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第53話
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そんなことを思っているうちに、ラジアスはつかつかと用心棒の兄に近づいて行き、親指でクイッと私を指さしながら、事も無げに言う。
「おい、お前、失せろ。そして、二度とこの女に近づくな」
清々しいほどの上から目線――
その言葉で、用心棒の兄が、完全にキレた。
彼は、意味不明の金切り声を上げ、ラジアスの首に手刀を叩き込もうとする。
頭に血が上り、冷静さを失っているとは思えないほど、素早く、鋭く、そして的確な一撃だった。だが、その必殺の一撃も、虚しく空を切る。
ラジアスは、手刀を完全に見きっていた。少しだけ首を引いて、難なく回避すると、用心棒の兄の細い顎に、横から掌底を打ち込む。……そのたった一撃で、用心棒の兄は、糸の切れた操り人形のように頽れた。
……お見事。
一見、女の子のビンタのようにも見える軽い掌打だが、私にはわかる。全身の力を、掌底の一点に集約した、恐るべき打撃だ。それをまともに顎に受けた以上、用心棒の兄は、しばらくまともにご飯を噛むこともできないだろう。
得意の剣を使わなくても、この強さ。
さすがは勇者ラジアスである。
ラジアスは、倒れ伏した用心棒の兄にはもう何の興味も払わず、今度はエリスを指さし、私に問うてくる。
「このエルフは何者だ? こいつも、お前の敵か?」
初対面の男に『こいつ』呼ばわりされて若干ムッとしたのか、エリスは軽く頬を膨らませて言う。
「わ、私は敵じゃありません! お師匠様の弟子です!」
用心棒の兄が倒されたことで、エリスのブチギレモードは収まったらしく、本当に、ちょっとムッとしたという感じで、抗議しているだけだ。そんなエリスに、ラジアスは首を傾げた。
「お師匠様? 弟子? ……まさか、お前の言う師匠とは、このディーナのことか?」
その問いに、エリスはゆっくりと頷き、誇らしげに大きな胸を張った。
ラジアスは、何度かエリスと私の顔を見比べた後、やや大げさなため息を吐く。
「ディーナ……お前、何を馬鹿なことをやっているんだ。お前ほどの実力者が、こんなエルフの未熟者と、師弟ごっこのままごと遊びをしているとは。なんという才能の無駄遣いだ」
むかっ。
『馬鹿なこと』
『ままごと遊び』
『才能の無駄遣い』
そこまで言う?
ひさしぶりに会って、わざわざ言うことがそれ?
さすがに頭にきた私は、たっぷりの嫌味を込めて、ラジアスに言い返す。
「その『実力者』を、時代遅れだのなんだのと、散々なじって追放したのは、どこのどなたでしたっけ?」
ああ、言っちゃった。いつもこんな感じの、売り言葉に買い言葉で、ラジアスとは喧嘩になっちゃうのよね。でも私、馬鹿にされてニコニコ笑っていられるほど大人しい女じゃないわ。無益な争いは嫌いだけど、言われっぱなしの泣き寝入りよりは、喧嘩した方がマシよ。
だがラジアスは、意外にも私の嫌味に腹を立てず、素直に頭を下げた。
「……悪かった」
「えっ?」
「お前を追放したことは、明らかな判断ミスだった。正式に謝罪する。……お前がいなくなってから、パーティーは上手く機能せず、トレイボンが大怪我し、ヒーラーも故郷に帰ってしまったよ」
「おい、お前、失せろ。そして、二度とこの女に近づくな」
清々しいほどの上から目線――
その言葉で、用心棒の兄が、完全にキレた。
彼は、意味不明の金切り声を上げ、ラジアスの首に手刀を叩き込もうとする。
頭に血が上り、冷静さを失っているとは思えないほど、素早く、鋭く、そして的確な一撃だった。だが、その必殺の一撃も、虚しく空を切る。
ラジアスは、手刀を完全に見きっていた。少しだけ首を引いて、難なく回避すると、用心棒の兄の細い顎に、横から掌底を打ち込む。……そのたった一撃で、用心棒の兄は、糸の切れた操り人形のように頽れた。
……お見事。
一見、女の子のビンタのようにも見える軽い掌打だが、私にはわかる。全身の力を、掌底の一点に集約した、恐るべき打撃だ。それをまともに顎に受けた以上、用心棒の兄は、しばらくまともにご飯を噛むこともできないだろう。
得意の剣を使わなくても、この強さ。
さすがは勇者ラジアスである。
ラジアスは、倒れ伏した用心棒の兄にはもう何の興味も払わず、今度はエリスを指さし、私に問うてくる。
「このエルフは何者だ? こいつも、お前の敵か?」
初対面の男に『こいつ』呼ばわりされて若干ムッとしたのか、エリスは軽く頬を膨らませて言う。
「わ、私は敵じゃありません! お師匠様の弟子です!」
用心棒の兄が倒されたことで、エリスのブチギレモードは収まったらしく、本当に、ちょっとムッとしたという感じで、抗議しているだけだ。そんなエリスに、ラジアスは首を傾げた。
「お師匠様? 弟子? ……まさか、お前の言う師匠とは、このディーナのことか?」
その問いに、エリスはゆっくりと頷き、誇らしげに大きな胸を張った。
ラジアスは、何度かエリスと私の顔を見比べた後、やや大げさなため息を吐く。
「ディーナ……お前、何を馬鹿なことをやっているんだ。お前ほどの実力者が、こんなエルフの未熟者と、師弟ごっこのままごと遊びをしているとは。なんという才能の無駄遣いだ」
むかっ。
『馬鹿なこと』
『ままごと遊び』
『才能の無駄遣い』
そこまで言う?
ひさしぶりに会って、わざわざ言うことがそれ?
さすがに頭にきた私は、たっぷりの嫌味を込めて、ラジアスに言い返す。
「その『実力者』を、時代遅れだのなんだのと、散々なじって追放したのは、どこのどなたでしたっけ?」
ああ、言っちゃった。いつもこんな感じの、売り言葉に買い言葉で、ラジアスとは喧嘩になっちゃうのよね。でも私、馬鹿にされてニコニコ笑っていられるほど大人しい女じゃないわ。無益な争いは嫌いだけど、言われっぱなしの泣き寝入りよりは、喧嘩した方がマシよ。
だがラジアスは、意外にも私の嫌味に腹を立てず、素直に頭を下げた。
「……悪かった」
「えっ?」
「お前を追放したことは、明らかな判断ミスだった。正式に謝罪する。……お前がいなくなってから、パーティーは上手く機能せず、トレイボンが大怪我し、ヒーラーも故郷に帰ってしまったよ」
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