[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。

紅月

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ジルコニア家の断罪。

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この舞踏会でデビューする令嬢令息達は親と共に陛下への挨拶の為、名前を呼ばれるのを待っている。

シルヴィーは前回の舞踏会で既にデビューしているから待つ必要はないが、ジルコン公爵様の思惑に加担している為、アーネストと共にジルコン公爵家の側に居た。

「ジルコン公爵閣下」

案内の係のものが、ジルコン公爵に声を掛ける。
公爵だけで無く、リーリウムやカノコ達も頷き、陛下の前に移動した。

「久しいなユーリファス」
「ご無沙汰しております」

無難な挨拶を交わし、ジルコン公爵が満面の笑みでリーリウム達を陛下に引き合わせた。

「武者修行で20年も家を出ていた息子が戻り、新しい家族が増えました」

美辞麗句もなく、直球勝負の様に聞こえるが、今の一言でジルコニア伯爵は立場を失った。

歓談で少し賑やかになっていた会場が、一瞬にして静まり返る。
ジルコニア伯爵は、社交会でかなりの権勢を振り回していたが、全てジルコン公爵の後ろ盾が有ってのもの。
いずれはジルコン公爵の名を継ぐものとして見られていたが、その夢はたった今、泡の様に弾け飛んだ。

「リーリウムか、久しいな」
「陛下もご健勝で」

偽物を立てた、と騒ぐ事も陛下の一言で潰された。
陛下と顔見知りであるリーリウムの事を誰が偽物だ、と言い掛かりを付けられるものか。

「陛下、我が妻の姪になったシルヴィー嬢とクリスタル子爵の婚約が整った事もご報告します」

リーリウムの目がシルヴィー達を見て、柔らかくなる。
シルヴィー達も目でリーリウムに挨拶をして、陛下達に挨拶をした。

「シルヴィー嬢はウィリアムの参謀として良く働いてくれているのは、ウィリアムから聞いている。結婚後は王太子妃となるイザベルの侍女になるから、これからも王太子夫妻を助けてやってくれ」
「勿体ないお言葉。心からお支えします」

こんなあっさりジルコニア家への断罪が終わるとは思えないが、既にジルコニア親子の未来は無い。

次代の王はウィリアムに決まり、パトリックはバロスの王配になる。
側妃は身分を剥奪され、投獄されるだろう。
ジルコニア親子を王家と結びつけるモノは、何も無くなった。

「う……嘘だ。そんな事は無い。嘘に決まってる」
「そ、そうよ。パトリックの婚約者は、あたしなのに」

理解できない状況に、とうとうジルコニア親子が叫び出した。
彼らが叫び出した時、彼らの周りに居た者達は潮が引くように居なくなり、2人だけがぽつんと立っている。

「何を持ってして嘘だと?」

闊達で、鷹揚な笑顔だったジルコン公爵が猛禽類のような鋭い目で睨み、いつの間にかジルコン公爵の側に居たラリマー宰相は、冷徹な視線を向けている。

「何が嘘だ、と聞いている。答えよ、ジルコニア元伯爵」

ジルコニア元伯爵。

ラリマー宰相の一喝に、ジルコニア親子は顔面蒼白になる。

「ジルコン公爵は吾輩を後継者にすると……」
「ああ、服従魔法のアイテムでわしの意識を抑え込んでいた時にそんな事、言ってたな」

ジルコニア元伯爵の罪が1つ暴かれた。

「わ、吾輩はそんな物……」
「使って無い、とどの口が言う?もっとも、あの程度の物、すぐに解除できたがな」

ジルコン公爵の獰猛そうな目が、冷たく笑っている。

「ですが、閣下程強い魔力を持たないものは支配されて、意に沿わない行動をとっておりましたよ」

ラリマー宰相の手にはまた、別の書類が渡されている。

「……あの書類、揃えたのは貴方ね」

シルヴィーがチラッとアーネストを見て、唇の動きだけで問いただせば、実に清々しい笑顔が返って来た。

「わ、吾輩は……」
「偽りを口にしない方がいいですぞ。真実の蔦にその首を絞められたくなければ、な」
「ぎゃあああ」
「ひぃぃ」

悲鳴が上がり、会場のもの達の目が一斉に、ジルコニア元伯爵達の足元に向けられた。
まるで有刺鉄線のような蔦が、2人の足に絡み付いて、ギシギシと音がしそうな程締め上げていた。

「これはカインの作った魔道具?」
「いや、カインの部下で、アレに家族を殺された錬成士が作った」

アーネストの言葉に、シルヴィーの目は悲しげに閉じられた。

どれだけの人間を苦しめて来たのだろう。
己の欲望を満たす為に、何人もの人間を殺して、いくつもの家族を不幸にして来た。

このまま黙っていれば蔦は間違いなく首に絡み付き、首が切れる程締め上げるだろう。
でも、それでは法が無くなってしまう。どれ程の悪人でも、法の裁きなしに処刑するのはただの私刑だ。

「ユーリファスお爺様」

シルヴィーは、この騒ぎを止められる人に自制を求めた。
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