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第22話
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特に最後の『小動物なら、一組のつがいとなって』という文言は、私の心を強く揺らした。それは人間で言うなら、夫婦になるのと同義だからだ。
そして、クォール様は冗談を言うような方ではない。クォール様は本気で、私と運命を共にするとおっしゃっているのだ。
本当に、打ち震えるほどに嬉しい言葉だった。
しかし、どうしても不思議でならない。
私は真剣な瞳で、クォール様に問う。
「……どうして、そこまでしてくださるのですか?」
クォール様は、『なんでそんなことを聞く?』とでも言いたげに、首をかしげて答える。
「きみが好きだからだよ」
好き?
こんな私のことが?
陰気で、卑屈で、人と世を恨み、ひねくれてしまった私なんかが?
冗談にしたって、笑えなかった。
だが先ほども言った通り、クォール様はこんな冗談を言って、人をからかうような方じゃない。クォール様の言葉は、柔らかく丁寧だが、いつも真剣だ。だから私も、真剣に言う。
「どうしても、わかりません。私は、とても人に好かれるような人間じゃありませんし、クォール様に何かしてあげられたわけでもありません。それなのに、私のことが好きだなんて……」
「カレン、きみは自分で思っているより、ずっと素晴らしいことを僕にしてくれたんだよ」
「嘘です。私は何も……」
「僕はね、きみが来てくれなければ、孤独に消え去るだけだったんだ。それが、どれだけ悲しく、寂しいことかわかるかい? たぶん、きみならわかるはずだよ」
私は、かすかに頷いた。クォール様の孤独とは毛色が違うが、誰からも愛されず、いけにえとして死を迎えようとしていた私には、『孤独な死』の悲しみが痛いほどわかるから。
「何百年もこの土地を守護してきたのに、最後の百年は、誰とも話せず、触れ合うこともなく、信じてくれるものもいなくなり、望まぬ哀れないけにえだけがたまに送り込まれてくる。そして、そのいけにえの少女たちを救うこともできない。本当に、辛い日々だったよ」
言葉を聞いているだけで、涙が出た。クォール様の優しさを考えれば、どうすることもできないいけにえが次々と送られてくるのは、精神に対する究極の拷問と言ってもいい。
「きみと過ごした時間は短いけど、本当に久方ぶりの、人との交流だった。きみは、僕がきみのことを救ったと思っているかもしれないけど、救われたのは僕の方だったんだ。長い長い一生の最後を、孤独に過ごさずに済んだ幸福と温かさは、とても言葉では言い表せない」
「クォール様、私は……」
「いいんだよ。もう、何も言わなくていいんだ。さあ、そろそろ時間だ。行こうか」
そして、クォール様は冗談を言うような方ではない。クォール様は本気で、私と運命を共にするとおっしゃっているのだ。
本当に、打ち震えるほどに嬉しい言葉だった。
しかし、どうしても不思議でならない。
私は真剣な瞳で、クォール様に問う。
「……どうして、そこまでしてくださるのですか?」
クォール様は、『なんでそんなことを聞く?』とでも言いたげに、首をかしげて答える。
「きみが好きだからだよ」
好き?
こんな私のことが?
陰気で、卑屈で、人と世を恨み、ひねくれてしまった私なんかが?
冗談にしたって、笑えなかった。
だが先ほども言った通り、クォール様はこんな冗談を言って、人をからかうような方じゃない。クォール様の言葉は、柔らかく丁寧だが、いつも真剣だ。だから私も、真剣に言う。
「どうしても、わかりません。私は、とても人に好かれるような人間じゃありませんし、クォール様に何かしてあげられたわけでもありません。それなのに、私のことが好きだなんて……」
「カレン、きみは自分で思っているより、ずっと素晴らしいことを僕にしてくれたんだよ」
「嘘です。私は何も……」
「僕はね、きみが来てくれなければ、孤独に消え去るだけだったんだ。それが、どれだけ悲しく、寂しいことかわかるかい? たぶん、きみならわかるはずだよ」
私は、かすかに頷いた。クォール様の孤独とは毛色が違うが、誰からも愛されず、いけにえとして死を迎えようとしていた私には、『孤独な死』の悲しみが痛いほどわかるから。
「何百年もこの土地を守護してきたのに、最後の百年は、誰とも話せず、触れ合うこともなく、信じてくれるものもいなくなり、望まぬ哀れないけにえだけがたまに送り込まれてくる。そして、そのいけにえの少女たちを救うこともできない。本当に、辛い日々だったよ」
言葉を聞いているだけで、涙が出た。クォール様の優しさを考えれば、どうすることもできないいけにえが次々と送られてくるのは、精神に対する究極の拷問と言ってもいい。
「きみと過ごした時間は短いけど、本当に久方ぶりの、人との交流だった。きみは、僕がきみのことを救ったと思っているかもしれないけど、救われたのは僕の方だったんだ。長い長い一生の最後を、孤独に過ごさずに済んだ幸福と温かさは、とても言葉では言い表せない」
「クォール様、私は……」
「いいんだよ。もう、何も言わなくていいんだ。さあ、そろそろ時間だ。行こうか」
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