二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

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第二部 獣人武闘祭

第312話(アニー視点)

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「本当に、悔しかったですよ。会長も、トレーナーも、私を本気でチャンピオンにする気なんて、なかったんです。私は二人を家族のように思っていましたが、二人にとって私は、ただの金づるでしかなかった。虚しかった、何もかも……」

「…………」

「そして、私はリングに上がりました。チャンピオンは、金で勝ちを買っていることを知っており、余裕の表情です。1ラウンド開始のゴングがなった途端、私はチャンピオンを滅多打ちにしてマットに沈めました。たしか、KOタイムは18秒です。奴の驚いた顔ときたら、痛快でしたよ。くくっ……今でも覚えてるもんですね」

「でも、そんなことしたら……」

「ええ。会長とトレーナーは、ほどなくして組織から報復を受けました。会長は喉を切られて即死。体中の骨という骨を砕かれたトレーナーは、最期をみとった私に『お前のせいだ、クズ女』と呪いの言葉を吐いて、息絶えました」

 惨い話だった。

「私が始末されるのも時間の問題です。でも、後悔はありませんでした。夢にまで見たチャンピオンになったんですから。それでも、いつ殺し屋が来るかと怯える生活はなかなかに厳しいもので、私の精神はすり減っていき、こんなに苦しむなら、いっそ自分で死んでしまおうかと思ったほどです」

「…………」

「しばらくして自殺衝動が収まると、今度は道行く人全てが私の命を狙っているような気がしました。『殺される前に、殺せ、殺せ、殺せ』。そんな声が、頭の中で響いてきて、もうどうしていいかわかりませんでした」

 想像もつかない世界だ。
 私は、つくづく自分が幸福な人間であると痛感した。

「そんなときでした。ふらふらと通りを歩く私を、ボスが殺し屋としてスカウトしたのは。理由は、『すぐにでも人を殺しそうな目をしてたから』だそうです」

 フォルスさんは、己の過去を見るように、控え室の壁を見た。

「その日から、私は殺し屋になりました。そして、現在に至るというわけです。んで、この病気だ。ボスは私の病状を知ると、急に『何かしたいことはねえか』と聞いてきました。私は冗談まじりに言いました。『死ぬまでにもう一度、リングに上がってみたい』って」

「もしかして、それで……」

「ええ、ボスが私の願いをかなえてくれたんです。『どうせなら、一番注目の集まるJ1グランプリに出て見ろ』って。私が、『裏家業の人間が表の大会に出られるはずがない』と言うと、『俺が何とかしてやる』と言ってくれました。……きっと、色々裏で手を回してくれたんでしょうねえ」

「ボスさん、いい人なんですね」

「くくっ、いい人はマフィアなんてやりませんよ。きっと、発狂寸前の私を拾って、殺し屋に仕立て上げた負い目があったから、自分自身にその『落とし前』をつけたかったのでしょう。まあ、それでもボスには感謝していますがね」
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