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第一章.惚れ薬を飲んだ男
12.ルーカスside_彼女を守れなかった証
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エリーゼは黙ったまま、悲痛な面持ちで右手で左手を隠すように握っている。
彼女が何故そんな顔をするのか?
何が彼女を悲しませているのか…心配する気持ちとは裏腹に、今はそれ以上に体の奥底から湧き上がる嫉妬で頭がどうにかなりそうだ。
とにかく今は1秒でも早く、この男をエリーゼの前から消し去ってやりたい。
「ジル、公爵は帰った。お前もさっさと行った方がいいんじゃないか?」
俺が突き放すような言葉を放っても、ジルはエリーゼの様子を見つめたままだ。
今すぐその頭を掴んでエリーゼへ向ける視線を引き離してしまいたい。だが、彼女の前でそんな姿を見せる訳にはいかない。
苛立つ俺の視線に気付いたのか、ジルは俺を見て穏やかな笑みを浮かべた。
「ああ、大丈夫だよ。私の役割は公爵が屋敷に帰るまでの時間稼ぎだったからね。君が十分すぎるくらい時間稼ぎをしてくれたおかげで、もうその必要もなくなったよ。今頃、私の部下達が証拠を揃えて公爵が帰ってくるのを待っているはずだからね」
「それならここに用事はもう無いはずだ。早く帰れ」
「いや……ちょうど今、君に用事が出来たよ。少し2人で話そうじゃないか」
不自然な程に笑顔を浮かべるジルの表情に、このまま引き返す気が無い事が窺える。
腹黒いヤツめ。
エリーゼは何故こんな奴に左手を見せようとしたのか。
「その目、懐かしいな。あの飴玉を拝借した時と同じじゃないか」
ああ、そんな事もあったな…。
あの時も同じ感情だった。
ジルに飴玉を奪われた時、まるでエリーゼを奪われたかの様に錯覚し激高した。
そして今、彼女の心がコイツに奪われようとしているのではないかと気が気でない。
「ごめんねエリーゼ嬢。もう少しだけルーカスを借りるね」
ジルは急に俺と肩を組む様に体を寄せると、勝手にエリーゼに話しかけた。
「おい、何勝手な事を…」
言い返そうとした時、ジルが俺の耳元で小さく囁いた。
「君も気になってるんじゃないか?何故彼女が手袋を外して私に見せようとしたのか…」
その言葉に俺の言葉は途切れた。
確かに気になるが……エリーゼにその事を問いただす勇気は俺にはない。
今の俺の心境では酷い言葉を言ってしまうかもしれない。
「エリーゼ、本当にすまない…。もう少しだけ、待ってて欲しい。ダン、エリーゼを頼む」
そう告げた俺は、エリーゼの顔をまともに見ることが出来なかった。
「ああ。エリーゼ嬢、行きましょう」
「はい…」
その返事だけで、エリーゼの気持ちも沈んでいるのが伝わり、息苦しくなる。
ダンに連れられ、エリーゼは部屋から出ていった。
扉が閉まると、俺はすぐさまジルの胸ぐらを掴みあげた。
「お前がエリーゼに手袋を外せと言ったのか?」
「まさか。彼女が自分から外したんだよ」
ジルは動じることなく、この事態を想定していたかのように余裕の笑みを俺に向けている。
エリーゼが自分からだと?
たった数分間、話をしただけのやつに?
そんな事信じられない。信じたくもない…。
「嘘をつくな。エリーゼが何も無くあの左手を見せるはずが無いだろ」
「ああ、私が彼女の左手の動きの不自然さに気が付いたんだ。その事を聞いたら、経緯についても話してくれたよ。すごいじゃないか。自分の身を挺して君を守ったなんて…。だからその傷はルーカスを守った証だねって讃えたんだよ」
なんだと?
俺を守った証だと?
俺にとっては…彼女を守れなかった証でもあるのに…!!
「ふーん…どうやらエリーゼ嬢よりも、ルーカスの方があの左手を気にしている様だね」
「なに…?」
ジルの胸ぐらを掴む手に力が入り、怒りも混じって震えだした。
「私が自分の体に刻まれた傷跡を、武勇伝と一緒に彼女に話すと興味津々で聞いていくれてたよ。そうしてるうちに、彼女から左手の手袋を外しだしたんだ。私に彼女の誇りを見せようとしてくれたんじゃないか?」
「誇りだと!?あの傷跡がか!?騎士のお前と一緒にするな!!」
「でもあの時の彼女は生き生きとしていたよ?お前が来たせいで一気に興醒めしちゃったようだけど」
「何も知らないヤツが…ふざけた事を言うな!!」
勝手な事を言うジルを殴りたい気持ちを俺はギリギリの所で耐えていた。
いつまでもヘラヘラと気持ち悪い笑顔を向けてくる態度も気に入らない。
だが次の瞬間、ジルの顔からは笑顔が消えていた。
彼女が何故そんな顔をするのか?
