二人の時間2。

坂伊京助。

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銘々な二人。

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私は、お母さんの顔を知らない。お母さんは、あまり体が丈夫ではなかったらしく私を出産してからすぐに亡くなってしまったらしい。玄関に飾ってある写真は、鏡に映る私にとても良く似ている。寂しいともう時もたまにあるけれどその分、お父さんからの愛情を充分過ぎる程に注がれてきた。でも、そんな日常が大きく変わる出来事が起きた。

 お父さんが再婚をすることになった。それに、相手も子連れだと聞かされた時にはさすがに驚いて声も出なかった。再婚をしたことを告げると聞かされた次の日の朝、新婚旅行に行くからしばらくは家に帰らない事と、新しい家の住所が書かれた紙だけをリビングに残してお父さんは、新婚旅行へ行ってしまった。昔から自由で写真を撮りながら世界中を旅をして回っているから家に帰ってこないことは珍しくないけど、生活環境が大きく変わるという事に私の心は不安な気持ちで溢れていた。小さな頃から住んできたこのアパートともお別れと思うと少しだけ寂しい気持ちが芽生えてくる。でも、今日からの新しい生活に向けて気持ちを切り替えて元気に明るくする為に深呼吸をして家を出た。いつもと同じ電車に乗って少し遠くの駅で降りる。お父さんのメモでは、新しい家から新しい学校までは徒歩の通学になると書いてあったから電車の通学も今日で最後。そんなことを考えながら電車に揺られていると目的地の駅に着いた。慣れない駅を抜けてスマホを頼りに学校まで無事に到着した。職員室へ行き担任の先生と一緒に教室へ向かう。口から心臓が飛び出しそうなくらいに鼓動が早まる。教室に入り自己紹介と軽い挨拶を済ませて授業が始まる。幸いクラスの人達は優しい人ばかりで皆、色々と良くしてくれた。なんとか転校初日を無事に終えることが出来た。でも、まだ気を抜くことは出来ない。なぜなら、これから顔も名前も知らない新しい家族に会いに行くからだ。朝と同じようにスマホを頼りに新しい家まで向かっているとそれらしい家に着くことが出来た。思っていたよりも大きな家だなと見とれていると。

「うちに何か用ですか?」と少し低めの声で私に対する明らかな敵意?というか不信感を抱いた女の子の声がした。声の方を見るとそこには、同じ制服を着た一見すると近寄りがたいでも、凛とした雰囲気の女の子がそこにはいた。

