二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ

文字の大きさ
313 / 389
第二部 獣人武闘祭

第313話(アニー視点)

しおりを挟む
「でも、それなら……」

 私は、ここに来た理由を思い出した。
『これ』を尋ねるためだ。

「どうして、あんな試合をしたんですか? もっと、キックボクシングの技を使って、真剣に戦えばよかったじゃないですか。どうして、私に付き合って、あんな……」

 フォルスさんは、微笑んだ。

「おいおい、プロレスラーのあんたが『あんな試合』なんて言うなよ。……私は『真剣』だったさ。あんたと同じくらい、『真剣』だった」

「…………」

「ただまあ、最初からああいう試合をするつもりじゃなかったのは、確かだ。というより、あまりにも久しぶりにリングに上がったせいかね。私の心も体も、何をしていいのか、わからなかったんだ。くくっ、あんたに唾を吐きかけた時だって、本当は泣き出しちまいそうだったんだよ」

「どういうことですか……?」

「予選では、私以外に試験通過者がいなかったから、試合なしで本戦に進んだ。それで今日、あのタイトルマッチ以来、本当に久しぶりのリングインだ。煌びやかな照明と大観衆の熱気は、ひたすらにドブの中を生きてきたような私にとっちゃ、眩しすぎた。すっかり、当てられちまって、私はパニックになっちまったんでさ」

「…………」

「どういうわけか、これまでに起こったことが、一気に頭をよぎった。八百長のこと、恋人だったトレーナーが殺されたこと、今度は自分の番だと怯え続けた日々のこと、そして、初めて人を殺した時のこと……恐ろしくて、体が震えて、下手すると、恐怖心から爪をむき出しにして、あんたに襲い掛かっちまいそうだった」

「そ、それは勘弁してほしいですね……」

「だから私は、自分を落ち着かせるために、とりあえずあんたに組み付こうとした。するとあんたは手を出してきて、プロレスで言うところの『手四つ』で私らは組み合った」

 私の手に、フォルスさんと組み合ったときの感触がよみがえった。

「その時思ったのさ。何をしていいか分からないのなら、目の前のプロレスラーと、プロレスしてみるのも面白いかもねって。実を言うと私、プロレスも好きだったんだよ。まあ、ガキの頃の話なんで、最近のレスラーはさっぱり知らないけどね」

「それで……」

「ああ。勝敗はどっちでもよかった。今の私の体力じゃ、どうせ一試合が限界だからね。……あんたは、本当に、場を盛り上げ、私にも見せ場を作ってくれた。さすがプロだよ。感心した。互いの力を引き出し合って、客を喜ばせる。あんなこと、普通、できないよ。凄いね。殺すしか能のない私とは、大違いだ」

 この人、なんて優しい声を出すんだろう。
 そして同時に、寂しい声でもあった。
 私は、胸が切なくなった。

「やってるうちに、楽しくなってきて、とっくの昔に忘れたはずの、まっとうなキックボクシングの技も、自然に出た。なんだか、自分が堅気の格闘家に戻ったような気がして、嬉しかった……」

 フォルスさんは、夢見るような瞳で、天井を見上げた。
しおりを挟む
感想 288

あなたにおすすめの小説

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

処理中です...