74 / 114
では、大掃除を始めましょう。
しおりを挟む
「シルヴィー、あの魔法陣のアイデアって何処から持ってきた?」
生徒会室に戻る道すがら、ウィリアムが聞きたかった事を質問する。
「化学式の応用です」
「化学式の応用?」
「全ての物質は、立体パズルのように組み立てられた形があります。それの応用と後は展開図ですかね?」
「……君が理系だって事は分かった」
「元弁護士の人間が理系な訳無いでしょ」
シルヴィーの頭の中が、どうなっているか知りたくなった。
「文系の人間が、化学式の応用なんて思い付かないと思うが」
「高校の化学の先生が、良かったので覚えていただけです」
ようは、脳みその出来が違うだけだ。
さて、生徒会への扉を開けようとした時
「殿下、右へ一歩」
シルヴィーの指示になんの事だ?と思いながら、ウィリアムは右に一歩ずれた。
ドスドスドス、とまるで巨大な猪が2人の間を走り抜ける様な音がして、ウィリアムが音のした方を見た。
「シルヴィー、俺の目の錯覚か?今、制服を着たピンクの猪が走ってたぞ」
「殿下の発想力が逞しいのは解りましたが、あれはカーボン男爵令嬢です。余談ですが、私はピンクの雪だるまに見えました」
「えっ!」
思わず二度見するほど驚いたのか、ウィリアムはピンク色の何かが走り抜けて行った方を繁々と見ている。
「何やってんだ?」
「強引に、出会いイベントを起こそうとしているのではないかと……」
シルヴィーも困惑しているのか、眉間に指を当て、首を捻っている。
「誰との出会いイベント?」
「廊下でのイベントは、カインだった気がします」
「……なんで、俺?」
「手当たり次第、ですかね?理解できませんが」
ゲーム内容では、後1ヶ月くらいで冬の試験があり、その後休みに入る。
クリスマスっぽいイベントの後、新年の舞踏会でのイベントが前半のクライマックスになっている。
だが、お花畑さんは入学からほとんどの時間を謹慎牢で過ごした為、イベントは何も起こせていない。
イザベルにイジメられた、足を掛けられたと廊下で良く転んでいたが、5歩も離れた場所に転がる雪だるまに足を掛けるほどイザベルの足は長くないし、太くもない。ようは、誰のフラグを立てられず、イジメイベントも不発ばかりでヒロインざまぁエンドへまっしぐらな状態だ。
ゲームならば、絶望的な状態だが、現実では堅実に生きればなんの問題もない。
この状況で分かった事は、あのお花畑さんは現実を直視出来ない、残念な存在だという事だ。
「あいつ、学園から追い出していいか?」
「妥当ですね。これから本格的にラスティックの封じ込めをするのに邪魔ですから」
「あいつを追い出しても、君は俺の参謀を辞めないってこと?」
「辞めて欲しいですか?」
「冗談でも言わない」
ウィリアムが首をブンブン、取れそうなほど横に振る。
「辞めませんよ」
「なら、遠慮なく作戦を立てるか」
「何方から?」
「当然。同時進行で、だ」
策士の顔で笑うウィリアムをシルヴィーは呆れた、と言いたげなため息で受け流す。
生徒会室に繋がる魔法の鍵をガチャっと回し、扉を開けて中に居る仲間達へウィリアムが晴れやかに宣言した。
「諸君。学園内の掃除を始めよう」
なんの事だ、とパトリック達は目を丸くしたが、策士の顔で笑うウィリアムに、ジェフリーが頷いた。
「やっと、あいつを学園から追い出すのですね」
「ああ、ついでにラスティックの封じ込めも同時進行で行う」
ウィリアムの宣言に、生徒会室にいる者達は、なんともいい笑顔で応える。
「やる気を出して下さってますが、お花畑さんの方はさほど手間はないので、もう一つの方に集中して下さい」
ウィリアムの背後から、まるで水を指すようにシルヴィーが口を開いた。
「手間は少ないだろうが、きっちり追い出したい」
気持ちは理解できるが、少々手遅れなのだ。
「ナタリア先生が学園長に就任された時、既に手配してます」
えっ?と全員が驚きの顔でシルヴィーを見た。
「元々、あのお花畑さんは入学出来るだけの学力がない上、学園への多額の寄付は全額、前学園長が横領していました」
シルヴィーの言葉にシーンと言う音がしそうな程、静まり返った部屋。
「それって……」
「不正入学です。もっとも、あのお花畑さんは自分の力で入った、と思っている様ですが」
イザベルは目を丸くして驚いている。
「自分の力で、と言っても試験で……」
ジェフリーが困惑した顔で言葉を濁す。
「学力より、自分が持つ光属性の魔力が貴重だから、大丈夫だと誤解していたのでしょう」
流石にゲームの設定ではそうでした、とは言えないので、当たり障りのない理由を言った。
「だからクラス分けの掲示板の前で、あれ程騒いでいたのか」
納得したパトリックとシンシアが頷いている。
「ナタリア先生は、あいつをどうするつもりだ?」
不正を嫌うルーファスのこめかみが、ピクピクしているのが見える。
「来月の試験で在学の基準を満たさない者として、退学を宣告するつもりだと思います」
詳しくは聞いていないが、退学させるつもりでも、筋を通す方が厄介な問題が少ない筈だ。
