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第二部 獣人武闘祭
第313話(アニー視点)
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「でも、それなら……」
私は、ここに来た理由を思い出した。
『これ』を尋ねるためだ。
「どうして、あんな試合をしたんですか? もっと、キックボクシングの技を使って、真剣に戦えばよかったじゃないですか。どうして、私に付き合って、あんな……」
フォルスさんは、微笑んだ。
「おいおい、プロレスラーのあんたが『あんな試合』なんて言うなよ。……私は『真剣』だったさ。あんたと同じくらい、『真剣』だった」
「…………」
「ただまあ、最初からああいう試合をするつもりじゃなかったのは、確かだ。というより、あまりにも久しぶりにリングに上がったせいかね。私の心も体も、何をしていいのか、わからなかったんだ。くくっ、あんたに唾を吐きかけた時だって、本当は泣き出しちまいそうだったんだよ」
「どういうことですか……?」
「予選では、私以外に試験通過者がいなかったから、試合なしで本戦に進んだ。それで今日、あのタイトルマッチ以来、本当に久しぶりのリングインだ。煌びやかな照明と大観衆の熱気は、ひたすらにドブの中を生きてきたような私にとっちゃ、眩しすぎた。すっかり、当てられちまって、私はパニックになっちまったんでさ」
「…………」
「どういうわけか、これまでに起こったことが、一気に頭をよぎった。八百長のこと、恋人だったトレーナーが殺されたこと、今度は自分の番だと怯え続けた日々のこと、そして、初めて人を殺した時のこと……恐ろしくて、体が震えて、下手すると、恐怖心から爪をむき出しにして、あんたに襲い掛かっちまいそうだった」
「そ、それは勘弁してほしいですね……」
「だから私は、自分を落ち着かせるために、とりあえずあんたに組み付こうとした。するとあんたは手を出してきて、プロレスで言うところの『手四つ』で私らは組み合った」
私の手に、フォルスさんと組み合ったときの感触がよみがえった。
「その時思ったのさ。何をしていいか分からないのなら、目の前のプロレスラーと、プロレスしてみるのも面白いかもねって。実を言うと私、プロレスも好きだったんだよ。まあ、ガキの頃の話なんで、最近のレスラーはさっぱり知らないけどね」
「それで……」
「ああ。勝敗はどっちでもよかった。今の私の体力じゃ、どうせ一試合が限界だからね。……あんたは、本当に、場を盛り上げ、私にも見せ場を作ってくれた。さすがプロだよ。感心した。互いの力を引き出し合って、客を喜ばせる。あんなこと、普通、できないよ。凄いね。殺すしか能のない私とは、大違いだ」
この人、なんて優しい声を出すんだろう。
そして同時に、寂しい声でもあった。
私は、胸が切なくなった。
「やってるうちに、楽しくなってきて、とっくの昔に忘れたはずの、まっとうなキックボクシングの技も、自然に出た。なんだか、自分が堅気の格闘家に戻ったような気がして、嬉しかった……」
フォルスさんは、夢見るような瞳で、天井を見上げた。
私は、ここに来た理由を思い出した。
『これ』を尋ねるためだ。
「どうして、あんな試合をしたんですか? もっと、キックボクシングの技を使って、真剣に戦えばよかったじゃないですか。どうして、私に付き合って、あんな……」
フォルスさんは、微笑んだ。
「おいおい、プロレスラーのあんたが『あんな試合』なんて言うなよ。……私は『真剣』だったさ。あんたと同じくらい、『真剣』だった」
「…………」
「ただまあ、最初からああいう試合をするつもりじゃなかったのは、確かだ。というより、あまりにも久しぶりにリングに上がったせいかね。私の心も体も、何をしていいのか、わからなかったんだ。くくっ、あんたに唾を吐きかけた時だって、本当は泣き出しちまいそうだったんだよ」
「どういうことですか……?」
「予選では、私以外に試験通過者がいなかったから、試合なしで本戦に進んだ。それで今日、あのタイトルマッチ以来、本当に久しぶりのリングインだ。煌びやかな照明と大観衆の熱気は、ひたすらにドブの中を生きてきたような私にとっちゃ、眩しすぎた。すっかり、当てられちまって、私はパニックになっちまったんでさ」
「…………」
「どういうわけか、これまでに起こったことが、一気に頭をよぎった。八百長のこと、恋人だったトレーナーが殺されたこと、今度は自分の番だと怯え続けた日々のこと、そして、初めて人を殺した時のこと……恐ろしくて、体が震えて、下手すると、恐怖心から爪をむき出しにして、あんたに襲い掛かっちまいそうだった」
「そ、それは勘弁してほしいですね……」
「だから私は、自分を落ち着かせるために、とりあえずあんたに組み付こうとした。するとあんたは手を出してきて、プロレスで言うところの『手四つ』で私らは組み合った」
私の手に、フォルスさんと組み合ったときの感触がよみがえった。
「その時思ったのさ。何をしていいか分からないのなら、目の前のプロレスラーと、プロレスしてみるのも面白いかもねって。実を言うと私、プロレスも好きだったんだよ。まあ、ガキの頃の話なんで、最近のレスラーはさっぱり知らないけどね」
「それで……」
「ああ。勝敗はどっちでもよかった。今の私の体力じゃ、どうせ一試合が限界だからね。……あんたは、本当に、場を盛り上げ、私にも見せ場を作ってくれた。さすがプロだよ。感心した。互いの力を引き出し合って、客を喜ばせる。あんなこと、普通、できないよ。凄いね。殺すしか能のない私とは、大違いだ」
この人、なんて優しい声を出すんだろう。
そして同時に、寂しい声でもあった。
私は、胸が切なくなった。
「やってるうちに、楽しくなってきて、とっくの昔に忘れたはずの、まっとうなキックボクシングの技も、自然に出た。なんだか、自分が堅気の格闘家に戻ったような気がして、嬉しかった……」
フォルスさんは、夢見るような瞳で、天井を見上げた。
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