[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。

紅月

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後日談 パトリック編

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バロスに来て早くも3年が過ぎた。

最初は居心地が悪かったが仕方ない。
僕は、大国アレキサンド王国の敵には冷酷無慈悲の王太子ウィリアムの実弟。
国の乗っ取りを疑う者が多かったせいだ。
だが、それも薄れて来たのに最近、何故だかシンシアが僕を避けている。

「シンシア?」
「すみません、もう少しお顔を……」

シンシアの顔には、嫌悪感の様な冷たさは無いが、避けられるのは悲しい。

「シンシア、僕は何か、君の気に入らない事でもしたのか?避けられるのは悲しいよ」

僕は悲しげに眉を寄せ、シンシアを見詰めると、シンシアの顔が赤くなった。
今は夫婦の寝室。メイドも居ないからちゃんとシンシアの気持ちを知りたいから、ちょっと強引に抱き締めてみた。

「避けているのではありません。は、恥ずかしいだけです」

何、この可愛い僕の奥さんの台詞。

「恥ずかしい?僕達は結婚して、夫婦になったんだよ。愛しい妻に触れたいのは当然だろ」
「ですが、侍女や他の婦人達がパトリックには私では無い愛する方がいらっしゃると……」

何処の馬鹿者の話か知らないが、随分と舐めた真似をする奴らが居るみたいだな。

「シンシア、僕が君以外を愛する?ありえないね。他人の噂なんて気にする必要はないよ」
「ですが……」

話を聞くと、どうやらシンシアの愛人を狙う馬鹿な男達が、欲望丸出しに自分の手が付いた女達を使い、僕達の仲を引き裂こうとしている様だ。

麗しい王太女のシンシア。
病弱だった頃とは違い、彼女は美しくなった。
それが余計に馬鹿な男達の欲望を膨らませた様だ。
此方はまだ子飼いのものが少ない。さて、どうしようかと悩んでいると、フワリと1通の手紙が届いた。

「どなたから?」

こんな手紙の送り方をするのは1人しかいない。

「シルヴィーだよ。驚いたな、シルヴィーは何でもお見通しの様だ」

シルヴィーからの手紙をシンシアに見せると、目を見開いて驚いた。

「愛しい人。これは有効活用しないとね」

僕の言葉にシンシアは優しい笑みを浮かべ、頷いてくれた。


王宮では何時も何かしらの集まりがある。
次の日は夜会が開かれる予定だ。
僕達はその夜会に揃って出席した。
いつもは彼女の立場を考え、一歩引いたエスコートをしていたが、今日はシンシアの腰を抱き寄せ、密着したエスコートをしている。

「シンシア」

彼女に馴れ馴れしく声を掛けたのは、この騒ぎの張本人。

「バッソ伯爵令息」
「いやだな、いつもみたいにロンと呼んでくれよ」

幼馴染で一時はシンシアの婚約者候補であった彼の態度は馴れ馴れしいを通り越して、横柄だ。

「バッソ伯爵令息、私に馴れ馴れしくしないで。パトリックに誤解されたら私、生きていられない」

シンシアが僕に甘える様にピッタリ寄り添う。

「ど、どうしたんだいシンシア?君らしくない」
「バッソ伯爵令息は目が悪くなった様ね。愛する夫に妻が甘えるのは当たり前でしょ」
「だ、だが……」

バッソが焦り出している。当然だ、僕達の不仲説をこれから広め、傷心のシンシアを丸め込み愛人になろうとしていたのを初っ端から潰されたのだから。

さて、どう切り出そうか。

「バッソ伯爵令息、失礼ですが貴方様の何処がパトリック殿下に優っているのでしょうか?」

援軍は意外なところから来た。

「ドラス伯爵婦人。お久しぶりです。体調は如何です?」

先日、婦人が体調を崩した、とシンシアの親族でもあるドラス伯爵本人から聞いたので、アレキサンド王国の薬や医師を手配した。

「パトリック殿下のお陰でもうすっかり」

晴れやかな笑顔に頷いた。
彼女は社交界でも力がある。味方に付ければ、と言う思いもあったが、見返りを求めない思いやりを僕はシルヴィーから学んでいたから見返りなど期待しないで彼女に手を差し伸べた。

