[完結]入れ替わってしまいました。悪役令嬢にはスマホは必須です。

紅月

文字の大きさ
39 / 42

ナルサスサイド 事後処理は速やかに

しおりを挟む
ナルサスサイド


「行ってしまったな」

ナルサスが光の消えた場所を見ながら呟いた。
現実とは思えない事ばかりだったが、彼女達のお陰でセシリアは無事に戻って来た。

「父上、我々も最後の仕事をしましょう」

マティウスとシルヴァンがくすり、と黒い笑みを浮かべた。

「そうだな、夕食までは時間がある事だ。シルヴァン殿も宜しいかな?」
「勿論です」

シルヴァンは驚きもせずに頷くとセシリアに王宮での仕事を片付けてくる、とだけ言ってナルサス達とウィンストン家を出た。


王宮の中はざわついていた。
当然だろう。夜陰に紛れての犯行ならまだしもまだ昼間と言ってもおかしくない時間に廃嫡目前の王子が公爵家の令嬢を誘拐してそのすぐ後に逮捕されたのだから。

武官は流石に声を潜めて噂話はしていないが、文官や女官達は声こそ小さいが皆ヒソヒソ噂話に忙しそうだ。
だが、ナルサスがマティウスとシルヴァンを連れ王宮の廊下を歩けば、皆慌てて頭を下げた。

