【完結】君の夜に消える。

comacomainu

文字の大きさ
2 / 14

2.

しおりを挟む
恋に落ちたのは渡会が先だった。
二年の冬休みに入る前日、同じクラスの徳村を校舎裏に呼び出し、玉砕覚悟で告白をした。
徳村が女癖の悪い男だという噂は日頃から耳にしていた。一人の女とひと月も続いたことがなく、三股四股は当たり前。
近隣の女子高生を妊娠させただの、女子大生を中絶させただの、果ては人妻を寝とって家庭をめちゃめちゃに壊しただのーー
徳村にまつわる悪評は、数え切れないほどあった。

そんな人間に、自分の一番の弱点を晒すことは大きな賭けだった。
同性しか愛せないという性癖を、いつか脅迫の材料にされるかもしれないという不安はあった。
けれど、それ以上に、この恋焦がれる切なさの方がずっと勝っていた。

色を入れた赤い髪がさらさらと揺れる様も、うなじを隠す不揃いの襟足も、ほどよく筋肉のついた長い手足も、厚みのある胸も、広い背中も。
見ているだけで、鼓動が早くなる。
思い浮かべるだけで、熱にうかされたように頭がぼんやりとしてしまう。
徳村のこと以外、何も考えられなくなってしまった。
そのせいで、常に全国トップクラスを保っていた成績にまで陰りが出始めていた。

予備校模試で九十パーセントをゆうに越えていた第一希望大学の合格確率が、五十パーセントにまで落ちた時、焦りを感じると共に覚悟が決まった。
駄目でもいい、今の凝り固まった状態から抜け出るきっかけが欲しかった。

年が変わろうとしていた十二月の終わり、渡会は徳村に気持ちを打ち明けた。
同じクラスとはいえ、大して親しくもない男に突然呼び出されて、徳村は終始、怪訝な顔をしていた。

『好きです。嫌じゃなければ、俺と付き合ってください』

数え切れない浮名を流していた徳村も、男に告白されるという経験はさすがになかったのだろう。しばらく声も出せず、固まっていた。
沈黙は、とてつもなく長く感じられた。
これは拒否の答えの代わりかもしれない。諦めで硬直が溶けかけた頃、ようやく徳村が口を開いた。

「いいよ」

彼は不敵に笑っていた。

『優等生のあんたがどんな味なのか、すごく興味があるからさ』

その日のうちに身体を要求された。
男と一回試してみたかったんだよね、徳村は興味津々といった風に、校舎裏で渡会の服を脱がしにかかった。
断られるものと思い込んで、心の準備すらしていなかった渡会はうろたえた。
せめて人目のつかない場所で、と、生徒会室へ連れて行くと、徳村はドアを開けるや否や渡会を床へ押し倒し、コンドームの袋を制服のポケットから取り出した。
どうしてそんなものを持ち歩いているのかーーそんな心の疑問が顔に出ていたのだろう、「孕ませたくねえからな。持ち歩いてんのは常識だろ? いつどこで必要になるかわかんねえし、現に今だって活躍してんじゃん」、徳村は飄々と言った。

「ああ、そっか。あんたは男だから孕まないのか。生の方が気持ちいいの?」

「……わからない」

「わからないって、どういう意味だよ?」

「したことがないから、わからない」

「前も後ろも? 冗談だろ?」

渡会が黙り込んでいると、笑っていた徳村が、唐突に顔を顰めた。
面倒臭いことに関わってしまった、浮かんだ表情からそんな思いがはっきりと読み取れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...