生徒会室に戻る道すがら、ウィリアムが聞きたかった事を質問する。
「化学式の応用です」
「化学式の応用?」
「全ての物質は、立体パズルのように組み立てられた形があります。それの応用と後は展開図ですかね?」
「……君が理系だって事は分かった」
「元弁護士の人間が理系な訳無いでしょ」
シルヴィーの頭の中が、どうなっているか知りたくなった。
「文系の人間が、化学式の応用なんて思い付かないと思うが」
「高校の化学の先生が、良かったので覚えていただけです」
ようは、脳みその出来が違うだけだ。
さて、生徒会への扉を開けようとした時
「殿下、右へ一歩」
シルヴィーの指示になんの事だ?と思いながら、ウィリアムは右に一歩ずれた。
ドスドスドス、とまるで巨大な猪が2人の間を走り抜ける様な音がして、ウィリアムが音のした方を見た。
「シルヴィー、俺の目の錯覚か?今、制服を着たピンクの猪が走ってたぞ」
「殿下の発想力が逞しいのは解りましたが、あれはカーボン男爵令嬢です。余談ですが、私はピンクの雪だるまに見えました」
「えっ!」
思わず二度見するほど驚いたのか、ウィリアムはピンク色の何かが走り抜けて行った方を繁々と見ている。
「何やってんだ?」
「強引に、出会いイベントを起こそうとしているのではないかと……」
シルヴィーも困惑しているのか、眉間に指を当て、首を捻っている。
「誰との出会いイベント?」
「廊下でのイベントは、カインだった気がします」
「……なんで、俺?」
「手当たり次第、ですかね?理解できませんが」
ゲーム内容では、後1ヶ月くらいで冬の試験があり、その後休みに入る。
クリスマスっぽいイベントの後、新年の舞踏会でのイベントが前半のクライマックスになっている。
だが、お花畑さんは入学からほとんどの時間を謹慎牢で過ごした為、イベントは何も起こせていない。
イザベルにイジメられた、足を掛けられたと廊下で良く転んでいたが、5歩も離れた場所に転がる雪だるまに足を掛けるほどイザベルの足は長くないし、太くもない。ようは、誰のフラグを立てられず、イジメイベントも不発ばかりでヒロインざまぁエンドへまっしぐらな状態だ。
ゲームならば、絶望的な状態だが、現実では堅実に生きればなんの問題もない。
この状況で分かった事は、あのお花畑さんは現実を直視出来ない、残念な存在だという事だ。
「あいつ、学園から追い出していいか?」
「妥当ですね。これから本格的にラスティックの封じ込めをするのに邪魔ですから」
「あいつを追い出しても、君は俺の参謀を辞めないってこと?」
「辞めて欲しいですか?」
「冗談でも言わない」
ウィリアムが首をブンブン、取れそうなほど横に振る。
「辞めませんよ」
「なら、遠慮なく作戦を立てるか」
「何方から?」
「当然。同時進行で、だ」
策士の顔で笑うウィリアムをシルヴィーは呆れた、と言いたげなため息で受け流す。
生徒会室に繋がる魔法の鍵をガチャっと回し、扉を開けて中に居る仲間達へウィリアムが晴れやかに宣言した。
「諸君。学園内の掃除を始めよう」
なんの事だ、とパトリック達は目を丸くしたが、策士の顔で笑うウィリアムに、ジェフリーが頷いた。
「やっと、あいつを学園から追い出すのですね」
「ああ、ついでにラスティックの封じ込めも同時進行で行う」
ウィリアムの宣言に、生徒会室にいる者達は、なんともいい笑顔で応える。
「やる気を出して下さってますが、お花畑さんの方はさほど手間はないので、もう一つの方に集中して下さい」
ウィリアムの背後から、まるで水を指すようにシルヴィーが口を開いた。
「手間は少ないだろうが、きっちり追い出したい」
気持ちは理解できるが、少々手遅れなのだ。
「ナタリア先生が学園長に就任された時、既に手配してます」
えっ?と全員が驚きの顔でシルヴィーを見た。
「元々、あのお花畑さんは入学出来るだけの学力がない上、学園への多額の寄付は全額、前学園長が横領していました」
シルヴィーの言葉にシーンと言う音がしそうな程、静まり返った部屋。
「それって……」
「不正入学です。もっとも、あのお花畑さんは自分の力で入った、と思っている様ですが」
イザベルは目を丸くして驚いている。
「自分の力で、と言っても試験で……」
ジェフリーが困惑した顔で言葉を濁す。
「学力より、自分が持つ光属性の魔力が貴重だから、大丈夫だと誤解していたのでしょう」
流石にゲームの設定ではそうでした、とは言えないので、当たり障りのない理由を言った。
「だからクラス分けの掲示板の前で、あれ程騒いでいたのか」
納得したパトリックとシンシアが頷いている。
「ナタリア先生は、あいつをどうするつもりだ?」
不正を嫌うルーファスのこめかみが、ピクピクしているのが見える。
「来月の試験で在学の基準を満たさない者として、退学を宣告するつもりだと思います」
詳しくは聞いていないが、退学させるつもりでも、筋を通す方が厄介な問題が少ない筈だ。
104
あなたにおすすめの小説
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる