異世界人は余計な事しか教えない

三月叶姫

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1.異世界人 山森真人

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 翌日、朝から城内では慌ただしく人が行き来していた。
 友好同盟国の定例会は、主催国であるアレイシス国の王城内で行われる。
 各国の首脳陣を乗せた馬車が到着する度に出迎え、簡単な挨拶を済ませ、王族用の客室へと案内をする。

 友好同盟を結んでいる国は全部で4つ。カダム国、ナイル国、ダリウスト国、そして我が国アレイシス国である。

 最初に城へ到着したのは、カダム国の馬車であった。

「フィリップ王子はますます父親に似てきましたなぁ? 今日はよろしく頼みますよ」

 そう声をかけながらフィリップ王子を見る目に憎悪の色を滲ませているのはカダム国王であり、アレイシス国王の義兄である。
 アレイシス国の後継者争いに敗れた後、まだ王が存在しなかった隣国のカダム国の王となった。しかしアレイシス大国の10分の1にも満たなく、国益となる資源も少ない領土に追いやられたと、アレイシス国王に対して強い憎しみを抱いている。
 その隣では一言も言葉を発すること無く、冷たい視線をフィリップ王子に送るカダム国王妃が付き添っている。
 そんな二人に、フィリップ王子は何も言わず、無表情のまま軽く礼をするだけであった。
 カダム国王は一瞬軽蔑する様な目線を送ると部屋へと案内されて行った。

 それから間もなく、今度はナイル国の馬車が到着した。

「兄さん久しぶりですね。フィリップ王子、私の息子も今回は初めての参加となるから仲良くしてくれよ」

 穏やかな笑顔で声をかけてきたのはナイル国王であり、アレイシス国王の義弟である。
 兄達の後継者争いには参加せず、アレイシス国王やフィリップ王子にも友好的な態度で接してくるが、その裏ではフィリップ王子の暗殺を何度も企てている腹黒王である。フィリップ王子を亡きものにし、自分の息子を次期アレイシス国王の座につかせようと企むが、ことごとく失敗に終わっている。
 ナイル国王の後ろではその息子であるヴィート王子が立っている。
 フィリップ王子は作られた笑顔でナイル国王に挨拶をするが、息子の事は見えていないようだ。

「ちっ、忌々しいヤツめ」

「ヴィート、態度を慎め。」

 小さく悪態をついたヴィートにナイル国王は冷たく言い放った。
 父親と違って悪意が全く隠せていない所はまだまだ子供の様だ。

 最後に、予定時間を少し遅れてダリウスト国の馬車が到着した。
 二年前までアレイシス国と長きに渡り戦争を繰り広げていた。その戦いもフィリップ王子の活躍により軍を壊滅させられた。フィリップ王子とは戦場で顔を合わせたことはあるが、久々の対面であり、最も警戒すべき相手である。

「おお、フィリップ王子。先の戦争では大変世話になりましたが、昨日の敵は今日の友と言います。これからは仲良くしようではないですか」

 予想に反して、ダリウスト国王は物腰柔らかくフィリップ王子へ話しかけ、握手を求めてきた。
 フィリップ王子は表情を変えず、差し出された手を握りかえす。
 その時、ダリウスト国王の後ろに控えていた女性が前に出てきた。

「フィリップ王子、今日は私の娘を連れて参りました。スーラン、こちらへ」

「フィリップ王子、お初にお目にかかります。スーランと申します。以後お見知り置き願います」

 ニコリと微笑み、丁寧にお辞儀をして挨拶をするスーランだが、そのドレスは豊満な胸元を強調するように大きく開いており、こういう場ではあまり相応しくない物を着用している。
 ダリウスト国王の狙いはおそらく今回の定例会でフィリップ王子と娘を引き合わせて、いずれは婚約者にでもと目論んでいるのだろう。

 あまり外見で判断したくはないが、同じ女性としてなんとなく分かる。この女、絶対に性格悪い。

 当のフィリップ王子は、スーランを前につまらなそうな顔で小さくため息を付いた。
 その態度にスーランは一瞬ショックを受けた様に表情を歪ませたが、すぐにニコリと穏やかな笑みを浮かべる。若干目元はピクピクしているが。

 なにはともあれ、友好的な関係とは程遠い同盟国の首脳陣がこの王城へと無事集まった。


 そして数時間後、定例会が始まった。

 定例会の会場に集められた首脳陣は、長方形の机の決められた席の椅子に座り、その後ろには各国の護衛騎士が立つ。
 前方にあたる席にはアレイシス国王が座っている。

 私もフィリップ王子と王妃の護衛として後ろに立っているが、私の事をよく知らない他国の人間は物珍しげに見ている。
 ナイル国の護衛騎士は、先程すれ違いざまに「君、持ち場間違えてんじゃねぇの?」とニヤニヤしながら嫌味を飛ばしてきた。
 しかし女神の様に優しい心を持つ私はそんな言葉を気にすることなく笑みを浮かべてかわした。
 そんな私をフィリップ王子の隣に座っているダリウスト国王が見てフッと鼻で笑った。

「おや? フィリップ王子の後ろにいるのは、噂に聞く武闘大会で優勝したとかいう侍女ですか? こんな小娘にやられるなんて、アレイシス国の男達も貧弱なもんですなぁ?この様子では国の軍事力も地に落ちたんじゃないですかなぁ?」