「さて、話を戻しますが、貴方の何処がパトリック殿下よりシンシア王女殿下のお心を掴むものがあるのです?」

彼女の言葉に周りの者達が苦笑する。
ドラス伯爵婦人の質問に、バッソの方がオロオロしだす。

「もう一度伺います。貴方が大国アレキサンド王国の現在王太子であるウィリアム殿下の実弟で、アレキサンド魔術学園を主席で卒業なされたパトリック殿下に優ってる物はなんですの?」
「じ、実弟?パトリック殿下は側妃の息子の筈だ」
「愚かです事。これほど公になっている事も知らないとは」

ドラス伯爵婦人の言葉に、夜会に揃っている貴族達がバッソを冷たい目で見ていた。

「情報は鮮度が命とシルヴィー様が良く仰ってました」

シンシアが敬愛するシルヴィーは、いつも言っていた。
僕もシルヴィーほどでは無いが、情報はこまめに調べている。

「シンシア、嘘を吐く者は自分に不利な情報は耳に入れないものだよ」
「そうでしたわ。頭がお花畑な方は、自分に都合の悪い事は聞かなかったですから」

ドラス伯爵婦人が不思議そうな顔でシンシアを見ている。

「シンシア、ドラス伯爵婦人が困っているよ。頭がお花畑と言う言葉、此方では使う必要がなかったから誰も理解出来ていないよ」
「まぁ、ドラス伯爵婦人。アレキサンド王国では、自分勝手で他者を踏み躙っても自分だけ幸せになりたい、と考える者を頭がお花畑、と呼んでいたの」

シンシアが説明するとドラス伯爵婦人は、ふぅ、と溜息を漏らす。

「確かに、我々貴族は王家と王国の為に努力をしている者達ばかりですから。ですが、国が安定した途端、情けないものです」

嘆く様に扇で顔を隠すドラス夫人の姿に他の貴族達も頷いている。

「苦難を耐えて下さった皆様には感謝をしております。また、他国のものである僕の事も受け入れて下さる心の広さには感服しております」

きちんと礼をしていなかったから、僕は感謝の言葉を口にした。

シルヴィーから貰った情報は、この愚か者が無駄な事をした時使うか。
頭の中で色々考えているうちに、夜会の空気が変わっていた。
何処か、僕に対して拒絶感があった貴族の目が、態度が柔らかくなっている。

「お二人の仲が睦まじい事に安堵いたしました。後は世継ぎの誕生が待たれるだけの様ですわ」

兄上の下で貴族達の腹の探り合いは鍛えられているから解る。今、僕はバロスの社交界に受け入れられた。

「ドラス伯爵婦人、お耳を……」

シンシアが頬をうっすら染め、何かを囁いている。途端、ドラス伯爵婦人が満面の笑みを浮かべた。

「パトリック、後でお話があるの」

頬を染めて微笑むシンシアに、期待が高まる。

「それは、早く聴きたいな。ドラス伯爵婦人、今日は僕達はこの辺で失礼します。後は任せても宜しいですか?」
「ええ、勿論ですとも。パトリック殿下、改めて申し上げるものでは無いかもしれませんが、バロスの未来をお守りくださった事、深く感謝しております」
「愛する人の愛するものを守るのは当然です」

僕の言葉に多くの貴族達が頭を下げている。
どうやら僕は兄上を頼らず、立てる様になったみたいです。

「ねぇシンシア。その話は僕が一番最初に聞きたかった、て言ったら怒るかい?」
「怒りませんが、殿方の中で一番最初にお知らせしたかったのは、パトリック、貴方ですから、喜んでくれますか?」

優しい笑みのシンシアを抱き寄せ、耳元で囁いた。
でも、それは僕達の夫婦だけの秘密だ。
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