【完結】君の夜に消える。

comacomainu

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後日、生徒会室内の荒れようを見た後輩たちが驚くかもしれないが、今は片付ける気力がなかった。
家に帰ってから謝罪の連絡をして、適当に誤魔化しておくしかない。

徳村と廊下に出ると、渡会は部屋の電気を消した。
すると、非常灯だけが灯る薄い夕闇の中に落とされた。
ドアを閉めて、鍵をかける。
踵を返すと、ごく間近に徳村が立っていたのに驚いた。
目線の位置に徳村の唇がある。キスをするのにちょうどいい身長差だと、初めて抱かれた日に言われたのを思い出した。
顎を引いて、渡会は無言で歩みを早めた。

ガラス窓の近くを歩くのはなんとなく怖くて、教室寄りに歩いていると、徳村が肩を並べて歩き出した。

「外の風、酷くなってきてるな」

徳村がスマホをポケットから取り出す。
明かりが、徳村の顔をぼんやりと浮かび上がらせる。

「……さっきが一番のピークだった。今はだいぶんおさまってきてる方。これからだんだん弱くなっていくと思う」

「そうか。でも電車、このぶんじゃ止まってんだろ」

「徳村は家が目と鼻の先なんだから、電車が止まってても関係ないじゃん」

「お前のことだよ」

「止まってたら歩いて帰るだけだ」

「……じゃあ、電車が動くまで、うちに来る?」

思わず立ち止まって見上げる。
はっとした顔の徳村が飛び込んできた。
うろたえたように視線を宙にさまよわせて、やがてぽつりと呟いた。

「……いざとなったら、惜しくなったかも?」

初めて見る、釈然としない、奇妙な表情だった。
意図を読み取ろうと渡会が見つめていると、気を取り直したように、徳村は渡会の肩に手を回した。

「うちに来いよ、渡会」

引き寄せられて、耳元で、なあ、と囁かれる。昨日までなら間髪置かずに頷いていた、甘い誘いだった。

「……やめろよ。俺ら、別れたんだから。別れた途端に相手の家に行くなんておかしいだろ」

拒むとやはり困惑した顔で、徳村は「まあ、そうだよな、普通」と呟いた。

******

西棟の生徒用玄関は鍵が締まっていた。靴を持って職員用玄関に回ると、こちらもしっかり施錠されていた。
やはり校内には自分達以外、誰も残っていないようだ。
もし守衛がここを見回った後だったとしても、宿直室は屋外にあるから玄関にまた引き返してくる。
守衛の吐き込まれたスニーカーが靴棚にあるのを確認して、渡会と徳村は大荒れの外界へと足を踏み出した。

「こんなんじゃ傘なんか全然役に立たねえよ。差しても折れるのがオチだって」

折り畳み傘を広げようとする渡会に、徳村が呆れた声を出す。足元をどこから現れたのか、空き缶がカラカラカラと転がっていく。
近所の畑から飛ばされて来たのだろう緑色のビニールシートが、校門脇の植木に引っ掛かってばさばさと慌ただしげに泳いでいた。

「お前、眼鏡外せば? この風じゃ吹き飛ばされるぞ」

「外したら何も見えなくなる」

「そんなん、俺が……」

そこで徳村は言い澱み、有無を言わさず渡会の眼鏡を奪い取って、自分のシャツのポケットに差し込んだ。

「何すんだよ!」

「お前って、ほんと可愛くねえよな!」

ここにきて可愛いと言われたいわけじゃない。黙りこんで睨んでいると、徳村は不快感を全身に漲らせて、渡会を置いて先に歩き出した。

「女なら腕組んできて、危ない怖いーって絶対甘えてくるぞ」

通りには人影はなかった。まばらに車が二人の脇を走り抜けていくだけだ。
風音にかき消されまいと、知らず知らずにお互いに声が大きくなっていた。

「俺は女じゃないっ」

「そんなのわかってるっ」

徳村は止まって振り返ると、渡会に手を差し出してきた。

「手を貸せよ、ほら。見えないんだろ、つまずくぞ」

「いらない」

首を振って拒めば、徳村はほとんど怒鳴るように言った。

「駅までだから! 駅についたらちゃんと眼鏡返すし。あとは勝手にひとりでどこへでも行けばいいだろっ」

「だって、お前に触りたくない。今は非常時でもなんでもないっ」

「お前、あんなの本気に取るなよ。悪かったよ、きつく言い過ぎたっ」

いとも簡単に前言撤回する。あの言葉がどれだけ自分を傷つけたか、優しさの欠如したこいつは思い計ることも出来ないのだ。
徳村は渡会の手を掴んだ。
けれど、すぐさま振り払った。
そんな渡会の態度に、自棄になったように徳村は渡会の手首を握って歩き出した。
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