【完結】黄金の檻、緋の鎖

comacomainu

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秘密

4-2.

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土砂降りの雨が吹きつける夜だった。
雷鳴が空気を引き裂き、稲妻がガラス窓を繰り返し青白く照らす。
サンザは、いつものようにレオの部屋の扉を静かに閉め、数人の護衛とともに長い廊下を消えるように去っていった。
その足音が完全に遠ざかるのを待つ間、レオは息を殺して、広い寝台の上で身体を丸くしていた。

ーードォン!!

けたたましい雷鳴が轟いた。
その轟音に掻き消されるようにと祈りながら、レオは寝台脇のガラス窓に勢いよく体当たりした。
割れたガラスが鋭い音を立てて砕け散り、激しい雨と冷たい夜風が室内に吹き込んでくる。

「何事だ!」

騒音に驚いた衛兵が、部屋の扉を乱暴に開けて駆け込んできた。
彼らは割れた窓と、空になった寝台を見て驚愕の声を上げた。

「客人が消えた! 陛下へご報告を!」

部屋の奥、大きな飾り棚の陰に隠れていたレオは、彼らがいなくなる隙を見計らい、廊下に飛び出した。




レオの存在は限られた人間にしか知らされていないはず。
騒ぎにならないよう、大がかりな捜索は出来ないだろうと踏んでの行動だ。
それが、レオの逃亡を可能にする唯一の希望だった。
身をかがめて、なるべく音を立てないよう、大理石の床を滑るように進む。

角を曲がろうとした瞬間、濡れた中庭の渡り廊下にサンザを見つけた。サンザは、ハーランだけを伴って歩いていた。
咄嗟に、レオは近くの太い円柱の影に身体を押し付けた。
雨と雷鳴のおかげで、彼の息づかいはかき消されている。




「陛下、今宵はハルバ様のもとへ行かれますか」

「ああ、一度部屋に戻ってから向かう。新しい妻は嗅覚が鋭く、嫉妬深い」

サンザはククッと笑った。

「お身体の方は大丈夫ですか?」

「ああ、レオを抱いたばかりだ、すこぶる調子は良い。しばらくは問題ない」

サンザの声は雨音を貫いて、冷たく響いた。

「レオを抱いた後でなければ男として役に立たないなど、なんとも厄介な体質になったものだ」

ぴくりと肩を揺らしたハーランがおもむろにサンザの前に身を乗り出した。
その時、慌てた様子の側近が一人、前方の渡り廊下から駆け込んできた。

「殿下! おめでとうございます! 今しがた医局からお知らせが!正妃様、ご懐妊の兆候が見られるとのこと! 明日の医官の診察後に、公にされる手はずとなっております!」

その知らせを聞いたサンザは足を止めた。
彼の顔に、それまで見せたことのない、底知れぬ喜びが浮かんだ。

「……そうか。ようやくか……」

サンザのその顔を見て、レオは愕然とした。
自分がサンザにとって単なる幸運を連れてくる道具であり、目的が果たされれば価値がなくなる存在なのだと、この瞬間、完全に理解した。

サンザとハーランは、何も気づかずにレオの前を通り過ぎていく。
レオが身を潜めた柱を過ぎた瞬間、サンザは立ち止まった。
嗅ぎ慣れた甘い香り、それはレオの肌から常にかすかに立ち上っていた、特別な香りだった。

サンザは急いで辺りを見回し、廊下の隅々まで目を凝らした。彼の鋭い視線が、レオが隠れていた柱をかすめる。
しかし、そのときには遅かった。
レオは、サンザが立ち止まるよりも早く、柱の影から飛び出し、走り去った後だった。
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