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勇者の彼女に手を出してはいけない
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「リーチェ……僕は本当は、そんなに強い人間じゃないんだ」
それはヴァイスが魔族との戦いに明け暮れていた時、私にだけ見せてくれた、彼の本当の姿だった。
何かに怯える様に「死にたくない」「殺したくない」と、時には涙を流しながら震えていた。
私はそんな彼に寄り添い、励まし続けた。
「二人だけで誰も居ない所へ逃げちゃおっか」
そんな事を言ってみた事もあった。
「それは無理だよ。僕は、『勇者』だからね」
そう返してくると、ヴァイスは弱々しく笑った。
歴代最強の勇者と言われた彼の心は、こんなにも脆くて今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
それでも、ヴァイスはこの世界の人達を見放さなかった。
どんなに傷だらけで心も体もボロボロになっても、最後まで『勇者』であり続けた。
だから私も、そんな彼に相応しい彼女でないと――
目を覚ますと辺りは真っ暗だった。
カビ臭い。それに冷たい床。手を伸ばすと棒のような物が並んでいる。
これもしかして、檻の中なんじゃ……?
「はい!では次の商品はこちらでぇーす!!黒い髪の美少年!!奴隷として好きに働かせるなり、愛玩として夜のお供にするなり使い方は自由!さあ、欲しい方は札を上げてください!!」
聞こえてきたのはハイテンションな男の声。その内容に激しい嫌悪感を感じる。
すぐに次々と数字を叫ぶ人達の声が響いてくる。
前に、聞いたことがある。
この世界には人をお金で買う人身売買をしている輩がいると。
……ってことは……私のこの状況って、そういう事?
はあぁぁぁ。本当に。この世界の人達にはうんざりさせられるわね。
――
そんな訳で、私も商品として皆の前にお披露目された訳だけど。
勇者の恋人だからどうっていうのよ。
どっかの誰かに自慢でもするの?勇者の彼女を奴隷にしてるのーって?そんな事されたら目の前で噛みついてやるわよ。ふんっ。
さて、視界もはっきりしてきたし、私を買おうとする奴らの顔をしっかり拝んでやろうじゃないの。
その卑しい笑みなんて、ヴァイスが現れたら凍りつくに決まって……あら?
私が睨みつけた相手は、笑うどころか目を見開いたまま固まっている。
その表情はまるで魔王でも見るかの様に酷く怯えた様子で、絶望感さえ見て取れる。
「うわぁぁぁぁああああ!!!!」
突然、別の男が絶叫と共に立ち上がり、外へと逃げ出した。
その人だけじゃない。一人、もう一人と次々と立ち上がり逃げ出し始めた。
必死の形相で我先にと逃げ惑う人と、そんな人達を不思議そうに見ている人。
大半の人がすでに会場から姿を消した。
どうゆうこと?まだヴァイスは来ていないはずだけど――
「おい!!誰だこの女を連れてきた奴は!!」
その声の主は、さっき路地裏で出会った男だった。
「はい!私ですけど。神父から勇者の女が手に入ったって聞いたから高く売れると思ったんですが」
「馬鹿野郎!!お前なんてことしてくれたんだ!!この裏の社会ではなぁ、絶対に手を出しちゃいけない奴がいるんだよ!!皇族の人間と、勇者の女。いや、例え皇族の人間に手を出したとしても、勇者の女だけは駄目なんだよ!!」
「え、でも勇者は魔王との戦いで死んだんじゃないです?」
「そんなはずがねぇだろが!!お前は新人だから知らないんだろうが、あの恐ろしい男がそう簡単に死ぬはずが無い。だってあの男の姿はまるで……あああああ!!もう俺は逃げる!!奴がここへ来る前にな!!!」
その時、逃げようとした男の頭上から鋭く尖った黒い光が降り注ぎ、刃へと姿を変え男を取り囲むように次々と突き刺さった。
「ひいいぃぃっ!!!」
次の瞬間、ドッガゴオオオオオオ!!!!と、落雷の様な音と共に天井を突き破って何かが猛スピードで落ちてきた。
何!!?隕石でも降ってきたの!!?
