青い月にサヨナラは言わない

Cerezo

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EP2 卵に潜む悪意10 誕生祭の死闘

認め合って

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 炎、雷、風。様々な魔法が乱れ飛ぶ。トツカと月夜が突進し、刀を、拳を化け物に叩きつける。
 しかし、化け物は一歩も引かない。それどころか歩くたびに呪いが溢れ、ぼこぼこと不気味な顔が出てくる。人面ネズミだ。
 ネズミどもは化け物とは反対にこちらへ駆けてきて呪いをまき散らそうとする。

「流石にちょっと厄介だね」

 白い蛇が唸る。先程からあふれたネズミを適宜処理しているが、そのたびにすべての呪いは白い蛇へと吸い込まれていく。
 
「全部吸い込んで平気なの?」
「舐めないで。そこは平気。ただ、殺してもらえないと祓えない」

 夏輝の問いに蛇は鼻息を荒くする。どうやらプライドを傷つけたらしい。不機嫌にびたんびたんと尻尾を振りながら低く唸る。

『このままじゃ、あと三分で結界に到達し、二分で破壊されるわ!』

 トロンが金切り声を上げる。こんな時ばかりは正確に算出してしまうトロンが恨めしい。
 一刻の猶予もない。攻撃の手を緩めてはいないが、一切効いた様子が見えない。舌打ちする瑞雪。全員の顔に焦燥が浮かぶ。

「貫けるだけの火力が俺達に足りていない」
「ギリギリまで瑞雪が溜めて撃つのは?」
「……それでも恐らく足りない」

 俺の言葉に瑞雪は首を横に振る。

「そんなことないでしょ」

 しかし、それを朝陽が否定する。

「昨日使った魔法、あれを使えばまだ勝算はあるんじゃないの?」

 不機嫌そうに、忌々し気に。朝陽は睨むように瑞雪を見る。

「……お前たちまで巻き込む危険性がある。昨日使ったのは仮想現実だったからだ。実用性のない魔法だ。巻き込まれれば最後、魂まで分解されて跡形も残らない」

 確かに、昨日の魔法は恐ろしい魔法だ。巻き込まれたと思うとゾッとする。でも。

(こいつに呪いを振りまかれ、魔物化して死ぬのも嫌すぎるだろ!)

 蛇のおかげで俺たちは無事だ。でも黒間市の人間のどれだけが犠牲になるかわかったもんじゃない。
 そして魔物化した犠牲者たちによる二次災害が起こる。勅使河原はその中で魔物化しなかったやつを捕えてさらなる実験を行うだろう。
 新たに完成した薬で、の無限ループ。最悪だ。

「瑞雪さんしかやれる人、いないと思います。俺達でこれ以上破壊力のある攻撃魔法を使える人はいません。これが現実です。俺もラテアも新しく使えるようになった魔法でも攻撃しているけど、多少傷をつけてもすぐに回復されてる。そもそも俺たちはバランス型って言ったらいいのかな、瑞雪さんや朝陽さんみたいに一芸に特化しているわけじゃないから」

 夏輝が断言する。やはりいつになく強気で、じっと瑞雪を見ている。夏輝は瑞雪がやり遂げられると信じていた。

「そうだな。俺達にあいつをぶっ潰す力はなくても、足止めする力ならある。全力でやる。お前が集中できるように」

 俺の言葉に月夜も頷く。信頼関係はともかく、現状を打破するカギは瑞雪の昨日の魔法なのだ。

「昨日、そもそも俺は結局巻き込まれていない。巻き込まれないように走っていたのもあったが、ちゃんと範囲を制御できていた」

 トツカも頷く。

「お前ならば、できると俺も信じている」

 瑞雪は顔を歪める。苦しそうに、けれどそれだけではなく驚いた様子で。
 彼にしては珍しい、弱気な表情だった。いや、本当の瑞雪はこっちなのかもしれない。何となくそう感じた。

「だーっ、もう!こんなに言ってもダメなら俺が制御手伝ってやるよ!それならいいだろ?ほら、スマホ貸せ!電霊繋ぐから!」
「っ……」

 怯む瑞雪からスマホをひったくる朝陽。

「お前の事はいけ好かないけど、攻撃魔法についてだけは認めてやるって言ってんの!お前だって俺の制御能力は認めてるだろ?」

 朝陽の言葉に瑞雪は目を見開く。瑞雪だけじゃない、その場の全員が多分朝陽を見ていただろう。それも誰もが驚きの表情で。

「なんだよ!そもそも俺に仮想現実だからって勝ったんだからもっと自信持てよ!俺が空しくなるだろ!こんな自信のない奴に負けたなんて!」

 地団太を踏む朝陽。あいつなりに瑞雪を叱咤激励しているんだろう。

「……そう、だな。どちらにせよやらなきゃやられるだけだ。なら……だが、どうなっても知らないからな」

 瑞雪は大きく息を吸って、吐いた。しかし、普段の不機嫌な顔ではなくやや頬が紅潮ている、ほんの少しだけ高揚した顔だった。

「なら、やることは一つだな」
「だね」

 俺と夏輝は走り出す。月夜も続いて。

「瑞雪」

 トツカが一つ、確認するように真っすぐ見つめ名前を呼ぶ。

「好きなだけ血は持っていけ。ただし死なない程度に。足りない分はこっちから貰うから」
「俺ぇ!?」
「当たり前だろう。お前も手伝ってくれるんだろう?」

 親指で朝陽を指し示す瑞雪。それを確認してからトツカはそのまま振り返ることなく刀を構えて走り出す。
 残り時間は僅か。土の鎖を出し、壁を立て、手足を重点的に叩く。そこまでして流石に不快に感じたのか、邪魔だと判断したのか化け物が大きく吠えた。
 どこかで聞いたような声に思える。しかし、今考える事ではないと考えを振り払う。
 耳を劈くような咆哮と共に化け物の足元から無数の影が伸びる。俺達を異物と判断したのだろう。

「迎え撃つよ!」

 勇ましい夏輝の叫び。戦いの最終ラウンドのゴングが鳴った。
 


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