59 / 114
制服を着た子はとんでも無い実力者です。
しおりを挟む
「リリー先輩、何をすれば良いんですか?」
3人の騎士の1人が面倒くさそうに声をかけてきたので、リリーはニヤッと笑う。
「まずは先輩達の様子を見てからだ。シルヴィー様、宜しいですか?」
「訓練用の剣を貸して。さすがにこの剣は使いたくないから」
シルヴィーが持っていたレイピアをエインに預け、訓練用の刃を潰した剣を持って、訓練場の真ん中に立った。
古参の騎士達が期待にソワソワしながら名前を呼ばれるのを待つ姿を、若い騎士達はしらけた顔で見ていた。
あんな学園の制服を着た子供に何が出来るんだ、とでも思っているんだろう。
最初の騎士が呼ばれ、シルヴィーの前に立った。
騎士が予備動作もなく切り掛かったのに、シルヴィーはまるで気にもしない。
数回、剣を合わせたが、
「腕は鈍ってないね」
と、頷き次の騎士に目を向ける。
次の騎士も数回剣を合わせるだけで、シルヴィーは一歩も動かない。
それなのに騎士達は息が切れ、肩で息をするものまでいた。
「次は貴方です」
若い3人の騎士の、赤い髪をした者にリリーが声を掛け、目で行けと合図した。
「はじめまして、かな?」
「はい。私は……」
「名前はいいよ。覚え切れないから」
シルヴィーの素っ気ない態度に赤い髪をした騎士はムッとした様に口をピクピクさせていたが、シルヴィーが剣を構えた途端、どっと冷や汗が出た。
何気ない仕草。
気合いなどまるで入っていない立ち姿。
それなのに体を押し潰すような気配に、若い騎士は動けなくなっていた。
「もういい、下がれ」
リリーに声を掛けられ、赤い髪の騎士はギクシャクした動きで訓練場の外に出た。
残りの2人、黄色の髪をした騎士と青い髪をした騎士もシルヴィーの前に立った途端、一歩も動けなくなった。
「……やっぱりね。で、動けなかった理由、解るか?」
リリーの問いに3人は首を横に振る。
「本能が拒否するんだよ。一歩でも動けば瞬殺されるって」
実際、シルヴィーと剣を打ち合わせられたのは、騎士団でも指折りの騎士達だ。
「でも、筋は悪く無いよ。ちゃんと鍛錬を積めばその子達、喜んで刀身に名前を刻むと思うよ」
リリーの言葉に青くなった3人に、抜き打ち試験を終えたシルヴィーが声をかける。
「で、君達にイーリスを渡したのは誰?」
リリーが面倒臭そうに3人を見た。
「学園の騎士科の、主任教師のフェーイック先生です」
チラッ、とリリーの蜂蜜色の瞳がシルヴィーを見る。
シルヴィーは騎士科の授業はまだ座学しか受けていないから顔も知らないが、騎士科の授業を取っていなくても、ウィリアム辺りなら知っているだろう。
「その人が何を言ったか知らないけど、今の君達の実力では、イーリスの所有者として認めない」
リリーでは無く、エインが騎士団としての結論を下した。
当然の結果だ。
シルヴィーを前にして、一歩も動けないものがイーリスを持つなど、有り得ない事だ。
「リリーみたいに地味な基礎訓練をきちっと積めば、今すぐは無理でも、ちゃんと剣受式の試験に合格できる素質はあるよ」
シルヴィーの言葉に項垂れていた3人が、ガバッと顔を上げる。
「努力します」
上げたばかりなのに、3人同時に頭を下げた。
赤、黄、青の丸い頭が前世でよく見ていた物とダブる。
「そう言えば、まだ名前、聞いてなかったね」
これだけ話をして、名前を聞かないのは失礼だろう、とさっきは拒否した自己紹介を促した。
「はい。私はシンジャリファンス」
赤い髪の騎士が名乗る。
「僕はゴーリャネハランです」
黄色の髪の騎士が続き
「僕はキーマリャスュレンです」
青い髪の騎士の名前は最難関だ。
シルヴィーの目が点になる。カンペがあっても一回では発音できず、すぐには覚えられないだろう3人の名前。
リリーだけで無く、エインとゼオンも困った顔をしている所を見ると、彼らが騎士団に打ち解けられない理由もなんとなく理解できる。
「シン、ゴー、キー。頭文字で呼ぶと、楽しい響きになるね」
シルヴィーも前世の記憶の所為で、さっき浮かんだものの名前を口にした。
「確かに。シン、ゴー、キー。覚えやすいし呼びやすいな」
ゼオンが頷いているし、リリーは秘書の様に、何かを書類に書き込んでいる。
「やはり呼びづらいし、覚えにくいですよね。親も訳して呼びますから……」
彼らも気にしていたのか、心なしか項垂れている。
「貴方達がいい、と言ったら騎士団では此方を登録名にしますが?」
「はい。折角シルヴィー様に付けていただいた名前。他の先輩達にも呼んで貰いたいです」
赤い髪のシンが、ぶんぶん音がしそうな勢いで首を縦に振る。
ゴーとキーも一緒に頷くと、シルヴィーの目には何故か点滅する信号機に見えた。
「では、シン、ゴー、キー。訓練に戻りなさい。後、他の団員に登録名変更を報告する事」
「はい。失礼します」
ピシッと3人が揃って頭を下げた。
妙な愛称を付けたことに、笑うところか謝るところか分からないが、孤立しかかっていた彼らが騎士団に馴染むのも直ぐだろう。