その衝撃で私を囲う檻が激しく揺れて、バランスを崩して倒れかけた。が、何かに包まれる様に体が浮いている。
この感覚には覚えがある。私がこけそうになったり、屋根から落ちそうになったりした時、決まって彼はこの浮遊魔法で私を助けてくれるのだ。
ああ、来てくれたのね。
私のヴァイスが――
それはヴァイスが魔族との戦いに明け暮れていた時、私にだけ見せてくれた、彼の本当の姿だった。
何かに怯える様に「死にたくない」「殺したくない」と、時には涙を流しながら震えていた。
私はそんな彼に寄り添い、励まし続けた。
「二人だけで誰も居ない所へ逃げちゃおっか」
そんな事を言ってみた事もあった。
「それは無理だよ。僕は、『勇者』だからね」
そう返してくると、ヴァイスは弱々しく笑った。
歴代最強の勇者と言われた彼の心は、こんなにも脆くて今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
それでも、ヴァイスはこの世界の人達を見放さなかった。
どんなに傷だらけで心も体もボロボロになっても、最後まで『勇者』であり続けた。
だから私も、そんな彼に相応しい彼女でないと――
目を覚ますと辺りは真っ暗だった。
カビ臭い。それに冷たい床。手を伸ばすと棒のような物が並んでいる。
これもしかして、檻の中なんじゃ……?
「はい!では次の商品はこちらでぇーす!!黒い髪の美少年!!奴隷として好きに働かせるなり、愛玩として夜のお供にするなり使い方は自由!さあ、欲しい方は札を上げてください!!」
聞こえてきたのはハイテンションな男の声。その内容に激しい嫌悪感を感じる。
すぐに次々と数字を叫ぶ人達の声が響いてくる。
前に、聞いたことがある。
この世界には人をお金で買う人身売買をしている輩がいると。
……ってことは……私のこの状況って、そういう事?
はあぁぁぁ。本当に。この世界の人達にはうんざりさせられるわね。
――
そんな訳で、私も商品として皆の前にお披露目された訳だけど。
勇者の恋人だからどうっていうのよ。
どっかの誰かに自慢でもするの?勇者の彼女を奴隷にしてるのーって?そんな事されたら目の前で噛みついてやるわよ。ふんっ。
さて、視界もはっきりしてきたし、私を買おうとする奴らの顔をしっかり拝んでやろうじゃないの。
その卑しい笑みなんて、ヴァイスが現れたら凍りつくに決まって……あら?
私が睨みつけた相手は、笑うどころか目を見開いたまま固まっている。
その表情はまるで魔王でも見るかの様に酷く怯えた様子で、絶望感さえ見て取れる。
「うわぁぁぁぁああああ!!!!」
突然、別の男が絶叫と共に立ち上がり、外へと逃げ出した。
その人だけじゃない。一人、もう一人と次々と立ち上がり逃げ出し始めた。
必死の形相で我先にと逃げ惑う人と、そんな人達を不思議そうに見ている人。
大半の人がすでに会場から姿を消した。
どうゆうこと?まだヴァイスは来ていないはずだけど――
「おい!!誰だこの女を連れてきた奴は!!」
その声の主は、さっき路地裏で出会った男だった。
「はい!私ですけど。神父から勇者の女が手に入ったって聞いたから高く売れると思ったんですが」
「馬鹿野郎!!お前なんてことしてくれたんだ!!この裏の社会ではなぁ、絶対に手を出しちゃいけない奴がいるんだよ!!皇族の人間と、勇者の女。いや、例え皇族の人間に手を出したとしても、勇者の女だけは駄目なんだよ!!」
「え、でも勇者は魔王との戦いで死んだんじゃないです?」
「そんなはずがねぇだろが!!お前は新人だから知らないんだろうが、あの恐ろしい男がそう簡単に死ぬはずが無い。だってあの男の姿はまるで……あああああ!!もう俺は逃げる!!奴がここへ来る前にな!!!」
その時、逃げようとした男の頭上から鋭く尖った黒い光が降り注ぎ、刃へと姿を変え男を取り囲むように次々と突き刺さった。
「ひいいぃぃっ!!!」
次の瞬間、ドッガゴオオオオオオ!!!!と、落雷の様な音と共に天井を突き破って何かが猛スピードで落ちてきた。
何!!?隕石でも降ってきたの!!?
その衝撃で私を囲う檻が激しく揺れて、バランスを崩して倒れかけた。が、何かに包まれる様に体が浮いている。
この感覚には覚えがある。私がこけそうになったり、屋根から落ちそうになったりした時、決まって彼はこの浮遊魔法で私を助けてくれるのだ。
ああ、来てくれたのね。
私のヴァイスが――
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