたの言う通り、この国は間違った部分が、多々ある」

「…………」

「そして、その社会構造自体が間違っていると知りながら、改革をおこなってこなかった大人たちもまた、あなたの言うように、間違っているのでしょう。……しかし、大人たちが、この国のすべてが、間違っているわけではありません。少しずつですが、自浄作用は働き、国を良い方向に導こうとする動きも、確かにあるのです」

「それは、そうなんでしょうね。ナディアス王子殿下のように、自分の身を危険にさらしてまで、不正の調査をする王族がいるくらいなんですから。あるいは、もう少し待っていれば、歪んだ社会の形もちょっとずつ変わっていき、下級貴族の私でも、努力次第で王宮に入れる日が来たかもしれない。でも……」

 エミリーナは一滴の涙をこぼし、言葉を続ける。

「私、待てなかったんです。そんな、いつ来るか分からない変革の時なんて、待てなかったんです。そして、間違った選択をした時点で、私の人生は終わったんです。もう、何もかも、終わったんですよ……」
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