[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。

紅月

文字の大きさ
37 / 114

社交界にデビューしなきゃ駄目ですか?

しおりを挟む
「すまないベル。参謀殿が居ないと全てに対応する事になって少し疲れていたようだ」

学園の生徒副会長をしているのに、王太子として王家の仕事もこなせば疲れが溜まっていてもおかしくない。

しかし、やたら美形に育ったもんだ、とシルヴィーは感心していた。

背はスラリと高いが、鍛えているからもやしっ子では無い。
緑の髪は煌めく宝石を糸にしたような輝きで、成人を迎えた頃から赤味を帯びてきた紫色の瞳は濡れたように澄んでいながら、色気が溢れている。

見た目は一級品だと言うのに、腹の中は呆れるほど真っ黒だ。

さり気なく視線を外し、困ったような口調でため息混じりに問い掛けた。

「やはり春の舞踏会でデビューしないと拙いのですか?」

シルヴィーは出来れば何処かの貴族の夜会でサラッとデビューしたかったが、王家と父親はそれを許してくれなかった。

「無理よ。シルヴィーのデビューを皆様、心待ちにしているのですもの」

煌めく青緑色の極上の宝石が、そのまま人になったような美少女が、うっとりとした顔でシルヴィーを見詰める。

「それに何処かの貴族の夜会でなんてことしたらそこの家、とんでもない目に遭うぞ」

確かに、主催者が軽い夜会のつもりで開いた場所に王族や王宮の重鎮がごっそり来たら、当主の胃は壊れるかもしれない。

それに周りが見れない頭の軽い貴族なら、自分が王家や重鎮に重要視されている、と誤解するかもしれない。

「父上もそこは考えたらしく、君のデビューの舞踏会を仮面舞踏会にする事にした」

王家としても、他のデビューをする子供達が社交会に顔を売る機会を潰すかもしれないが、シルヴィーに群がる男どもの、厄介な対処が減る方が大切だ。

「予め影武者を用意しておけばデビューは乗り切れますね」
「私達が親しげにしなければ、シルヴィーの噂だけを知っている方達はそちらに行くもの」

イザベルも随分と強かになったものだ、と思うが既に王太子の婚約者で、いずれ王妃になるのだから必要な強さかもしれない。

アレキサンド王国では年に何回か大きな舞踏会が開催される。社交会デビューをする子供達はそこでのデビューを願っているが、家柄が問題で出来ない子供も居る。

新年と春は特に大きな舞踏会の為、伯爵家以上の爵位を持たなければこの舞踏会に出ることも出来ない。
そう。男爵令嬢のヒロインはこの舞踏会に参加出来ない。

「デビューしてしまえば、後は入学を待つだけですね」

ゲームでは春の花盛りの頃に入学だが、この世界の殆どは日本と違い、夏の終わりに入学する。

ゲームの世界、なんて言ってられないことを此処で理解してくれれば良いのだが、どうやらカーボン男爵令嬢は現実を直視出来ないタイプのようだ。

「そう言えばエスコートは誰に頼むの?」
「お父様です」
「無難だな。エイン辺りだとジェフリー達が煩そうだ」

学園ではジェフリーとルーファスはウィリアムの側近候補としてウィリアムの側に居る筈だ。

「パトリック殿下は……相変わらずジルコニア伯爵の次女に纏わり付かれているの?」

学園にいる、もう1人の王子の顔を思い出しながら、今、彼に起こっている厄介事を口にした。

「あっちも必死だろな。あの女がパトリックの婚約者にならなきゃその後の計画は頓挫するから」

そちらも潰した方がいいのか、と思いつつ誰が適任か模索した。

「……確か、バロスのシンシア王女殿下も在学中でしたね」
「ああ。4年前の計画が王家に知られている事で肩身が狭そうだ」
「本人はとても聡明な方なのに……」

シンシア王女殿下を知っているイザベルが、残念そうな顔でため息を吐いた。

「バロス王は愚かですが、シンシア王女殿下なら良き王になるかも知れませんね」
「ラリマーが好きそうな案件だな」
「もう、すぐに硬い話にする」

ウィリアムとシルヴィーがクスッと笑うが、イザベルはプーっと頬を膨らませた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...