[完結]入れ替わってしまいました。悪役令嬢にはスマホは必須です。

紅月

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ナルサスサイド 事後処理は速やかに

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ナルサスサイド


「行ってしまったな」

ナルサスが光の消えた場所を見ながら呟いた。
現実とは思えない事ばかりだったが、彼女達のお陰でセシリアは無事に戻って来た。

「父上、我々も最後の仕事をしましょう」

マティウスとシルヴァンがくすり、と黒い笑みを浮かべた。

「そうだな、夕食までは時間がある事だ。シルヴァン殿も宜しいかな?」
「勿論です」

シルヴァンは驚きもせずに頷くとセシリアに王宮での仕事を片付けてくる、とだけ言ってナルサス達とウィンストン家を出た。


王宮の中はざわついていた。
当然だろう。夜陰に紛れての犯行ならまだしもまだ昼間と言ってもおかしくない時間に廃嫡目前の王子が公爵家の令嬢を誘拐してそのすぐ後に逮捕されたのだから。

武官は流石に声を潜めて噂話はしていないが、文官や女官達は声こそ小さいが皆ヒソヒソ噂話に忙しそうだ。
だが、ナルサスがマティウスとシルヴァンを連れ王宮の廊下を歩けば、皆慌てて頭を下げた。

「随分と噂が回るのが早いですね」

シルヴァンが目の端で周りのもの達を見ると

「アマルファ王が決断されたのだろう」

ナルサスは侍従に王への面会を求め、自分の執務室に入った。

ナルサス達は執務室に入るとそれぞれソファに座り、これからの事を考えた。

「マーカス様の王籍剥奪は決定している様だが、その後は不明だな」

ナルサスが口火を切る様に現状を確認すると

「可能性としては王籍剥奪後、王都からの追放でしょうね」

マティウスが一般的な処分を述べる。
何処に追放するかは分からないが、不穏な行動をしたマーカスを王都に留めておくのは危険だ、と多くのもの達が思うだろう。

「もしくは暫く蟄居の上、辺境の地への追放」

ナルサスも高位貴族の処罰の一般的な事を口にした。

「辺境へ追放したとしても、戦いの無い今ではのんびりとした生活になるだけであの方が反省するとは思えません」

シルヴァンが少々辛辣な言葉を交えながらそれでは贖罪にならない、と示した。

「確かにな。では、処罰の件はアマルファ王にお任せしよう」

3人が顔を突き合わせても大した案が出ない為、考える事を放棄した。

暫くしてからアマルファ王が面会を許可した、と侍従が呼びに来た為ナルサス達は王の執務室に向かった。

「陛下」

執務室に入ると王だけで無く、王太子となるアーロンも居た。

「ウィンストン公爵、無事、セシリアが戻ったと聞いた」
「陛下にご心配をおかけしましたが、娘はロードハイド侯爵令息のお陰で傷一つなく戻りました」

ナルサスの言葉にアマルファ王は微苦笑を浮かべる。

「愚息が、と言いたいがアレは息子では無いので」
「承知しております」

2人の会話をマティウス達は黙って見ている。思う事は多々あるがマーカスの出生が事態を複雑にしている。だが、彼の出生など今となっては些細な事。

「それで、陛下はどの様なご決断を?」

ナルサスの問い掛けに王は頷いた。

「あの平民は西の自治領領主と連絡が取れるまで王宮の下働きとして使う」

王の決断にナルサスはなんとも言えない顔をした。

「発言を」

マティウスが手を上げ、王の許可を願い出た。

「此処は当事者ばかりだ。許可を求めずとも発言したまえ」

アマルファ王が直答を許可するとマティウスはいくつかの疑問を問い掛けた。

「では。西の自治領領主とは一体どの様な方なので?」

アマルファ王国にはいくつかの自治領があるが、自治領主の事はよく知られていない。

「西の自治領領主とは、ギースの事だ」

王の言葉にシルヴァンがあー、と言いたげな顔で視線を逸らす。

「シルヴァン卿は知っているのか?」

驚いた様にマティウスがシルヴァンを見ると、シルヴァンは王に視線を向けた後、マティウスに説明を始めた。

「西の自治領は以前は小国で……」

と、話し始めたシルヴァンの話を要約すると、小国であったギースの前王は好色で愚王だった。
それを弟の大公が打ち、疲弊した国を建て直そうとしたが余りにも疲弊し過ぎていた為アマルファ王国に援助を求めてきた。西の国境警備も担うなら自治領として併合するが、と打診され小国の王ではなく自治領領主としてアマルファ王に忠誠を誓った。

「確か、国や民を思うなかなかの人物のはずですが、何か問題でも?」

国政にまだ深く関わっていないマティウスがシルヴァンを見るとシルヴァンは言い辛そうに視線を逸らした。

「領主としては認めているが、趣味がなぁ」

アマルファ王も視線を逸らす。

「……男色家でかなり嗜好が偏っている」

ナルサスも言葉を濁し、アマルファ王を見た。

「お気に入りの愛妾を女装させて鳥籠に軟禁するんだよ、彼は」

1番若いアーロンがサラッと領主の悪癖をばらした。

「あー……」

マティウスが何度か眉間の皺を揉みながら

「好意を持たぬ者に監禁される苦痛を理解できるでしょうね、多分」

と、呟いた。
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