[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。

紅月

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破格の取り引き。

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「こんな事で、本当にいいのか?」

黒づくめの男達の1人が、白銀の髪をした青年に声を掛けた。
近くでは、転移魔法陣を描くユーノ達の姿も見えた。

「はい。この厄介者は好きにして良い。たとえば、ラスティック王の慰み者になったとしても、この国に二度と戻らなければ気にしない」

彼は、感情の無い淡々とした言葉を口にする。

「コイツは、いったい……聞く必要はないか。コイツを国から、いや離宮から出さなければ我らの主君が……」

足元に転がる巨体を、男は興味が失せた目で見てから、もう一度白銀の髪をした青年の方に顔を向けた。

「後はお前達の主君が愚か者でない事を証明すれば、此方はこれ以上何もしない」
「感謝する。国王と王太子を糾弾し、幽閉できる証拠が有る今こそ、我らの主君の悲願が達成できる」
「行け。事は一刻を争うんだろ」

転移魔法陣を描き終わったユーノが、急かすように顎で魔法陣を指す。

「……ハザック殿はしばらく借りるが」
「軌道に乗れば、彼なら見極めて戻ってくる」

影のように青年の後ろに立っているハザックをユーノがチラッと見た。

「そうか。貴殿の名は聞かない。だが、感謝はさせてくれ。あの時、貴殿から取り引きを持ち掛けてくれなければ、我らと主君は国に戻れなかった」

アレキサンド王国のクリスタル子爵。

その名を聞くだけで、他国の王族達は震え上がる程の諜報部の総領。
探れないものはなく、暗殺できないものも居ない。
最強の存在。

そんな彼から取り引きを持ちかけられた。
あの悲惨な状況であっても、それは救いでしかない。


破落戸達がルーミアの計画を全部バラすのに、それなりの人間が死んだ。
血を吐き、身体中が切り刻まれた憐れな骸を見ながら、黒づくめの男達も覚悟を決めた。

「ラスティック国の諜報部員と見るが、間違いないか?」

ハロルド、と呼ばれた青年が、黒づくめの男達を見る。
さっきまでいた、赤紫の髪をした華奢な騎士と同じ髪をしているのに、ハロルドの存在感は薄い。

意図的に気配を消し、相手の視界に入りながらそこに居る気配を感じさせない。
諜報部員としての格の違いを見せ付けられているのだ。

「そうです」

覆面を外しながら、国に戻れないだろう、そんな諦めにも似た感情が脳裏をよぎる。

「では、取り引きをしないか?」

突然の申し出に、一瞬頭が追い付かない。

「取り引き?」
「そう。悪い話じゃないと思う」

ハロルドから持ち掛けられた取り引きは、これ以上ない程、有難いものだった。

「リサーク殿下はラスティックの新国王として即位していただく。もっとも、その首にはこちらが握る縄が付くが、どうだ?」
「願ってもない事です。何故、それ程までに主君に好待遇を」

ハロルドの提案に、黒づくめの男は疑問を持った。

「嫌なら断り、此処で死ね」
「ち、違います。今提案して頂いた事は、我らばかりに利があるので……」

必死に首を振り、アレキサンド王国の得にならないのでは、と訴えた。

「利はあるよ。邪魔な存在をそっちで引き取ってもらうから」

ハロルドの話を聞いても、男は直ぐに理解できなかった。
だが、断るなんて有り得ない厚遇。

「その取り引き、受けさせて下さい」

破滅へと転がりそうな祖国を憂い、我欲を剥き出しにしている王と王太子を糾弾しようとしているリサーク殿下。

この取り引きを受ければ、アレキサンド王国に首を押さえ付けられるが、祖国を救える。
男は頷き、1番後ろに立つ者に目を向けた。
後ろにいた男が、ゆっくりと覆面を外す。

「私からも頼む」
「初めてお目に掛かります。ラスティック国の第二王子、リサーク殿下。私は、ラリマー宰相の部下、ハロルド・ガーネット子爵と申します」

優雅に挨拶をするハロルドを、リサークはしっかりと見詰めた。
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