3人の騎士の1人が面倒くさそうに声をかけてきたので、リリーはニヤッと笑う。
「まずは先輩達の様子を見てからだ。シルヴィー様、宜しいですか?」
「訓練用の剣を貸して。さすがにこの剣は使いたくないから」
シルヴィーが持っていたレイピアをエインに預け、訓練用の刃を潰した剣を持って、訓練場の真ん中に立った。
古参の騎士達が期待にソワソワしながら名前を呼ばれるのを待つ姿を、若い騎士達はしらけた顔で見ていた。
あんな学園の制服を着た子供に何が出来るんだ、とでも思っているんだろう。
最初の騎士が呼ばれ、シルヴィーの前に立った。
騎士が予備動作もなく切り掛かったのに、シルヴィーはまるで気にもしない。
数回、剣を合わせたが、
「腕は鈍ってないね」
と、頷き次の騎士に目を向ける。
次の騎士も数回剣を合わせるだけで、シルヴィーは一歩も動かない。
それなのに騎士達は息が切れ、肩で息をするものまでいた。
「次は貴方です」
若い3人の騎士の、赤い髪をした者にリリーが声を掛け、目で行けと合図した。
「はじめまして、かな?」
「はい。私は……」
「名前はいいよ。覚え切れないから」
シルヴィーの素っ気ない態度に赤い髪をした騎士はムッとした様に口をピクピクさせていたが、シルヴィーが剣を構えた途端、どっと冷や汗が出た。
何気ない仕草。
気合いなどまるで入っていない立ち姿。
それなのに体を押し潰すような気配に、若い騎士は動けなくなっていた。
「もういい、下がれ」
リリーに声を掛けられ、赤い髪の騎士はギクシャクした動きで訓練場の外に出た。
残りの2人、黄色の髪をした騎士と青い髪をした騎士もシルヴィーの前に立った途端、一歩も動けなくなった。
「……やっぱりね。で、動けなかった理由、解るか?」
リリーの問いに3人は首を横に振る。
「本能が拒否するんだよ。一歩でも動けば瞬殺されるって」
実際、シルヴィーと剣を打ち合わせられたのは、騎士団でも指折りの騎士達だ。
「でも、筋は悪く無いよ。ちゃんと鍛錬を積めばその子達、喜んで刀身に名前を刻むと思うよ」
リリーの言葉に青くなった3人に、抜き打ち試験を終えたシルヴィーが声をかける。
「で、君達にイーリスを渡したのは誰?」
リリーが面倒臭そうに3人を見た。
「学園の騎士科の、主任教師のフェーイック先生です」
チラッ、とリリーの蜂蜜色の瞳がシルヴィーを見る。
シルヴィーは騎士科の授業はまだ座学しか受けていないから顔も知らないが、騎士科の授業を取っていなくても、ウィリアム辺りなら知っているだろう。
「その人が何を言ったか知らないけど、今の君達の実力では、イーリスの所有者として認めない」
リリーでは無く、エインが騎士団としての結論を下した。
当然の結果だ。
シルヴィーを前にして、一歩も動けないものがイーリスを持つなど、有り得ない事だ。
「リリーみたいに地味な基礎訓練をきちっと積めば、今すぐは無理でも、ちゃんと剣受式の試験に合格できる素質はあるよ」
シルヴィーの言葉に項垂れていた3人が、ガバッと顔を上げる。
「努力します」
上げたばかりなのに、3人同時に頭を下げた。
赤、黄、青の丸い頭が前世でよく見ていた物とダブる。
「そう言えば、まだ名前、聞いてなかったね」
これだけ話をして、名前を聞かないのは失礼だろう、とさっきは拒否した自己紹介を促した。
「はい。私はシンジャリファンス」
赤い髪の騎士が名乗る。
「僕はゴーリャネハランです」
黄色の髪の騎士が続き
「僕はキーマリャスュレンです」
青い髪の騎士の名前は最難関だ。
シルヴィーの目が点になる。カンペがあっても一回では発音できず、すぐには覚えられないだろう3人の名前。
リリーだけで無く、エインとゼオンも困った顔をしている所を見ると、彼らが騎士団に打ち解けられない理由もなんとなく理解できる。
「シン、ゴー、キー。頭文字で呼ぶと、楽しい響きになるね」
シルヴィーも前世の記憶の所為で、さっき浮かんだものの名前を口にした。
「確かに。シン、ゴー、キー。覚えやすいし呼びやすいな」
ゼオンが頷いているし、リリーは秘書の様に、何かを書類に書き込んでいる。
「やはり呼びづらいし、覚えにくいですよね。親も訳して呼びますから……」
彼らも気にしていたのか、心なしか項垂れている。
「貴方達がいい、と言ったら騎士団では此方を登録名にしますが?」
「はい。折角シルヴィー様に付けていただいた名前。他の先輩達にも呼んで貰いたいです」
赤い髪のシンが、ぶんぶん音がしそうな勢いで首を縦に振る。
ゴーとキーも一緒に頷くと、シルヴィーの目には何故か点滅する信号機に見えた。
「では、シン、ゴー、キー。訓練に戻りなさい。後、他の団員に登録名変更を報告する事」
「はい。失礼します」
ピシッと3人が揃って頭を下げた。
妙な愛称を付けたことに、笑うところか謝るところか分からないが、孤立しかかっていた彼らが騎士団に馴染むのも直ぐだろう。
106
あなたにおすすめの小説
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる