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第58話(デルロック視点)
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悪魔が姿を消してから、どれだけの時間が流れただろう。
私は下手に動かず、体力を温存し、ひたすらに時を数えていた。この地下納骨堂に避難した時が、ほとんど正午ちょうどだったので、今はだいたい、午後三時くらいのはずだ。
……頃合いだな。
私は覚悟を決め、納骨堂を出て、王宮に戻ることにした。
王宮の厩舎には、この国で最も足の速い、私の愛馬『ルドウェン』がいる。
悪魔の言葉通りなら、今から夕刻くらいまでが、最も『紫の霧』の濃度が下がる時間帯である。ルドウェンに乗って、全速力で駆ければ、何とか国を脱し、隣国に退避することができるはずだ。
もちろん私とて、あんなふざけた悪魔の言葉を、心の底から信じているわけではない。……しかし、もう他に手はないのだ。この地下納骨堂も、いつ紫の霧に侵食されるかわからないし、朝以降、食事をとっていないので、私の体力もどんどん落ちていく。イチかバチかで、決死の脱出を試みるなら、まだ気力と体力が残っている今しかない。
正午から随分と時間も経ったし、暴徒どももいい加減に死滅しているだろう。
今なら、誰にも襲われずに、厩舎まで行ける……と思う。
厩舎は、この地下納骨堂を出て、五分ほど走ればすぐだ。
行ける。
行ける。
私ならできる。
足の速さには、自信がある。
たとえ暴徒どもが生きていても、私の足なら振り切ることができる。
さあ。
行くぞ。
深呼吸をしろ。
無意味なことかもしれないが、霧の立ち込めている地上に出る前に、少しでも清浄な空気を吸っておくのだ。
私は息を深く吸い、軽く吐く。
そして、地上に出るための鍵をはずし始めた。
懸念や不安要素は山ほどあるが、私はもう考えることを止めた。
最悪の事態について考えると、体が竦み、足が動かなくなるからだ。
目指すのは、希望に向けての脱出のみ。
私には、不屈の心がある。
だから、決してあきらめない。
・
・
・
地上には、誰もいなかった。
暴徒どもが暴れていた割には、それほど破壊の跡もなく、風も穏やかで日差しも暖かい。国全体が、破滅の危機に瀕しているとはとても思えない、のどかな様相である。
そこで、気がついた。
『日差しが暖かい』だって?
私が地下納骨堂に避難する時は、濃密な紫の霧が太陽の光を遮っていた。だが、今は違う。雲もなく、昼下がりの太陽が力強く光り、地上を照らしている。
つまり。
つまりそれは。
霧が晴れていると言うことだ。
おおおお。
あの悪魔、軽薄で下劣な存在だったが、嘘はついていなかったのだな。
私は下手に動かず、体力を温存し、ひたすらに時を数えていた。この地下納骨堂に避難した時が、ほとんど正午ちょうどだったので、今はだいたい、午後三時くらいのはずだ。
……頃合いだな。
私は覚悟を決め、納骨堂を出て、王宮に戻ることにした。
王宮の厩舎には、この国で最も足の速い、私の愛馬『ルドウェン』がいる。
悪魔の言葉通りなら、今から夕刻くらいまでが、最も『紫の霧』の濃度が下がる時間帯である。ルドウェンに乗って、全速力で駆ければ、何とか国を脱し、隣国に退避することができるはずだ。
もちろん私とて、あんなふざけた悪魔の言葉を、心の底から信じているわけではない。……しかし、もう他に手はないのだ。この地下納骨堂も、いつ紫の霧に侵食されるかわからないし、朝以降、食事をとっていないので、私の体力もどんどん落ちていく。イチかバチかで、決死の脱出を試みるなら、まだ気力と体力が残っている今しかない。
正午から随分と時間も経ったし、暴徒どももいい加減に死滅しているだろう。
今なら、誰にも襲われずに、厩舎まで行ける……と思う。
厩舎は、この地下納骨堂を出て、五分ほど走ればすぐだ。
行ける。
行ける。
私ならできる。
足の速さには、自信がある。
たとえ暴徒どもが生きていても、私の足なら振り切ることができる。
さあ。
行くぞ。
深呼吸をしろ。
無意味なことかもしれないが、霧の立ち込めている地上に出る前に、少しでも清浄な空気を吸っておくのだ。
私は息を深く吸い、軽く吐く。
そして、地上に出るための鍵をはずし始めた。
懸念や不安要素は山ほどあるが、私はもう考えることを止めた。
最悪の事態について考えると、体が竦み、足が動かなくなるからだ。
目指すのは、希望に向けての脱出のみ。
私には、不屈の心がある。
だから、決してあきらめない。
・
・
・
地上には、誰もいなかった。
暴徒どもが暴れていた割には、それほど破壊の跡もなく、風も穏やかで日差しも暖かい。国全体が、破滅の危機に瀕しているとはとても思えない、のどかな様相である。
そこで、気がついた。
『日差しが暖かい』だって?
私が地下納骨堂に避難する時は、濃密な紫の霧が太陽の光を遮っていた。だが、今は違う。雲もなく、昼下がりの太陽が力強く光り、地上を照らしている。
つまり。
つまりそれは。
霧が晴れていると言うことだ。
おおおお。
あの悪魔、軽薄で下劣な存在だったが、嘘はついていなかったのだな。
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