「あの、どちら様ですか?見たところうちの制服みたいだけど。」

「美波ですっ!」何を言えばいいのか分からずに自分の名前を思わず名乗ってしまった。

「美波?」

「はいっ!今日からお世話になります、梅澤美波です!」

二人の間に一瞬だけ間が開いた。

「あぁ、新しいお父さんの連れ子ってあなた?」

「はい!よろしくお願いします!」

「私は、理佐よろしく。」

「はい!」

「じゃあ、とりあえず中入ろう。」

「お邪魔しまぁす。」

「自分の家なんだから、ただいまでいいんじゃない?」

「そうなんだけど、初めて上がる家だからなんか、変に緊張しちゃって。」

「そう、じゃあ好きな方でいいんじゃない?」

「うん、そうするね!」

緊張をしたままの美波が、足元に目をやると里佐と自分の靴のほかにもう一つ一回り小さなローファーがある事に理佐も同時に気が付いた。

「あれ、菜緒もう、帰ってきてるんだ。」

「ん?菜緒って?」

「そっか、うち、四人姉妹なんだけどその一番下の妹、菜緒~?。」

そう言って理佐はリビングに入って行く、美波もその後を追いかける。

「あっ!理佐姉、おかえり!っとその後ろの人は誰?」

「どうもー、はじめまして今日からお世話になります、美波でーす。」

「あぁ!!新しいお姉ちゃんかぁ!宜しくお願いします、美波姉!!」

そういって菜緒は美波に勢いよく抱きつく。

「理佐姉と一緒に帰って来たの?」

「いや、そうじゃなくて、、。」

「私が帰って来たら家の前をウロウロしてて怪しかったから私が声かけたの。」

「さすが、理佐姉は優しい!ね?美波姉もそう思うよね?」

「う、うん、声かけてもらえて凄く助かった、ありがとう。」

「べっ、別に困ってたからじゃなくて不審者かなって思っただけだから、じゃあ私、部屋にいるから。」

そう言い放って里佐は一人、リビングを出ていってしまった。

「どうしたの?」

「私、怒らせちゃったかな?」

「違うよ、あれは照れてるんだよ!理佐姉は照れ屋さんだからね!」

「そうなの?それなら良かった。」

 それから私は、菜緒と自分の事から始まって色んな話をした。最初は菜緒ちゃんって呼んでいたけど、家族なんだから名前で呼んでと子犬のような真ん丸な瞳で訴えかけられてしまい結局、菜緒と呼ぶことになった。そして、他の姉妹の事についても菜緒が教えてくれた。まず一番上のお姉ちゃん、名前は瑞穂、おっとりとした性格、天然でドジな所が菜緒曰く見ていて癒されるらしい。そして次が、理佐と双子の由依らしい。双子と言っても二人は二卵性で見た目も中身も真逆と菜緒が言っていた。理佐は学校では副生徒会長をしていて勉強も運動も出来る完璧人間で一方、姉の由依は幾つかの不良グループを束ねるトップでヤンチャな性格だけどピンチの時にはとても頼りになるらしい。そんな感じで二人で楽しく話をしていると、玄関のドアが開く音が聞こえた。

「菜緒~?お友達でも来てるの?今日は美波ちゃんの歓迎パーティがあるって言ったでしょー」

両手にこれでもかと膨らんだスーパーのビニール袋を下げた、長女の瑞穂が帰ってきた。

「おかえり~瑞姉~!」

「あ、おかえりなさい。」

「ただいまぁ~って、あれ?美波ちゃんもう帰って来てたの?サプライズで歓迎会しようと思ってたのにー、菜緒どうする?」

「え~いいじゃん、美波姉も一緒に準備しよ!人数多い方が楽しいし!」

「確かに!さすが菜緒!我が妹ながら関心関心!ところで、理佐は?玄関に靴あったけど?」

「理佐姉は照れて自分の部屋に行っちゃった、せっかく美波姉が来たのにね~?」

「そっか、でも理佐には会ったんでしょ?」

「はい、でも私なんか怒らせちゃったみたいで。」

「大丈夫、気にしない気にしない!たぶん何日か由依が帰って来なくてイライラしているだけだと思うから美波は全然気にしなくて平気だよ!とにかく今日は楽しもう!」

「そうだよ、美波姉の歓迎会なのに楽しまないのはもったいないよ!!」

「う、うん」

 瑞穂、菜緒、美波の三人は和気藹々と夕ご飯の準備をしていた。

「あれ?お醤油がもうない、買ってくるのを忘れた~、わるいけど菜緒買ってきてくれる?あれ?菜緒は?」

「お風呂に入るって言っていました。」

「そっか、あの子お風呂長いのよ~、どうしようかな。」

「あの、私買ってきましょうか?」

「え?いいの?でもお店の場所は?」

「分かりません。」

「どうしようかぁ、そうだ!理佐と一緒に行って来て!」

「え?でも場所さえ教えてもらえれば一人で行きますよ?」

「もう暗くなってくる頃だし可愛い妹を一人で買い物なんて、お姉ちゃん心配!それに理佐とあんまり話してないならちょうど良いと思うよ?」

美波は瑞穂に財布と買い物メモを渡されて二階の理佐のいる部屋へ向かった。部屋のドアには、ネームプレートで由依と理佐のな目が書かれている。美浪は、恐る恐る扉を3回ノックする。

「はい、どうぞ。」

部屋の中からは落ち着いたトーンの理佐の声が聞こえる。

「お邪魔します。」

「どうしたの。」

「お醤油がないから理佐ちゃんと一緒に買ってくるように瑞穂さんに頼まれたんだけど一緒に来てもらってもいいかな?」

「なんで、私?買い物に行くなら菜緒と行けばいいんじゃないの?」

「それが、菜緒ちゃんは今、お風呂に入っちゃってて、」

「どうせ、お姉ちゃんが私と仲良くなる為にとか言ったんでしょ?まぁ別にいいけど。」

「よかった、ありがとう!」

「一緒に買い物に行くだけなのにありがとうって変なの、ふふっ。」

理佐は、その静か静かな表情に小さな笑顔を見せた。

「理佐ちゃんやっと笑った!」

「別に笑ってなんかないしっ、」

そう言って足早にスーパーへと歩きだす理佐の背中を美波は追いかけた。

その後も結局、理佐は美波に話しかけることはなく買い物を終えて二人が言葉を交わすことはなく帰宅した。食卓を美波を含める四人で囲んだがその場にはまだ、由依の姿はない。それまでの生活では食事は主に一人で食べることに慣れていた美波にとって自分以外の誰かと食事をするということは、とても特別なことだった。

