この村の悪霊を封印してたのは、実は私でした。その私がいけにえに選ばれたので、村はもうおしまいです【完結】

小平ニコ

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第20話

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「精霊に必要なのは、他者を愛し、許し、慈しむ心。だから、人に対する憎しみを抱いたままじゃ、精霊にはなれないんだ。わかってもらえるかな?」

 理屈としては、わかった。クォール様のような寛大な心を持つ精霊になるためには、憎しみを捨て、人を許さなければいけないということなのだろう。

 ……できるの? そんなことが?

 私はさっき『現実と人間に対する憎しみは、いつか忘れられるかもしれません』と言ったけど、それはあくまで『いつか』の話だ。今すぐこの憎しみを消し去るのは、簡単なことじゃない。

 このシンプルな試練を、私は乗り越えられるだろうか。
 先程までの意気込みは急に萎み、私は不安げにクォール様に言う。

「もしも、この試練を乗り越えることができなかったら、私はクォール様のいない残酷な世界に、たった一人で取り残されてしまうんですね……」

「そうだね。しかも、人に対する強烈な憎しみを抱いたまま。その後のきみの一生は、とても苦しいものになるだろう」

 想像するだけで身震いする。

 そんな思いをするくらいなら、私に酷い仕打ちをした人間たちのことなんてもうどうでもよく、許すでも何でもしていいと思った。でも……

「あの、精霊になりたいがために憎い相手を許すのって、なんだかとても利己的な気がするんですが、そんな気持ちで相手を許してもいいんでしょうか? 何と言いますか、そういうのって『本当の許し』じゃないと思うんです」

 クォール様は微笑んだ。

「きみはとてもまじめだね、カレン。確かに、己の利のために相手を許すのは『本当の許し』とは言えないかもしれない。でも、誰かを憎み続けるよりは、そっちの方がずっといいと僕は思う」

「そうでしょうか……」

「そもそも、腹の底から憎い相手を、本心から許せる聖人なんていると思うかい? 僕はこれまで多くの人間を見てきたけど、まずそんな人間はいなかったよ。まじめな人ほど、憎い相手を心から許そうとして、やっぱり許せず、より深い心の闇に落ちていくばかりだった」

「…………」

「それに比べれば、自分が幸せになるための利己心からくる許しの方が、遥かに素晴らしいと僕は思うよ。手段はどうあれ、憎しみを忘れて幸福になることが一番大事なんだからね」

 少し難しい話だった。

 でも、クォール様のおっしゃっていることが、なんとなくだけど理解できた。まじめに考えすぎて、憎い相手を許せずに苦しむくらいなら、ふまじめに考えて、損得勘定で憎い相手を許し、忘れてしまったほうが、ずっと幸せになれるということなのだろう。

 私は、自分自身を納得させるように何度か頷いた。
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