何が彼女を悲しませているのか…心配する気持ちとは裏腹に、今はそれ以上に体の奥底から湧き上がる嫉妬で頭がどうにかなりそうだ。
とにかく今は1秒でも早く、この男をエリーゼの前から消し去ってやりたい。
「ジル、公爵は帰った。お前もさっさと行った方がいいんじゃないか?」
俺が突き放すような言葉を放っても、ジルはエリーゼの様子を見つめたままだ。
今すぐその頭を掴んでエリーゼへ向ける視線を引き離してしまいたい。だが、彼女の前でそんな姿を見せる訳にはいかない。
苛立つ俺の視線に気付いたのか、ジルは俺を見て穏やかな笑みを浮かべた。
「ああ、大丈夫だよ。私の役割は公爵が屋敷に帰るまでの時間稼ぎだったからね。君が十分すぎるくらい時間稼ぎをしてくれたおかげで、もうその必要もなくなったよ。今頃、私の部下達が証拠を揃えて公爵が帰ってくるのを待っているはずだからね」
「それならここに用事はもう無いはずだ。早く帰れ」
「いや……ちょうど今、君に用事が出来たよ。少し2人で話そうじゃないか」
不自然な程に笑顔を浮かべるジルの表情に、このまま引き返す気が無い事が窺える。
腹黒いヤツめ。
エリーゼは何故こんな奴に左手を見せようとしたのか。
「その目、懐かしいな。あの飴玉を拝借した時と同じじゃないか」
ああ、そんな事もあったな…。
あの時も同じ感情だった。
ジルに飴玉を奪われた時、まるでエリーゼを奪われたかの様に錯覚し激高した。
そして今、彼女の心がコイツに奪われようとしているのではないかと気が気でない。
「ごめんねエリーゼ嬢。もう少しだけルーカスを借りるね」
ジルは急に俺と肩を組む様に体を寄せると、勝手にエリーゼに話しかけた。
「おい、何勝手な事を…」
言い返そうとした時、ジルが俺の耳元で小さく囁いた。
「君も気になってるんじゃないか?何故彼女が手袋を外して私に見せようとしたのか…」
その言葉に俺の言葉は途切れた。
確かに気になるが……エリーゼにその事を問いただす勇気は俺にはない。
今の俺の心境では酷い言葉を言ってしまうかもしれない。
「エリーゼ、本当にすまない…。もう少しだけ、待ってて欲しい。ダン、エリーゼを頼む」
そう告げた俺は、エリーゼの顔をまともに見ることが出来なかった。
「ああ。エリーゼ嬢、行きましょう」
「はい…」
その返事だけで、エリーゼの気持ちも沈んでいるのが伝わり、息苦しくなる。
ダンに連れられ、エリーゼは部屋から出ていった。
扉が閉まると、俺はすぐさまジルの胸ぐらを掴みあげた。
「お前がエリーゼに手袋を外せと言ったのか?」
「まさか。彼女が自分から外したんだよ」
ジルは動じることなく、この事態を想定していたかのように余裕の笑みを俺に向けている。
エリーゼが自分からだと?
たった数分間、話をしただけのやつに?
そんな事信じられない。信じたくもない…。
「嘘をつくな。エリーゼが何も無くあの左手を見せるはずが無いだろ」
「ああ、私が彼女の左手の動きの不自然さに気が付いたんだ。その事を聞いたら、経緯についても話してくれたよ。すごいじゃないか。自分の身を挺して君を守ったなんて…。だからその傷はルーカスを守った証だねって讃えたんだよ」
なんだと?
俺を守った証だと?
俺にとっては…彼女を守れなかった証でもあるのに…!!
「ふーん…どうやらエリーゼ嬢よりも、ルーカスの方があの左手を気にしている様だね」
「なに…?」
ジルの胸ぐらを掴む手に力が入り、怒りも混じって震えだした。
「私が自分の体に刻まれた傷跡を、武勇伝と一緒に彼女に話すと興味津々で聞いていくれてたよ。そうしてるうちに、彼女から左手の手袋を外しだしたんだ。私に彼女の誇りを見せようとしてくれたんじゃないか?」
「誇りだと!?あの傷跡がか!?騎士のお前と一緒にするな!!」
「でもあの時の彼女は生き生きとしていたよ?お前が来たせいで一気に興醒めしちゃったようだけど」
「何も知らないヤツが…ふざけた事を言うな!!」
勝手な事を言うジルを殴りたい気持ちを俺はギリギリの所で耐えていた。
いつまでもヘラヘラと気持ち悪い笑顔を向けてくる態度も気に入らない。
だが次の瞬間、ジルの顔からは笑顔が消えていた。
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