 そんな父親の話を聞いて、隣に座っているスーランはクスクス笑いながら、私を蔑む様に目線を送りながら父親に耳打ちしている。

「お父様、きっと私にはとてもはしたなくて出来ない事をして、男性陣を誘惑したに違いありませんわ」

 何が私にはとてもはしたなくて出来ない事なのか。
 というか、その発想にいたる時点で令嬢としての品位を疑う。しかもさっきから艶っぽい瞳でフィリップ王子をチラ見している。
 フィリップ王子は目も合わせていないが、スーランの向かいの席に座っているナイル国王子のヴィートはその豊かな胸に釘付けである。

 真人様の授業も低レベルでくだらないものだが、ここにいる人達も案外似たようなレベルなのかもしれない。

「話をする前に……皆に周知してもらいたい件がある」

 アレイシス国王はそう言うと、扉の前に立っている家臣に目配せをした。その男は部屋から一旦退室すると、すぐに看守と鎖で拘束された状態の昨日の侵入者を連れて戻ってきた。
 その侵入者を見た瞬間、ダリウスト国王がビクリと反応する。

 恐らくこの男が今回の黒幕なのであろう。

 そう確信を持ちながら、私は特に表情を変えることなく、国王の言葉を待つ。
 侵入者には昨日までは無かった外傷が増えており、右手は腕から指先まで包帯でぐるぐる巻きにされている。
 今朝のうちに尋問は済んでいるのだろう。
 しかし今日は朝からずっと王子周辺の警戒に当たっていたため、私の所に尋問の結果報告はまだ来ていない。
 まあ、特に気に止める必要もないだろう。

「この男は数日前からこの城の従者として忍び込み、何やら怪しい動きをしていた。それを捕らえて、今朝尋問をし終えた所だ。その話によると、どうやら我が国の軍事に関わる機密事項を書き出した報告書を持ち帰ろうとしていたようだ」

 国王の話をフィリップ王子はあまり関心が無い様子で聞きながら、目の前に配られた紅茶のカップを手に取った。

「しかし捕らえた時にその報告書を持っていなかった。どうやら捕える直前に何処かに隠した様だが……何処に隠したかは吐いたのか?」

「はい、つい先程。こちらです」

 看守が懐から取り出したのは、私も見覚えのある一冊の本だった。

「この男は、持っていた報告書をフィリップ殿下の本棚にあったこの本の中に挟んだと」

 ブッフウウウウウッッッッ‼

 突然フィリップ王子が口に含んでいた紅茶を盛大に吹き出した。

「な!? どうした!?」

「まさか……! 毒が!?」

 ヴィート王子の言葉に反応して、紅茶を手にしていた人達はティーカップを投げるように手放した。

「ああああ! 毒があああああ!」

 不幸にもフィリップ王子の向かいに座っていた、カダム国王妃の顔面とドレスに王子の吹き出した紅茶が直撃したため、王妃はパニック状態に陥っている。

「失礼します」

 私はカダム国王妃の傍に行くと、光の速さで紅茶を拭うフリをしながら魔法で紅茶の成分を吸収し、ドレスに染み込んだ水滴を1ミリも残さずシミごと綺麗に消し去った。
 カダム国王妃は不思議そうな顔をしながら、完全に乾いたドレスに手をあてて確認している。

「ご安心ください。毒味は済ませております。確かに、先程までは何者かにより毒が混入されておりましたが、今の紅茶には毒は入っておりません」

 私の言葉に、一斉にため息が流れ出た。
 毒に関しては先程、私が自ら確認し混入されていた毒入りの紅茶は処分して全て新しい物を用意した。その後も警戒を怠っていないので、毒が入っているということはない。
 私の言葉に、先程毒を疑ったヴィート王子の顔がみるみる青くなっていく。
 こういう場では毒味が必ず行われるのだが、経験不足故に知らなかったのだろう。
 フィリップ王子とは違い、相当ぬるい環境の元で育ってきたようね。

 よりも……だ。
 正直、今はそんなことどうでもよい。

 紅茶に毒が入っていたとか、誰が犯人だとかよりも、もっと深刻な問題が目の前に発生している。
 ヴィート王子よりも、更に真っ青になって震えるフィリップ王子が持つティーカップからは、先程からビチャビチャと紅茶がこぼれ落ちている。

「フィリップ王子。落ち着いて下さい」

 小声で話しかけ、私はその手からティーカップを受け取り、ゆっくりとソーサーの上へ戻す。

 パリンッッ。ピキィッッ。

 私がソーサーへカップを置いた瞬間、ソーサーは真っ二つに割れ、私の持っていたカップの持ち手部分が折れた。

「……失礼しました。どうやら不良品だった様ですね」

 私は取れた持ち手をそのままテーブルの上に置き、何事も無かったかのように王子の後ろへと下がった。
 急に挙動がおかしくなった私達を見て、国王が「お前たち大丈夫か?」と目線で語りかけてきているが、全然大丈夫ではない。

 フィリップ王は顔面蒼白になったまま、この世の終わりの様な表情で目を見開いたまま固まっている。
 私も先程から瞬きするのも忘れて一点を見つめている。

 私とフィリップ王子の視線は先程提示された一冊の本に向けられている。

『アレイシス国の歴史と栄光の軌跡 第一章』

 その本の中には、フィリップ王子の誰にも知られる訳にはいかない、ある秘密が隠されているのだった。

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