106 / 114
ジルコニア家の断罪。
しおりを挟む
この舞踏会でデビューする令嬢令息達は親と共に陛下への挨拶の為、名前を呼ばれるのを待っている。
シルヴィーは前回の舞踏会で既にデビューしているから待つ必要はないが、ジルコン公爵様の思惑に加担している為、アーネストと共にジルコン公爵家の側に居た。
「ジルコン公爵閣下」
案内の係のものが、ジルコン公爵に声を掛ける。
公爵だけで無く、リーリウムやカノコ達も頷き、陛下の前に移動した。
「久しいなユーリファス」
「ご無沙汰しております」
無難な挨拶を交わし、ジルコン公爵が満面の笑みでリーリウム達を陛下に引き合わせた。
「武者修行で20年も家を出ていた息子が戻り、新しい家族が増えました」
美辞麗句もなく、直球勝負の様に聞こえるが、今の一言でジルコニア伯爵は立場を失った。
歓談で少し賑やかになっていた会場が、一瞬にして静まり返る。
ジルコニア伯爵は、社交会でかなりの権勢を振り回していたが、全てジルコン公爵の後ろ盾が有ってのもの。
いずれはジルコン公爵の名を継ぐものとして見られていたが、その夢はたった今、泡の様に弾け飛んだ。
「リーリウムか、久しいな」
「陛下もご健勝で」
偽物を立てた、と騒ぐ事も陛下の一言で潰された。
陛下と顔見知りであるリーリウムの事を誰が偽物だ、と言い掛かりを付けられるものか。
「陛下、我が妻の姪になったシルヴィー嬢とクリスタル子爵の婚約が整った事もご報告します」
リーリウムの目がシルヴィー達を見て、柔らかくなる。
シルヴィー達も目でリーリウムに挨拶をして、陛下達に挨拶をした。
「シルヴィー嬢はウィリアムの参謀として良く働いてくれているのは、ウィリアムから聞いている。結婚後は王太子妃となるイザベルの侍女になるから、これからも王太子夫妻を助けてやってくれ」
「勿体ないお言葉。心からお支えします」
こんなあっさりジルコニア家への断罪が終わるとは思えないが、既にジルコニア親子の未来は無い。
次代の王はウィリアムに決まり、パトリックはバロスの王配になる。
側妃は身分を剥奪され、投獄されるだろう。
ジルコニア親子を王家と結びつけるモノは、何も無くなった。
「う……嘘だ。そんな事は無い。嘘に決まってる」
「そ、そうよ。パトリックの婚約者は、あたしなのに」
理解できない状況に、とうとうジルコニア親子が叫び出した。
彼らが叫び出した時、彼らの周りに居た者達は潮が引くように居なくなり、2人だけがぽつんと立っている。
「何を持ってして嘘だと?」
闊達で、鷹揚な笑顔だったジルコン公爵が猛禽類のような鋭い目で睨み、いつの間にかジルコン公爵の側に居たラリマー宰相は、冷徹な視線を向けている。
「何が嘘だ、と聞いている。答えよ、ジルコニア元伯爵」
ジルコニア元伯爵。
ラリマー宰相の一喝に、ジルコニア親子は顔面蒼白になる。
「ジルコン公爵は吾輩を後継者にすると……」
「ああ、服従魔法のアイテムでわしの意識を抑え込んでいた時にそんな事、言ってたな」
ジルコニア元伯爵の罪が1つ暴かれた。
「わ、吾輩はそんな物……」
「使って無い、とどの口が言う?もっとも、あの程度の物、すぐに解除できたがな」
ジルコン公爵の獰猛そうな目が、冷たく笑っている。
「ですが、閣下程強い魔力を持たないものは支配されて、意に沿わない行動をとっておりましたよ」
ラリマー宰相の手にはまた、別の書類が渡されている。
「……あの書類、揃えたのは貴方ね」
シルヴィーがチラッとアーネストを見て、唇の動きだけで問いただせば、実に清々しい笑顔が返って来た。
「わ、吾輩は……」
「偽りを口にしない方がいいですぞ。真実の蔦にその首を絞められたくなければ、な」
「ぎゃあああ」
「ひぃぃ」
悲鳴が上がり、会場のもの達の目が一斉に、ジルコニア元伯爵達の足元に向けられた。
まるで有刺鉄線のような蔦が、2人の足に絡み付いて、ギシギシと音がしそうな程締め上げていた。
「これはカインの作った魔道具?」
「いや、カインの部下で、アレに家族を殺された錬成士が作った」
アーネストの言葉に、シルヴィーの目は悲しげに閉じられた。
どれだけの人間を苦しめて来たのだろう。
己の欲望を満たす為に、何人もの人間を殺して、いくつもの家族を不幸にして来た。
このまま黙っていれば蔦は間違いなく首に絡み付き、首が切れる程締め上げるだろう。
でも、それでは法が無くなってしまう。どれ程の悪人でも、法の裁きなしに処刑するのはただの私刑だ。
「ユーリファスお爺様」
シルヴィーは、この騒ぎを止められる人に自制を求めた。
