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恋に落ちたのは渡会が先だった。
二年の冬休みに入る前日、同じクラスの徳村を校舎裏に呼び出し、玉砕覚悟で告白をした。
徳村が女癖の悪い男だという噂は日頃から耳にしていた。一人の女とひと月も続いたことがなく、三股四股は当たり前。
近隣の女子高生を妊娠させただの、女子大生を中絶させただの、果ては人妻を寝とって家庭をめちゃめちゃに壊しただのーー
徳村にまつわる悪評は、数え切れないほどあった。
そんな人間に、自分の一番の弱点を晒すことは大きな賭けだった。
同性しか愛せないという性癖を、いつか脅迫の材料にされるかもしれないという不安はあった。
けれど、それ以上に、この恋焦がれる切なさの方がずっと勝っていた。
色を入れた赤い髪がさらさらと揺れる様も、うなじを隠す不揃いの襟足も、ほどよく筋肉のついた長い手足も、厚みのある胸も、広い背中も。
見ているだけで、鼓動が早くなる。
思い浮かべるだけで、熱にうかされたように頭がぼんやりとしてしまう。
徳村のこと以外、何も考えられなくなってしまった。
そのせいで、常に全国トップクラスを保っていた成績にまで陰りが出始めていた。
予備校模試で九十パーセントをゆうに越えていた第一希望大学の合格確率が、五十パーセントにまで落ちた時、焦りを感じると共に覚悟が決まった。
駄目でもいい、今の凝り固まった状態から抜け出るきっかけが欲しかった。
年が変わろうとしていた十二月の終わり、渡会は徳村に気持ちを打ち明けた。
同じクラスとはいえ、大して親しくもない男に突然呼び出されて、徳村は終始、怪訝な顔をしていた。
『好きです。嫌じゃなければ、俺と付き合ってください』
数え切れない浮名を流していた徳村も、男に告白されるという経験はさすがになかったのだろう。しばらく声も出せず、固まっていた。
沈黙は、とてつもなく長く感じられた。
これは拒否の答えの代わりかもしれない。諦めで硬直が溶けかけた頃、ようやく徳村が口を開いた。
「いいよ」
彼は不敵に笑っていた。
『優等生のあんたがどんな味なのか、すごく興味があるからさ』
その日のうちに身体を要求された。
男と一回試してみたかったんだよね、徳村は興味津々といった風に、校舎裏で渡会の服を脱がしにかかった。
断られるものと思い込んで、心の準備すらしていなかった渡会はうろたえた。
せめて人目のつかない場所で、と、生徒会室へ連れて行くと、徳村はドアを開けるや否や渡会を床へ押し倒し、コンドームの袋を制服のポケットから取り出した。
どうしてそんなものを持ち歩いているのかーーそんな心の疑問が顔に出ていたのだろう、「孕ませたくねえからな。持ち歩いてんのは常識だろ? いつどこで必要になるかわかんねえし、現に今だって活躍してんじゃん」、徳村は飄々と言った。
「ああ、そっか。あんたは男だから孕まないのか。生の方が気持ちいいの?」
「……わからない」
「わからないって、どういう意味だよ?」
「したことがないから、わからない」
「前も後ろも? 冗談だろ?」
渡会が黙り込んでいると、笑っていた徳村が、唐突に顔を顰めた。
面倒臭いことに関わってしまった、浮かんだ表情からそんな思いがはっきりと読み取れた。
二年の冬休みに入る前日、同じクラスの徳村を校舎裏に呼び出し、玉砕覚悟で告白をした。
徳村が女癖の悪い男だという噂は日頃から耳にしていた。一人の女とひと月も続いたことがなく、三股四股は当たり前。
近隣の女子高生を妊娠させただの、女子大生を中絶させただの、果ては人妻を寝とって家庭をめちゃめちゃに壊しただのーー
徳村にまつわる悪評は、数え切れないほどあった。
そんな人間に、自分の一番の弱点を晒すことは大きな賭けだった。
同性しか愛せないという性癖を、いつか脅迫の材料にされるかもしれないという不安はあった。
けれど、それ以上に、この恋焦がれる切なさの方がずっと勝っていた。
色を入れた赤い髪がさらさらと揺れる様も、うなじを隠す不揃いの襟足も、ほどよく筋肉のついた長い手足も、厚みのある胸も、広い背中も。
見ているだけで、鼓動が早くなる。
思い浮かべるだけで、熱にうかされたように頭がぼんやりとしてしまう。
徳村のこと以外、何も考えられなくなってしまった。
そのせいで、常に全国トップクラスを保っていた成績にまで陰りが出始めていた。
予備校模試で九十パーセントをゆうに越えていた第一希望大学の合格確率が、五十パーセントにまで落ちた時、焦りを感じると共に覚悟が決まった。
駄目でもいい、今の凝り固まった状態から抜け出るきっかけが欲しかった。
年が変わろうとしていた十二月の終わり、渡会は徳村に気持ちを打ち明けた。
同じクラスとはいえ、大して親しくもない男に突然呼び出されて、徳村は終始、怪訝な顔をしていた。
『好きです。嫌じゃなければ、俺と付き合ってください』
数え切れない浮名を流していた徳村も、男に告白されるという経験はさすがになかったのだろう。しばらく声も出せず、固まっていた。
沈黙は、とてつもなく長く感じられた。
これは拒否の答えの代わりかもしれない。諦めで硬直が溶けかけた頃、ようやく徳村が口を開いた。
「いいよ」
彼は不敵に笑っていた。
『優等生のあんたがどんな味なのか、すごく興味があるからさ』
その日のうちに身体を要求された。
男と一回試してみたかったんだよね、徳村は興味津々といった風に、校舎裏で渡会の服を脱がしにかかった。
断られるものと思い込んで、心の準備すらしていなかった渡会はうろたえた。
せめて人目のつかない場所で、と、生徒会室へ連れて行くと、徳村はドアを開けるや否や渡会を床へ押し倒し、コンドームの袋を制服のポケットから取り出した。
どうしてそんなものを持ち歩いているのかーーそんな心の疑問が顔に出ていたのだろう、「孕ませたくねえからな。持ち歩いてんのは常識だろ? いつどこで必要になるかわかんねえし、現に今だって活躍してんじゃん」、徳村は飄々と言った。
「ああ、そっか。あんたは男だから孕まないのか。生の方が気持ちいいの?」
「……わからない」
「わからないって、どういう意味だよ?」
「したことがないから、わからない」
「前も後ろも? 冗談だろ?」
渡会が黙り込んでいると、笑っていた徳村が、唐突に顔を顰めた。
面倒臭いことに関わってしまった、浮かんだ表情からそんな思いがはっきりと読み取れた。
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