夕飯を食べ終え、美波は湯船につかり一日の疲れを癒した。

「お風呂頂きましたぁ。」

「湯加減は大丈夫だった?」

「はい!暖かくて気持ち良かったです!」

「それなら良かったわ、今日は引っ越しと転校が重なって疲れただろうからゆっくり休んでね、寝室は二階に上がって奥の右側なんだけどまだ、荷物が片づけ終わってないから今日は、左側の理佐の部屋で一緒に寝てね!」

「分かりました、ありがとうございます、おやすみなさい!」

「はい、おやすみなさい!」

確か瑞穂さん階段上がって奥の左側って言ってたよね、理佐ちゃんと同じ部屋ってなんだか緊張するなぁ、買い物の時から私の事を避けてるような気がするし。がちゃ。

「誰っ?」

「私です!美波です。」

「え?なんで?あなたの部屋って向かいの部屋じゃなかった?」

「荷物がまだ片付いてないから瑞穂さんが今日はこの部屋で寝てねって言われたんだけど・・・。」

「ふ~ん、じゃあベッド一段目空いてるから寝れば?」

「うん、そうさせてもらうねありがとう、そういえば由依ちゃんって今日いなかったけど、どこか別の所に住んでいるの?」

「あの子なら皆が寝静まった頃に帰ってくると思うけど。」

「そ、そうなんだぁ。」

「どうして?そんなに由依に会いたかった?」

「いやそういうわけじゃなくて、いやっ会いたかったけど一体どんな子なのかなぁっと思っただけで!」

「そんなに急がなくてもその内、会えると思うよ、でも不良だからあまり関わらない方が良いとは思うけどね、それじゃあ明日も早いからおやすみなさい。」

「うん、おやすみ。」

ただの何気ない由依に対する美波の興味は理佐の言葉によって小さな関心が大きな関心へと少しづつ変化をしていくのだった。

不安と緊張の一日を終えて美波はベッドに横になるとすぐに瞼が重くなり深い眠りについた。部屋は二人の静寂が包まれていたが、夜も更けて来た頃に部屋に何者かが息を潜めて入って来た。その何者かは、二段ベッドにゆっくりと近づき美波の寝ている一段目に入り込んできた。深い眠りについていた美波だったが背中に違和感を感じて目が覚めた。こんな夜遅くに一体、誰が自分の布団の中に入って来たのかという疑問を抱いているとその誰かは美波の背中を優しく包み込むように抱きついてきた、ほんのりとタバコの匂いがする。

「おやすみ、理佐。」そう囁くと静かな寝息が聞こえ始めた。背後の寝息の調子に合わせて美波もまた深い眠りについた。

 翌朝、美波の背後には、ほのかなタバコの匂いだけが残っていた。一階のリビングでは、瑞穂と理佐が朝ご飯を作っている。末っ子の菜緒は半分寝ぼけたような状態で朝食が出来上がるのを待っている。美波が起きてきたことに気が付いた瑞穂が昨日の夜は良く寝る事が出来たかと美波に問いかける。

「はい!ぐっすり寝られました!」

しかし、美波の気のせいか心なしか理佐の美波に対しての態度が少しだけ冷たい様な気がした。

「そういえば昨日の夜遅くに由依帰って来てたでしょ?」

「うん、そうみたいだね。」

「え?そうみたいっていつもみたいに理佐の布団に潜り込んで一緒に寝てたんじゃないの?」

「昨日は、私じゃなくて美波と一緒に寝たみたいだよ。」

二人の会話を聞いて美波は昨晩、自分の布団に潜り込んできた誰かが由依だったことを知った。でも、どうして理佐の美波に対する空気が少し冷たく感じたのかは分からなかった。

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