シルヴィーは前回の舞踏会で既にデビューしているから待つ必要はないが、ジルコン公爵様の思惑に加担している為、アーネストと共にジルコン公爵家の側に居た。
「ジルコン公爵閣下」
案内の係のものが、ジルコン公爵に声を掛ける。
公爵だけで無く、リーリウムやカノコ達も頷き、陛下の前に移動した。
「久しいなユーリファス」
「ご無沙汰しております」
無難な挨拶を交わし、ジルコン公爵が満面の笑みでリーリウム達を陛下に引き合わせた。
「武者修行で20年も家を出ていた息子が戻り、新しい家族が増えました」
美辞麗句もなく、直球勝負の様に聞こえるが、今の一言でジルコニア伯爵は立場を失った。
歓談で少し賑やかになっていた会場が、一瞬にして静まり返る。
ジルコニア伯爵は、社交会でかなりの権勢を振り回していたが、全てジルコン公爵の後ろ盾が有ってのもの。
いずれはジルコン公爵の名を継ぐものとして見られていたが、その夢はたった今、泡の様に弾け飛んだ。
「リーリウムか、久しいな」
「陛下もご健勝で」
偽物を立てた、と騒ぐ事も陛下の一言で潰された。
陛下と顔見知りであるリーリウムの事を誰が偽物だ、と言い掛かりを付けられるものか。
「陛下、我が妻の姪になったシルヴィー嬢とクリスタル子爵の婚約が整った事もご報告します」
リーリウムの目がシルヴィー達を見て、柔らかくなる。
シルヴィー達も目でリーリウムに挨拶をして、陛下達に挨拶をした。
「シルヴィー嬢はウィリアムの参謀として良く働いてくれているのは、ウィリアムから聞いている。結婚後は王太子妃となるイザベルの侍女になるから、これからも王太子夫妻を助けてやってくれ」
「勿体ないお言葉。心からお支えします」
こんなあっさりジルコニア家への断罪が終わるとは思えないが、既にジルコニア親子の未来は無い。
次代の王はウィリアムに決まり、パトリックはバロスの王配になる。
側妃は身分を剥奪され、投獄されるだろう。
ジルコニア親子を王家と結びつけるモノは、何も無くなった。
「う……嘘だ。そんな事は無い。嘘に決まってる」
「そ、そうよ。パトリックの婚約者は、あたしなのに」
理解できない状況に、とうとうジルコニア親子が叫び出した。
彼らが叫び出した時、彼らの周りに居た者達は潮が引くように居なくなり、2人だけがぽつんと立っている。
「何を持ってして嘘だと?」
闊達で、鷹揚な笑顔だったジルコン公爵が猛禽類のような鋭い目で睨み、いつの間にかジルコン公爵の側に居たラリマー宰相は、冷徹な視線を向けている。
「何が嘘だ、と聞いている。答えよ、ジルコニア元伯爵」
ジルコニア元伯爵。
ラリマー宰相の一喝に、ジルコニア親子は顔面蒼白になる。
「ジルコン公爵は吾輩を後継者にすると……」
「ああ、服従魔法のアイテムでわしの意識を抑え込んでいた時にそんな事、言ってたな」
ジルコニア元伯爵の罪が1つ暴かれた。
「わ、吾輩はそんな物……」
「使って無い、とどの口が言う?もっとも、あの程度の物、すぐに解除できたがな」
ジルコン公爵の獰猛そうな目が、冷たく笑っている。
「ですが、閣下程強い魔力を持たないものは支配されて、意に沿わない行動をとっておりましたよ」
ラリマー宰相の手にはまた、別の書類が渡されている。
「……あの書類、揃えたのは貴方ね」
シルヴィーがチラッとアーネストを見て、唇の動きだけで問いただせば、実に清々しい笑顔が返って来た。
「わ、吾輩は……」
「偽りを口にしない方がいいですぞ。真実の蔦にその首を絞められたくなければ、な」
「ぎゃあああ」
「ひぃぃ」
悲鳴が上がり、会場のもの達の目が一斉に、ジルコニア元伯爵達の足元に向けられた。
まるで有刺鉄線のような蔦が、2人の足に絡み付いて、ギシギシと音がしそうな程締め上げていた。
「これはカインの作った魔道具?」
「いや、カインの部下で、アレに家族を殺された錬成士が作った」
アーネストの言葉に、シルヴィーの目は悲しげに閉じられた。
どれだけの人間を苦しめて来たのだろう。
己の欲望を満たす為に、何人もの人間を殺して、いくつもの家族を不幸にして来た。
このまま黙っていれば蔦は間違いなく首に絡み付き、首が切れる程締め上げるだろう。
でも、それでは法が無くなってしまう。どれ程の悪人でも、法の裁きなしに処刑するのはただの私刑だ。
「ユーリファスお爺様」
シルヴィーは、この騒ぎを止められる人に自制を求めた。
70
あなたにおすすめの小説
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる