【完結】黄金の檻、緋の鎖

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新しい幸せを

12.

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城へ強制的に連れ戻されて数日。
久しぶりに訪れた貴賓室は、相変わらず豪奢な調度品で埋め尽くされていた。
レオの母は今も賓客として手厚く遇されていたようだった。
何よりも、母の顔色は見違えるほど健康的だった。貧民街での過酷な生活や、城に来てから常に晒されていた緊張と不安は、すっかり薄れていた。

「母さん」

「レオ」

母は立ち上がり、ほっとしたような表情でレオの手を握った。その手が温かく、力を取り戻していることが、レオの胸に小さな安心感をもたらした。
レオは数日前に偶然父に会ったことを告げた。
母は目を伏せ、かつての夫に対し、すでに感情の繋がりを持たない、ただ過去を思いやるだけのような遠い声で尋ねた。

「あの人は、元気だった?」

「うん、相変わらず酒は手放せないようだったけど」

母の表情にその一瞬だけ苦痛がよぎった。
二人のあいだに張り詰めた沈黙が落ちる。
互いに言いたいことは多すぎるのに、どれも口に出せない。
母が父という呪縛からようやく解放されつつあることを思うと、余計な言葉でその均衡を乱したくなかった。

その時だった。
コン、コン。
規則正しいノックが響き、扉がわずかに開いた。

「イリア様」

城での母の仮の呼び名が呼ばれ、一人の男性が入室した。ラウラ国の騎士団長の制服を身にまとったその姿は、一瞬にして部屋の空気を格式高いものに変えた。
騎士団長はレオの姿に気づき、わずかに驚いた表情を見せたが、すぐに礼儀正しく柔らかにお辞儀をした。

「すまない、先客だったか」

「いいえ、息子です」

母は嬉しそうに微笑み、答えた。

「これはこれは、では君がレオか」

騎士団長はレオを優しく見つめた。その眼差しに劣情のようなものはなく、ただ純粋に出会いを喜んでいるものだった。

「レオ、こちらは騎士団長のソナック様よ。先日から、わたしの警護をしてくれているの」

母は少しだけ誇らしげに騎士団長を紹介した。警護という言葉の裏に、深い信頼と、それ以上の親密さが漂っているのを、レオは敏感に察した。
ソナックは、後ろ手に持っていた大ぶりの花束を、ためらうことなく母に差し出した。

「私の屋敷の庭で咲いた薔薇がとても綺麗だったものでな。これをあなたに渡したくて持って来た」

鮮やかな深紅の薔薇。その光景は敬意と優しさに満ちていた。

「表で待機しているから、何か用があればいつでも呼んでくれ」

「ありがとうございます」

ソナックが深々と一礼して部屋を出ていく。
花束を受け取り、団長の背中を見送る母の頬が、ほんのりと少女のように赤らんでいるのをレオは見逃さなかった。

「とても優しそうな方だね」

「ええ。でも騎士団長様だから、とてもお強いのよ? 奥様を早くに亡くされ、おひとりでお嬢様をお育てになったそうよ。おかげで男勝りに育ってしまって、とおっしゃっていたわ」

母は笑った。

「いつか、お屋敷に来て欲しいとお誘いいただいたの……私のような者がいいのかしら?」

それは、一人の女性としての喜びと、守られている幸せに満ち足りた微笑みだった。
レオは胸の奥でじんわりと安堵を感じていた。
母が幸せを取り戻している。
母の静かな幸せこそ、レオが唯一望んだことだった。
自分は父から母を救うことも、守ることもできなかった。けれど、これからはソナックが母に愛を与えてくれるだろう。
レオは、その事実に寂しさを覚えつつも、どうかこれからの母が幸せに満たされるようにと、強く願うだけだった。



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