二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

文字の大きさ
38 / 389

第38話

しおりを挟む
「私はね、これでも温厚な人間のつもりよ。大抵のことは許すわ。……でもね、ただ一つ、至福のバスタイムを邪魔されるのだけは、我慢ならないのよ。わかったら、出ていきなさい」

「まあまあ、そう言わずに。手の届きにくい背中を、他人に洗ってもらうのって気持ちいいですよ。自慢するわけじゃないですけど、私、手先の器用さにはちょっと自信があるので、きっとお師匠様にも満足していただけると思います」

 ……ふむ。
『手の届きにくい背中を、他人に洗ってもらうのって気持ちいい』か。

 そういえば、もう長い間、他人に背中を流してもらったりしてないわね。

 確かにあれは、なかなか良いものだ。私は身体が柔らかいので、背中のどこでも自由に手が届くが、それでも、手先の器用な人に背中を洗ってもらう心地よさは、また別である。

 私は少しだけ思案して、結局、エリスの思う通りにさせることにした。よくよく考えたら、もう服を脱いで浴室に入って来てしまったわけだし、今から出て行けと言うのも酷な話である。毎回この調子では困るが、今日だけは許すとしよう。

 そして風呂椅子に腰かけた私の背中を、エリスはおもむろに洗い始めた。

 ん……

 お……

 んんん……

 おおぉ……この子、本当に上手だわ。

 強くもなく、弱くもない、絶妙な力加減。
 くすぐったくないし、もちろん、痛みなんて微塵も感じない。

 私は素直に感心し、エリスを褒めた。

「あなた、背中を洗うの、うまいわね。雑な性格してるから、もの凄く雑に洗われるんじゃないかと思って、ちょっと心配してたけど、杞憂だったわね」

「お褒めにあずかり、光栄です~。……今、『雑な性格』って言いました?」

「気のせいよ。ああ~、そこそこ、もうちょっと強くこすってちょうだい」

「はぁい」

 エリスは、しばらく無言で私の背中を流し、それからしみじみと言う。

「お師匠様の背中、鍛えられて、引き締まってはいますけど、特別ゴツゴツしてるってわけじゃないんですね。意外です」

「そう?」

「ええ。武術家っぽくない体つきと言いますか……。先程の、公園での戦いでは、野生の獣以上の素早い身のこなしでしたから、正直言って、脱いだら筋肉ムキムキなんだろうなって思ってました」

「ふふ、実を言うとね。昔はかなりムキムキだったのよ。腕なんか、丸太くらいの太さがあったし、足は筋肉でパンパンに張ってたわ。身長だって、今よりずっと高かったわね」

「そうなんですか? 今はほっそりとして、とてもそうは思えませんけど……」

「聖女拳法の秘術に、『筋縮法』っていうのがあってね。鍛えぬいた筋肉を凝縮し、細くすることで、さらに強力なパワーが発揮できるようになるの。だから見た目は細身だけど、私の身体能力は、魔物や獣人にも引けを取らないわ」
しおりを挟む
感想 288

あなたにおすすめの小説

【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします

ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに 11年後、もう一人 聖女認定された。 王子は同じ聖女なら美人がいいと 元の聖女を偽物として追放した。 後に二人に天罰が降る。 これが この体に入る前の世界で読んだ Web小説の本編。 だけど、読者からの激しいクレームに遭い 救済続編が書かれた。 その激しいクレームを入れた 読者の一人が私だった。 異世界の追放予定の聖女の中に 入り込んだ私は小説の知識を 活用して対策をした。 大人しく追放なんてさせない! * 作り話です。 * 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。 * 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。 * 掲載は3日に一度。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路

藤原遊
ファンタジー
聖女が国を去った日、神官長は分かっていた。 この国は、彼女を軽く扱いすぎたのだと。 「聖女がいなくても平気だ」 そう言い切った王子と人々は、 彼女が“何もしていない”まま国が崩れていく現実を、 やがて思い知ることになる。 ――これは、聖女を追い出した国の末路を、 静かに見届けた者の記録。

その人、聖女じゃなくて聖女『モドキ』ですよ?~選んだのは殿下ですので、あとはお好きにどうぞ~

みなと
ファンタジー
「お前は慎みというものを知るべきだ! 俺は、我が腕の中にいるアルティナを次代の筆頭聖女に任命し、そして新たな我が婚約者とする!」 人を指さしてドヤ顔を披露するこの国の王太子殿下。 そしてその隣にいる、聖女として同期の存在であるアルティナ。 二人はとてつもなく自信満々な様子で、国の筆頭聖女であるオフィーリア・ヴァルティスを見てニヤついている。 そんな中、オフィーリアは内心でガッツポーズをしていた。 これで……ようやく能無しのサポートをしなくて良い!と、今から喜ぶわけにはいかない。 泣きそうな表情を作って……悲しんでいるふりをして、そして彼女は国を追放された。 「いよっしゃああああああああああああ! これで念願のおば様のところに行って薬師としてのお勉強ができるわよ!!」 城の荷物をほいほいとアイテムボックスへ放り込んで、とても身軽な状態でオフィーリアは足取り軽くおばが住んでいる国境付近の村へと向かう。 なお、その頃城では会議から戻った国王によって、王太子に鉄拳制裁が行われるところだった――。 後悔しても、時すでに遅し。 アルティナでは何の役に立たないことを思い知った王太子がオフィーリアを呼び戻そうと奮闘するも、見向きもされないという現実に打ちひしがれることになってしまったのだ。 ※小説家になろう、でも公開中

聖女を怒らせたら・・・

朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...