「随分と噂が回るのが早いですね」

シルヴァンが目の端で周りのもの達を見ると

「アマルファ王が決断されたのだろう」

ナルサスは侍従に王への面会を求め、自分の執務室に入った。

ナルサス達は執務室に入るとそれぞれソファに座り、これからの事を考えた。

「マーカス様の王籍剥奪は決定している様だが、その後は不明だな」

ナルサスが口火を切る様に現状を確認すると

「可能性としては王籍剥奪後、王都からの追放でしょうね」

マティウスが一般的な処分を述べる。
何処に追放するかは分からないが、不穏な行動をしたマーカスを王都に留めておくのは危険だ、と多くのもの達が思うだろう。

「もしくは暫く蟄居の上、辺境の地への追放」

ナルサスも高位貴族の処罰の一般的な事を口にした。

「辺境へ追放したとしても、戦いの無い今ではのんびりとした生活になるだけであの方が反省するとは思えません」

シルヴァンが少々辛辣な言葉を交えながらそれでは贖罪にならない、と示した。

「確かにな。では、処罰の件はアマルファ王にお任せしよう」

3人が顔を突き合わせても大した案が出ない為、考える事を放棄した。

暫くしてからアマルファ王が面会を許可した、と侍従が呼びに来た為ナルサス達は王の執務室に向かった。

「陛下」

執務室に入ると王だけで無く、王太子となるアーロンも居た。

「ウィンストン公爵、無事、セシリアが戻ったと聞いた」
「陛下にご心配をおかけしましたが、娘はロードハイド侯爵令息のお陰で傷一つなく戻りました」

ナルサスの言葉にアマルファ王は微苦笑を浮かべる。

「愚息が、と言いたいがアレは息子では無いので」
「承知しております」

2人の会話をマティウス達は黙って見ている。思う事は多々あるがマーカスの出生が事態を複雑にしている。だが、彼の出生など今となっては些細な事。

「それで、陛下はどの様なご決断を?」

ナルサスの問い掛けに王は頷いた。

「あの平民は西の自治領領主と連絡が取れるまで王宮の下働きとして使う」

王の決断にナルサスはなんとも言えない顔をした。

「発言を」

マティウスが手を上げ、王の許可を願い出た。

「此処は当事者ばかりだ。許可を求めずとも発言したまえ」

アマルファ王が直答を許可するとマティウスはいくつかの疑問を問い掛けた。

「では。西の自治領領主とは一体どの様な方なので?」

アマルファ王国にはいくつかの自治領があるが、自治領主の事はよく知られていない。

「西の自治領領主とは、ギースの事だ」

王の言葉にシルヴァンがあー、と言いたげな顔で視線を逸らす。

「シルヴァン卿は知っているのか?」

驚いた様にマティウスがシルヴァンを見ると、シルヴァンは王に視線を向けた後、マティウスに説明を始めた。

「西の自治領は以前は小国で……」

と、話し始めたシルヴァンの話を要約すると、小国であったギースの前王は好色で愚王だった。
それを弟の大公が打ち、疲弊した国を建て直そうとしたが余りにも疲弊し過ぎていた為アマルファ王国に援助を求めてきた。西の国境警備も担うなら自治領として併合するが、と打診され小国の王ではなく自治領領主としてアマルファ王に忠誠を誓った。

「確か、国や民を思うなかなかの人物のはずですが、何か問題でも?」

国政にまだ深く関わっていないマティウスがシルヴァンを見るとシルヴァンは言い辛そうに視線を逸らした。

「領主としては認めているが、趣味がなぁ」

アマルファ王も視線を逸らす。

「……男色家でかなり嗜好が偏っている」

ナルサスも言葉を濁し、アマルファ王を見た。

「お気に入りの愛妾を女装させて鳥籠に軟禁するんだよ、彼は」

1番若いアーロンがサラッと領主の悪癖をばらした。

「あー……」

マティウスが何度か眉間の皺を揉みながら

「好意を持たぬ者に監禁される苦痛を理解できるでしょうね、多分」

と、呟いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢エルカミーノの、神級魔法覚醒と溺愛逆ハーレム生活

ふわふわ
恋愛
公爵令嬢エルカミーノ・ヴァレンティーナは、王太子フィオリーノとの婚約を心から大切にし、完璧な王太子妃候補として日々を過ごしていた。 しかし、学園卒業パーティーの夜、突然の公開婚約破棄。 「転入生の聖女リヴォルタこそが真実の愛だ。お前は冷たい悪役令嬢だ」との言葉とともに、周囲の貴族たちも一斉に彼女を嘲笑う。 傷心と絶望の淵で、エルカミーノは自身の体内に眠っていた「神級の古代魔法」が覚醒するのを悟る。 封印されていた万能の力――治癒、攻撃、予知、魅了耐性すべてが神の領域に達するチート能力が、ついに解放された。 さらに、婚約破棄の余波で明らかになる衝撃の事実。 リヴォルタの「聖女の力」は偽物だった。 エルカミーノの領地は異常な豊作を迎え、王国の経済を支えるまでに。 フィオリーノとリヴォルタは、次々と失脚の淵へ追い込まれていく――。 一方、覚醒したエルカミーノの周りには、運命の攻略対象たちが次々と集結する。 - 幼馴染の冷徹騎士団長キャブオール(ヤンデレ溺愛) - 金髪強引隣国王子クーガ(ワイルド溺愛) - 黒髪ミステリアス魔導士グランタ(知性溺愛) - もふもふ獣人族王子コバルト(忠犬溺愛) 最初は「静かにスローライフを」と願っていたエルカミーノだったが、四人の熱烈な愛と守護に囲まれ、いつしか彼女自身も彼らを深く愛するようになる。 経済的・社会的・魔法的な「ざまぁ」を経て、 エルカミーノは新女王として即位。 異世界ルールで認められた複数婚姻により、四人と結ばれ、 愛に満ちた子宝にも恵まれる。 婚約破棄された悪役令嬢が、最強チート能力と四人の溺愛夫たちを得て、 王国を繁栄させながら永遠の幸せを手に入れる―― 爽快ざまぁ&極甘逆ハーレム・ファンタジー、完結!

【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com
恋愛
 完結しました。 説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。  気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。  原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。  えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!  腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!  私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!  眼鏡は顔の一部です! ※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。 基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。 途中まで恋愛タグは迷子です。

婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。

aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……

「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。 「あなたこそが聖女です」 「あなたは俺の領地で保護します」 「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」 こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。 やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

処理中です...